聖女、初心に立ち返る
前回のデイビットの肩書きが王子となってましたが元第二王子に修正しました
今の私は無名、無所属の魔術師だ。
信用を得るには最低限の身分証明が出来るようにならないと。
というわけで冒険者ギルドに来てみたはいいけど、ほとんど誰もいない。
受け付けで暇そうにあくびをしてる職員に、椅子に座って船をこいでいる冒険者らしき人。
こんな光景なのにエルナちゃんは当然のように、受けつけのカウンターに進む。
「やぁ、エルナちゃん。魔物討伐は終わったのかい?」
「はい! こちら、討伐証明です!」
「お、バフォロットか! こいつはいい! 狂暴な魔物が減れば、王都との交流も復活するかもしれん!」
「実は討伐したのはこちらのソアさんです」
「ソア……?」
受け付けの職員に挨拶をしてから、冒険者登録の手続きをする。
必要事項を記入した後は登録試験だ。
こんなものはすぐに、と楽観してたけど内容に驚く。
「4級の魔物、ガリオン討伐に何らかのスキル持ちが条件とは……。厳しすぎませんか?」
「このご時世に冒険者になろうってんだ。そのくらいやってもらわないと意味がない」
「魔物の急増のせいですか」
「それに加えて、近頃は未知の魔物の目撃情報もある。半端な奴が食われて魔物の栄養になっちゃ敵わんよ」
なるほど、そういう事情ならしょうがない。
私もそれなりに冒険者というものに理解があるつもりだ。
聖女時代にはたくさんの冒険者の人達と知り合った。
遠征の際には探索や救援にしろ、現地に詳しい人達がいないと仕事にならない。
そんな時に冒険者の助けが必要になるし、何度も戦いを見てきた。
そうこうしているうちに気がつけば、実力やパーティ分析が趣味になりかけたのを思い出す。
パーティで一致団結して魔物を討伐して、時には遭難者の救助をした。
そして終わったあとの打ち上げ。
皆、面白くて楽しかった。あの頃はよかったな――
「おーい! 正義の為に働いてきたぞぉ!」
「オレ達、自警団のおかげで今日も平和だぁ!」
武装した男達が騒がしく冒険者ギルドに入ってきた。
途端、エルナちゃんの表情が険しくなる。
「お、そこにいるのはエルナお嬢ちゃんじゃないか。無理に冒険者なんてやらなくても、オレ達が養ってやるってのによ」
「あなた達の世話にはなりません!」
「この街の英雄に向かってひでぇ態度だなぁ。今や街の奴らはオレ達に頭が上がらんぜ?」
「脅してお金や食料を強奪してる悪党じゃないですか!」
男達が下品に笑う。
椅子に座ってる冒険者は明らかに狸寝入りしている。
この自警団とかいうのに関わりたくないみたい。
「人聞きが悪いな。あくまで報酬として受け取っているだけなんだぜ?」
「この街にいた勇敢な人達は命をかけて街を守ってくれた! 後から来たならず者の居場所はありません!」
「あのなぁ、そいつら死んだんだよな? だからかわりに守ってやるって言ってんのが……わかんねぇのかッ!」
男の太い腕から繰り出された拳がエルナちゃんの頬を打つ。
エルナちゃんが耐え切れずに倒れ込んでしまった。
私と違って常時、魔力で強化しているわけじゃない。
素の状態だと普通の女の子だから、こうなるのは当然だった。
「うぐっ……!」
「エルナちゃん!」
「ソアさん、すみません……。やっぱりこの街から離れたほうがいいです……」
「ひとまず回復します」
エルナちゃんは私の実力を知っているはず。
この人達をやっつけて下さいとでも言えたはずだ。
だけどこんな状況でも、私の自由を優先してくれた。
助けを求めてもいいのに。
そのくらいやっても、誰も咎めないのに。
「なんだ、こいつ? 見ない顔だな」
「フードをとって顔をよく見せろよ」
「ソアとかいったな。回復魔術が使えるのか? オレ達、自警団に加われよ。そんな田舎娘なんか助けても得しねぇぜ?」
魔物の増加のせいで、街を守る人達が死んでいった。
残ったのは、どこからかやってきた自警団を自称するならず者達。
街の人達は怯えて搾取されている。
そういう事なのかな。
「エルナちゃん。大丈夫ですか?」
「は、はい。何の痛みもありません」
「それはよかったです」
「おいおい、さっきから無視してくれてない?」
この自警団とかいうのは、こんな事態なのに何の危機感もない。
魔物が攻めてきたら、自分達ごと終わりなのに。
それとも、自分達だけで逃げるつもりかな。
それに比べて街の人達は魔物だらけの外になんか、逃げられない。
「……聖女ソアリスなら、颯爽と現れてこんな人達くらいどうにかしましたね」
「ソアリスゥ? あぁ、超魔水で魔力を水増ししてた女か。当時、ガキだったオレだが大笑いしたぜ」
「そうですね。彼女は無様です」
「とんだ茶番だよな。そんな女を聖女とか褒め称えてありがたがってた連中は今どうしてるんだろうな?」
「彼女は償うべきです。こんな事態にしてしまった自分を恥じるべきです」
「でも封印されちまったらしいなぁ? 超魔水で強くなったのによ! ヒャハハハッ! どうした? 寒いのか?」
馬鹿にされて震えてるわけじゃない。
油断して封印されて、20年も不在だった間に王国は変わってしまった。
自分の不甲斐なさに対して、やり場のない怒りがこみあげてくる。
驚いてる場合じゃない。嘆いてる場合じゃない。
立て、ソアリス。
あなたには立ち止まっている時間なんてない。
「この街を掃除しましょう」
「はぁ? なんか言った?」
「この街に自称自警団は必要ありません」
「お前、もしかしてオレ達のこと舐めてる?」
「いいえ、軽蔑してるだけです」
「同じなんだよぉッ!」
エルナちゃんを殴った拳が私にも飛んでくる。
そこへ私の拳を当てると、男の腕がグキリと鳴った。
「おわぁぁぁ! い、いでぇぇ!」
「自称でなければ自警団としての務めを果たして下さい。私はあなた達にとって討伐すべき対象では?」
「ぶっ殺してやる!」
残り三人が武器を抜いて斬りかかってきた。
でもその腕がスッパリと斬れて、続いて足や腰もずるりとずれる。
「え……」
「あ、れ……?」
男達の体が空間と共に分断されつつあった。
「は……あ、れ……」
「お、れ、どう、な……っ……」
男達の意識が途絶える寸前、空間そのものが戻る。
それに伴って、何事もなかったかのように男達が元の状態で立っていた。
でもすぐに腰を抜かして一人は放心状態。
一人は震えが止まらなくなり、一人は絶叫する。
「わあぁああぁぁぁぁッ! な、なに、オレ、なに?!」
「ハァー……ハァー……なんだ、いま、の……」
当人達には何が起こったかもわかってない。
死の恐怖だけはきっちりと理解したみたいだ。
切断直後、つまり死ぬ直前でこの人達に治癒魔術をかけた。
あまりにむごい状態じゃなければ、大体のものは魔術で接合できる。
だけど戦場で体が欠損した人達を助けてあげたけど、心の傷までは消えないみたいで。
それは今、この人達が思い知っているものに似ているかもしれない。
「あ、あ、あぁ……やだ、やだ……」
「ああぁ……ああぁ……」
魔力は命が失われると共に消える。
その魔力の流れの見極めさえ見誤らなければ、こんな事も可能だ。
体が冷たくなり、意識が闇に沈みかける恐怖は誰もが二度と味わいたくないと思う。
何せその闇は冥界への入口なんだから。
「もしこの場に聖女がいたら、同じことをしたでしょうね」
今一度、初心に立ち返ってみた。
近くのものにすがりついて逃げようとしていたり、粗相をしている自警団達にはどうでもいい事だろうけど。
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