聖女、皆の成長を喜ぶ
敵は地上と地中の二つから攻めてきていた。
地上の敵は目視で確認できず、地中の敵は掘り進んでくる。
魔力感知がないと相手の奇襲を許して反撃する間もなく全滅だ。
それほど恐ろしい相手なのだけど、ここにうろたえる人はいない。
すでに地上と地中、二つの敵の位置を察知してそれぞれがバラけていた。
「そこだッ!」
デュークさんが何もないように見えるところを斬りつけた。
空中に浮かんだシルエットがハッキリとして、それはカメレオンだ。
二足歩行のカメレオンが斬られてフラフラと揺れて倒れる。
続いてハルベルさんが大槍で撃破、サリアさんが魔法で一気に数体をまとめて仕留めた。
「バレバレなんだよ!」
「お、おのれぇ……レロレロ」
姿を現したのは一際、大きいカメレオンだ。
エリマキみたいなヒレが特徴で、目玉がぎょろりとして黄色い。
猫背でこちらの様子をうかがっている。
「魔闘獣隊、インビシブル隊がこうもあっさりと……レロレロ」
「バレバレなんだよ!」
「レロロ……だが、これで終わりと思うなよ?」
今度は地中からの奇襲だ。
突き出された片手には大きな爪がまとまっている。
次々と私達がいる場所を的確に狙って地上へ爪を突き出すけど、被害はない。
「はぁぁぁぁん!? 魔闘獣隊、グランドクロール隊が一匹も仕留められんだとぉ!」
「リュドー! こいつら、久しぶりに骨がありそうだ! レロロン!」
「レロレオン! こいつら、あいつらの仲間なのか!?」
「知るか! レロレロ!」
ブラウンの体毛を揺らして、次々と地中から出てきたのはモグラ人間だ。
ずんぐりむっくりなモグラ人間達を従えるのはやっぱり一際大きなモグラ。
カメレオンにモグラ、変な波状攻撃がきちゃったな。
それよりまた気になることを言ってるし。
また少し揺さぶってみよう。
「あいつらとは私達、人間の部隊ですね?」
「そうだ! 唯一、抵抗をやめない連中だレロレロン!」
「それはよかったです。ちょうど私達も合流予定なのですよ」
「だったら尚更、生かしておくわけにいかんレロン!」
カメレオン達がまた消えて、モグラ達は潜った。
カメレオンの奇襲よりも、モグラ達が掘り進めると地盤沈下が起こる可能性がある。
だからこの戦い、思ったより時間はかけられないはずだ。
長引けば長引くほど不利になる。
しかもこの魔族、防衛戦で攻めてきたら間違いなく危なかった類です。
もしあの時、攻めてきたらたくさんの死傷者を出したと思う。
だけど――。
「今の皆さんなら落ち着いて戦えば勝てますッ!」
「そう言われるとやる気が出るぜ!」
消えたカメレオン人間達が高速に動き始める。
ただ消えるだけじゃない。パワーと速度、すべてが揃っている。
特にあのレロレオンとリュドー。
名前 :レロレオン
攻撃力:3,422
防御力:2,011
速さ :4,349
魔力 :432
スキル:『透明化』
名前 :リュドー
攻撃力:5,201
防御力:3,990
速さ :1,384
魔力 :133
スキル:『地中侵攻』
「レーロロロロッ! 怯えて泣いて叫んで死ねレロロン!」
「足場のありがたみを思い知って死ね!」
グラグラと揺れる地面に加えて見えない攻撃。
透明化と地中侵攻がなくても通常であれば強敵だ。
そう、通常であれば。
「下らんッ!」
「ぎえぇぇッ!」
アルベールさんが見事に手下を捉えて、一気に三匹まとめて仕留めた。
プリウちゃんもアルベールさんが動きやすいように、合わせている。
この二人は最近、魔力感知の修行ばかりやっていた。
他の人達も同じだ。私がいなくても、自習を忘れていない。
その成果が今、表れていた。
たとえ魔術の才能がなくても、地道に積み重ねれば近接戦闘でも活きてくる。
これまでの努力が本格的にここで花開いた。
「そりゃそりゃそりゃああぁぁーー!」
「我慢、我慢してからのぉーー……とりゃあッ!」
「げふぅッ!」
キキリちゃんの杖の一撃が手下に大ダメージを与えた。
こっちも見えない敵を正確に捉えている。
というか実はデュークさん達みたいな魔法が使えない人達よりも、キキリちゃんみたいな魔術に長けた人に当てるほうが難しい。
精度が高い魔力感知のおかげで、隙だらけになりがちな下手な奇襲は避けられやすかった。
そしてキキリちゃんに気をとられていると――。
「雷属性下位魔術ッ!」
「うぎぇぇぇーーーー!」
サリアさんの雷属性下位魔術が周囲にいる見えないカメレオン達を巻き込む。
カメレオン達が電撃でやられて、続くのはエルナちゃんだ。
「水属性中位魔術!」
「あぶっ! あぶばばばばばっ!」
こっちはもっとすごい。
地上から攻めたカメレオン達は水の壁に閉じ込められて溺死。
地中に至っては水の魔術を流し込まれて悲惨なことになっている。
「水属性上位魔術ッ!」
「ぶごふぁーーーーーーーーー!」
もがくモグラ達が泥に飲まれていく。
自分達で掘り進めて水に溶けやすいよう地面を耕してしまったんだから自業自得だ。
「ち、地中は液状化して使えない! どうする、レロレオン!」
「うろたえるな! こんな奴ら、ゴリ押しでどうにかなるレロロン!」
レロレオンとドリューが正攻法で直接、向かってくる。
片方は消えたり現れたりで翻弄しつつ、リュドーが跳んで爪を大きく広げた。
迎え撃つのはデュークさんとアルベールさんだ。
「おい、どけよ」
「貴様こそ邪魔だ」
ケンカしてる場合じゃない。
襲いかかってきたレロレオンはアルベールさんに接近直前でまた消えた。
消えて、現れて。明滅みたいになったそれは間違いなく視覚に強く影響する。
だけどそんなもので惑わされる人じゃない。
「下らんと言っている」
「レ、ロォ……!」
長い舌を伸ばしたレロレオンが真っ二つになって落ちた。
「地中に帰りな……フレアエッジッ!」
「ぐあぁぁッ……!」
炎の刃で裂かれたリュドーが燃え盛り、一瞬でその体が焼き尽くされた。
ドドルマンと戦っていた時よりも速く、圧倒的に強い。
デュークさんは呼吸のごとくフレアエッジを繰り出せるようになっていた。
私の聖女スキルを加味しても、あのクラスの魔族を一撃か。
「これで敵は全滅か」
「皆さん、すごかったですよ!」
「ソアリス、手を出さないでくれたんだな」
「手を出したら怒られちゃいそうでしたからね」
あのクラスの魔族相手とはいえ、ここで私が手を出せば皆の力を信じていないことになる。
皆が成長したと信じた甲斐があった。
あれ? なんだか涙が出てきちゃう。
「どうした?」
「いえ……目に埃が……」
泣いてない、泣いてない。
「ソアリスさん! 泣いてる!」
「ナイテナイデスヨ」
エルナちゃんには見破られちゃうのか。
でもこれはしょうがない。
私が育てたんじゃない。皆の努力の成果だ。
人間だって成長して魔族を倒せると、ここでしっかり結果を残した。
まだまだ希望はある。この国だって救える。そう確信した。
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