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聖女、ショックを受ける

 洞窟を出ると、そこは森の中だった。久しぶりの外の空気を思いっきり吸う。

 ざわめく新緑の音と香りがなつかしく、自然というもののありがたみを再認識した。

 このままのんびりと森林浴を楽しみたかったけど、そうもいかないみたい。

 何せこんなところで、一人の女の子が魔物と戦っている。


名前 :バフォロット

攻撃力:543

防御力:512

速さ :144

魔力 :1


「ハァ……ハァ……! なんで効かないの?!」


 女の子のほうは身なりからして魔術師かな。

 あっちの牛型の魔物は3級に指定されているバフォロットだ。

 二足歩行の牛型の魔物で、ミノタウロスと少し似てる。あっちと違うのは知性が低くて、武器を持ってない点かな。

 ただしその腕力は冒険者の生半可な装備ごと粉砕する。これに勝てるなら、贅沢しなければ冒険者として食べていく事は可能とも言われていた。

 つまり、あれと戦えている時点で女の子の力量が窺える。


名前 :???

攻撃力:2+320

防御力:2+320

速さ :2+320

魔力 :565+100

スキル:詠唱時間半減


 きちんと魔力で補強できているし、魔力も悪くない。

 魔術師は魔力で前衛職並みに身体能力を強化できるのが強みだ。

 詠唱時間半減はかなりのレアスキルで、宮廷魔術師としてのお声がかかるほど。

 持っている杖による魔力増幅値が+100程度じゃなければ、普通に勝てたと思う。

 とはいえ、命を賭けた戦いに"たられば"は無意味か。

 なんて、騎士団長の口癖を思い出した。


「はい、助けますよ」

「え……」


 空間切断でバフォロットの首を落とした。

 時間差で巨体が前倒しになり、森の土に沈む。


「え? な、何なの?!」

「驚かせてすみませんっ! 森の中なので派手な魔術は避けました! 空間魔術だけに魔物は裂けましたけどね!」

「くーかん……?」

「……まぁ、何にせよ無事でよかったです」


 久しぶりに人と接したせいで、テンションの配分を間違えた。


「バフォロットは攻守に優れた手強い魔物です。闇雲に魔術を打つだけでは倒せません。それにはコツがいるのですが……あの。どうかしましたか?」

「いえ、あなたは一体?」

「あ、またしてもすみません。私、ソア……」


 ソアリス、と言いかけた。聖女ソアリスは禁止魔法薬に手を出した犯罪者だ。

 本人と判断される事はないと思うけど、ここは用心して――


「ソアといいます」

「ソア、さん? あの、助けていただいてありがとうございます! 私は冒険者のエルナ! えっと、今のはどうやったんですか?!」

「ここで立ち話するよりも、どこか落ち着ける場所に行きましょう」

「街に戻りましょう! といっても、落ち着けるかどうかはわかりませんが……」


 女の子の表情が暗くなる。なんだか事情がありそうな感じだ。


                * * *


 道中、襲ってきた魔物の数が異常だった。

 あれからさすがにバフォロットクラスの魔物はいなかったけど、それでも違和感が拭えない多さだ。

 魔王が出現して王国に侵攻を始めた時には数が多かったけど、討伐したら落ち着いた。

 だいぶ平和になったと思ったのに、今はなんだかおかしい。

 更に驚くのがエルナちゃんの実力だ。バフォロットには苦戦していたけど、それは単に技術や知識不足からくるものだった。

 きちんとした修練を積めば、もっと伸びると思う。


「着きました。ここがカドイナの街です」

「カドイナ……」


 街の名前を聞いてようやく思い出した。国境に割と近いだけあって、屈強な王国騎士が派遣される街だ。

 ここで実績を積んで王国騎士に見せつければ、正規軍入りの道が開かれる。

 そんな事情もあって、街全体がどこか張りつめていた覚えがあった。

 あったんだけど、今は明らかに活気がない。人通りも少ないし、閉店している店が目立った。


「確か冒険者達もたくさん訪れる街ですよね? ここから騎士団入りを果たした人もいると聞きます」

「20年前の聖女封印事件前はそんな感じだったみたいですね」

「へぇ、20年前の……。え?」

「聖女ソアリスが禁止魔法薬を使用していた事が発覚して、封印された事件ですよ。そのせいで国内は大混乱で大変だったみたいです。まさか知らないんですか?」


 眩暈がしてきた。頭の中で整理が追いつかない。

 聖女ソアリス、つまり私が封印されてから20年も? ウソでしょ?


「私は生まれてませんでしたが、それでも知ってるくらい有名な事件ですよ。そういえば、ソアさんはどこから来たんですか? あんなにすごい魔術を使うなんて、絶対有名な魔術師ですよね!」

「ソウデモナイデス」

「えぇー?! だって魔物を音もなく切断する魔術なんてすごすぎるじゃないですか!」

「ソウデモナイデスヨ」


 キャッキャとはしゃぐエルナちゃんの横で、私は平静を保つのに苦労していた。

 20年、信じたくない。冥球(メトロ)内とこっちじゃ時間の流れが違う?

 それとも私が空間魔術を生み出すのに、それだけの時間をかけていた?

 かけていたかもしれない。何せ他の事を考えている余裕なんてあったら、空間魔術なんて完成しなかったもの。

 魔術式完全理解(マジックマスター)ですら見破れない神話級魔導具、恐るべし。

 ということはあれは魔力や魔術から完全に外れた存在の可能性が高い。というか絶対そうだ。


「エ、エルナちゃん。私、いくつくらいに見えます?」

「はい? そうですね、失礼ですが私とそう変わらないように見えます」


 エルナちゃんも私から見れば15歳前後に見える。少なくとも肉体年齢は16歳のままか。

 封印中という事で、私達が持つ常識で考えてもしょうがないかもしれない。

 それにしても誤算だった。20年後の王国はどうなっているんだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] ステの解説が欲しいです 他の方へのお返事で左が元ステとの事ですが、低過ぎるのに対して右が高過ぎて意味がわかりません 先々に解説あるのですかね?
[良い点] 最新まで読みました 強い聖女主人公いいですね [気になる点] せせらく新緑の音 一応検索しましたがせせらぐ(く)は水音に使うものかと思います 木々だとざわめくとかそよぐとかじゃないでしょ…
[気になる点] 右と左どっちが素のステータスなの?
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