聖女、温泉を掘り当てる
これからやるべきことをまとめてみる。
一つ、王都の正常化。これも細分化すると気が遠くなるほど問題が多い。
治安の悪化、衛生面悪化による疫病の蔓延、食料問題、失業者増加。
これとデイビットが喋った協力者達の排除と捜索。
ハッキリ言ってこれ全部を私が解決するのはかなり厳しい。
でもまずはデイビットの資産を売却したお金でアレを作る事にした。
「空間掌握……」
王都の中心の広場で、空間掌握を大きく展開。
その範囲は地下に及ぶ。私の勘が正しければ、アレが出るはずだ。
「……あった!」
広場の真ん中で怪しげな事をしてるフードかぶりがいるものだから、嫌でも注目される。
身なりもボロボロだし、ここで寝泊まりしてる人が目立った。
この人達からしたら、すぐにでも衣食住が欲しいだろうけど――
「よし! 温泉発見!」
そう、この広場に大衆浴場を作る。
本格的なものは後回しだ。
「地属性上位魔術!」
私の足元を輝く鉱石が形成した槍が貫く。
世界一、硬いと言われているオリハルコンだ。
理論上、砕くのは不可能と言われてる神の鉱石。
オリハルコンで作られたものはあるけど、肝心の原石や鉱脈は未だ発見されていない。
もし発見された際には戦争が起こると言われている。
私も原石はお目にかかった事はないけど一度、オリハルコン製のアイテムを調べる機会をもらって解析した事がある。
その際に自分なりの解析結果を元に疑似オリハルコンを実現してみた。
「うおおぉぉぉ?!」
「じ、地震か!」
慌てさせて申し訳ないけど、これから身も心も洗われる現象が起こる。
くるかな、くるかな。
「来たッ! いけぇ! 癒しの雨!」
叫んだ途端、まず私が温泉の噴水に弾き飛ばされる。
空中に舞い上がった後は、噴水が広場中に降り注ぐ。
「なんだなんだぁ!」
「あっつ! なんで熱湯が!」
ちょっと熱いけど、そのうち慣れる。
当然のようにふわりと着地したところで、次!
「地属性上位魔術!」
重力操作魔術で、噴水地点の地面が見えない何かに押しつぶされたかのように陥没する。
クレーターみたいにへこんで、温泉が段々と溜まっていく。
人間のほうは重力に対して、きちんと反重力で相殺しているから無事だ。
突貫工事もいいところだけど、今の段階ではこれでいい。
「こ、これって温泉じゃないか!」
「浴びろ浴びろぉ!」
「入れ入れぇ!」
老若男女関係なく、全員がボロ服を脱ぎ捨てて温泉に集まる。
一つじゃ足りなそうだから、もう三つほど追加してあげた。
「気持ちいいぃぃ!」
「生き返るぅ……」
「おーい! 君も一緒にどうだ!」
おじさんが手を振って誘ってくれたけど、ささやかに遠慮しておいた。
私もゆっくりしたいけど今は、ね。
この後、王様に派遣してもらった人達と一緒に本格的に工事をしなきゃいけないんだから。
その際にはデイビットにも手伝ってもらうし、今まで見下していた人達の指示を受けて仕事をする事になる。
今回やってもらっている資産売却を終えたら次はこっちだ。
この場所を本格的な大衆浴場にすれば、衛生面は大きく改善されるはず。
後は治療院の増設と治癒師の増員があれば完璧だけど難しい。
一応、リデアにフル活動してもらってるけど焼け石に水だ。
だからここは応急処置をしておくしかない。
「空間……大展開……!」
空間魔術。
最初は神話級の魔導具冥球から脱出するために習得したけど、今はそれだけじゃない。
すべての魔術は使い方次第で、どんな形にも変えられる。
魔術式を知れば知るほど奥が見えなくて。
ワクワクして、どんどん勉強して。
そして人を笑顔にする。
「掌握……王都全域ッ!」
体から魔力が凄まじい勢いで流れ出る。
魔力の大量消費による魔力酔いなんて初めてだ。
頭が痛いし吐き気がして、意識が飛びそう。
でも、私の高い魔力は何の為にある。
こんな時に活かせなくて何が125万だ。
耐えろ、ソアリス!
「根性みせろ聖女ォォォォッ! 最高位治癒魔術ッ!」
空間魔術と高位治癒魔術の複合魔術。
王都全域に治癒魔術を届かせる。
光の雨が降り注ぎ、建物の屋根や地面に落ちると粒子になって拡散。
「なんか……すごく気持ちいい……」
「喉がスゥっとした……」
散った粒子が人を暖かく包む。
温泉に浸かっていた人達も、ここにいない人達も。
路上やベッドで寝込んでいる人も。
果てには動物まで、すべてを癒やす。
「気分が晴れた!」
「頭がスッキリしたな……。どうしちまったんだ?」
「なんだか歌い出したくなってきたぞ!」
次第に人々が活気づく。
どんよりとして湿ったような街の空気が払拭されるようだった。
心なしか空も晴れやかに見える。
遠くから聴こえてくる歓声、飛び立つ小鳥。そよ風が街路樹を揺らす。
自然も喜んでいるのかな。
それはわからないけど、とにかくよかった。
「あぁ……。初めて、本気で魔術を……使ったぁ」
体中の力が抜けて立てなくなった。
そんな私にも気づかないほど、皆の活気で満ち溢れている。
私は少しの間、このままでいい。
きっと長いこと本気で笑ったり喜んだりしてこなかったんだからさ。
それよりも、今の魔術をもっと効率よく使えるようにしなきゃ。
もっと魔術式を工夫すれば、楽に使えるはず。
こんな風に未熟にも、倒れるような事にはならないはず。
魔王や邪神を倒したからといって、精進に終わりはない。
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