聖女、聖女であり続ける
王都まであと少しのところで、私達は野営をしている。
食事を終えて落ち着いたところで、いろいろと話ができた。
治癒師の女の子の名前はキキリ。酒作りが盛んな地方にある街出身で、歳は15歳。
私が封印されてから5年後に生まれたけど、両親から聖女ソアリスの事は聞かされていたらしい。
首飾りは聖女信奉者の証で、両親への憧れは聖女への憧れだと力説してくれた。
「ご両親は治癒師ではないのですか?」
「ふっつーの平民で、お酒作りで生計を立てています。でも聖女ソアリスと同じくらい大好きです」
「ソアリスを見た事がないのに?」
「だって大好きなパパとママが尊敬しているんですよ! 素晴らしい女性に決まってますって!」
屈託のない笑顔が私にはつらかった。
ソアリスは完全に犯罪者として仕立て上げられて、皆がそう信じていると思ったもの。
でも実際には全員がそうじゃないとわかった。
こういう人達の為に、すべてを話したほうがいいのかな。
「聖女ソアリスね……。オレ達の村ではその名を口にしたら叩かれたな」
「えぇ?! デュークさん、あんな事件を信じちゃうんですかぁ!」
「むしろ聖女の潔白を信じてる奴のほうが少ないと思うぜ。聖騎士団なんてのもできたみたいだけどな」
「聖女信仰を掲げる独立部隊ですよね! かっこよすぎですよ!」
聞きたい。その初耳な情報について質問したい。
だけど旅をしているくせに知らなすぎるとまた怪しまれる。
なんてうずうずしていると、腕組みをして黙っていたハルベルさんが話し始めた。
「俺は自分で見たもの以外を信じたくない」
「相変わらず現実主義だな、ハルベル。まさか王国側が意図的に歪めた情報をばらまいたと思ってるのか?」
「可能性の一つとして、ないわけではない。ただ一つ言えるのは、偏った考えは危険という事だ」
「あ、そっか……。オレとしたことがつい……。キキリ、すまない」
「い、いえいえ!」
聖女ソアリスを信じているキキリちゃんだけじゃなく、彼女の両親にも謝罪したように見えた。
デュークさんとハルベルさん、この二人は幼馴染だけあって話の展開が早い。
そこへ黙々と杖の手入れをしていたサリアさんが一区切りをつけて、輪の中に入ってきた。
「私は割と真偽はどうでもいいかな。だって事件が本当だとしても、聖女ソアリスに助けられた人達が大勢いるのは事実でしょ? ね、デューク?」
「それはそうだ。そこは認めなくちゃいけないな」
「だからハルベルみたいに、中立ってところね」
「ちぇっ、やっぱりオレだけが子どもかよ」
デュークさんが拗ねる。
そんな4人のやり取りを見ているうちに、私自身も考え込んじゃった。
聖女ソアリスはこれからどうあるべきか。
誰のための聖女ソアリスなのか。
それはきっとキキリちゃんや彼女の両親みたいな人達の為の聖女だと思う。
大半の人達が私を悪者だと思っていても、信じてくれる人のために立ち上がればいい。
今、私はここにいる。だったら、やり直せばいいんだ。
名前 :キキリ
攻撃力:2
防御力:2+600
速さ :2
魔力 :431+130
スキル:超防御
「キキリちゃんは性格が現れてますね。攻撃面は一切捨ててますか」
「え¨っ?! なんでわかるんですかぁ!」
「魔力が並みでも基礎の練度や技術によっては魔術の威力や身体強化など、特化する事も可能です。キキリちゃんはとても練度がいいです」
「あわわわ! な、なんか裸にされた気分です!」
ぶっ、と噴き出す男性陣。
サリアさんがそんな二人に冷ややかな視線を送っていた。
健全な男の子の証拠だから、生暖かい目で見守ってあげてほしい。
それよりもエルナちゃんといい、このキキリちゃんも独学でこのレベルに引き上げたのは素直に賞賛したい。
「例えばデュークさんのほうが魔力は上ですが、使い方はキキリちゃんのほうが上手ですね。頑張れば魔術に関してはデュークさん以上に成長できますよ」
「いい、1級の方以上に?! そんな恐れ多いですよぉ!」
「あ、すみません。出過ぎた真似でしたね」
カドイナの街での活動中に昇級させてもらったとはいえ、今の私は4級だ。
それ以上は昇級試験の対象の魔物がいないから無理だった。
口が過ぎたと反省したけど、キキリちゃんが先に頭を下げる。
「すみません、ソアさん。あなたの実力はよくわかってます。でもデュークさん達はどう思ってるんですか?」
「ここにいる全員でかかっても勝負にもならないだろうな。ハルベル、お前もそう思うだろ?」
「同感だ。ソアが敵じゃなくてよかったと思ってる」
「あのハンターズにでもなられたらと思うとね……」
サリアさんが口にしたハンターズ、冒険者にとって目の上のたん瘤ってところかな。
ハンターズは商売敵というだけじゃない。
手段を選ばないという点で、無法集団でしかないと聞いた。
これから先、そんな人達と衝突するとしたら強くなって損はない。
「王都まであと少しですが、それまでに私から魔術のコツを伝授しましょう。デュークさん達にとっても有益ですよ」
「お、そりゃありがたい」
「ソア先生と呼んだほうがいいかもしれんな」
「どうぞどうぞ!」
「呼ばせるのかよ?!」
褒められて嬉しくないわけがない。
これがあるから聖女をやってるといってもいい。
トリテニィハートの3人、キキリちゃんが真剣な顔つきになって先生と呼んでくれた。よしよし。
「トリニティハートはハルベルさんが盾になって、デュークさんが遊撃。サリアさんが主砲とわかりやすくバランスがいいです。逆にいうと、わかりやすくて読まれて対策される可能性があります。なので、魔術を工夫して柔軟性を持たせればもっといいパーティになりますよ」
「確かにそうだな。デューク、お前が盾になるか?」
「冗談だろ?」
トリニティハートは和気藹々としたいいパーティだと思う。
見ているこっちまで心が洗われるようだった。
幼馴染か、ずっと魔術の勉強ばかりしてた私にそんな青春はなかったな。
私と歳もそう変わらないし、今からでも混ぜてほしいなんて一瞬でも考えちゃった。
「はいはーい! 私はどうすればいいんですかぁ!」
「キキリちゃんはトリニティハートの人達を支援して下さい。パーティ戦を経験すれば、グッと実力が伸びますよ」
「わ、わわ、わ、私が、1級の人達を?!」
「こんなチャンス、滅多にないですよ」
「ないですねぇ! 燃えます!」
「ありゃ、あっさりと……」
慌てていて優柔不断なイメージがあるけど芯は強いかもしれない。
その根底にあるのはやっぱり両親から聞かされていた聖女ソアリスなのかな。
そう信じて、今はこの若き才能を伸ばしましょう。いや、私も若いけど。





