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魔族にとっての聖女

「カギリ様。こちら、今月のランキングです」


 町長が住んでいたこの屋敷も、今となっては魔族カギリの住処だ。

 かつては魔導士団の一員として私もこの町の警備に当たっていた。

 ところが奪われるのは一瞬だ。カギリ率いる魔族どもは魔導士団など何の造作もなく全滅させてしまう。

 町の者達の多くが家族も友人も恋人も尊厳もすべて失ってしまった。

 町は命に変えても守ると民の前で宣言した私も、屈してしまう。

 今や召使いとして、カギリの所作一つに怯える日々を送っていた。


「ドリンク」

「は、ハッ! ただちに!」


 震える手でドリンクを用意して手渡すと、カギリが満足そうに味わっている。

 人間の真似事をするかのごとく、カギリはソファーでくつろいでいた。

 巨大なカマキリのような容姿に、腕から生えた鮫のヒレのような刃が光る。

 私が手渡したランキング表に目を通すと、カギリの目の色が変わった。

 

「……このソアリスとは、ベスパルを殺した奴か」


 ここ最近、カギリの機嫌が悪い。

 それもこれもソアリスとかいう謎の女のせいだ。


 どこから来たのか、この女はふらりとやってきてカギリの手下であるベスパルを殺してしまった。

 それを皮切りに、ソアリスはコロシアムで目覚ましい活躍を見せている。


 最初は舐めていたカギリの手下だったが、次々と敗北していた。

 しかも負けたのは魔族だけではない。同じ人間と戦っても容赦なく打ち負かしている。


 さすがに殺していないみたいだが、負けた人間は二度とコロシアムで戦わなくなった。

 戦意喪失したのか、そのせいでコロシアムは今やソアリスの独擅場だ。


 余計なことをしてくれる。中途半端にちょっかいを出すような真似をすればどうなるか。


 カギリはやがて怒り狂い、この町そのものを滅ぼすだろう。

 皆、それがわかっているから従っているのだ。誰も英雄など求めていない。


 誰が機嫌を取っていると思う?


「これから勢力を拡大しようという時に……いかんなぁ。あのタウラスを笑わせてしまう」

「やっほい!」


 突然、姿を現したのは翼から足先に至るまで純白に染まっている天使のような魔族だ。

 最悪のタイミングだ。なんだ、こいつは。


「……何かと思えば。片割れはどうした」

「片割れじゃないのー!」

「貴様の片割れがいない時はろくなことが起こらない。歴史がそう言っている」

「タウりんがねー! 『俺が期待しているのはカギリだけだ』って鼻息ふんふんしてたのー!」


 タウりんとはまさかあの親衛隊長のタウラスか!

 馬鹿が! なんてことを!


「そんな下らんことを告げに来たのか?」

「タウりんはワクワクしてるんだよー? 自分の身体に唯一、傷をつけたのがカギリんだからー」


 このカギリは一度タウラスに敗北しているらしく、リベンジに燃えている!

 何故ならこのカギリはガレオの手下ではないからだ!

 私はいつだったか、聞いてしまったのだ! このカギリは――。


「馬鹿が。失せろ」

「ぎゃんっ!」

 

 純白の魔族が両断された。

 ふわふわと浮いていたそいつはカーペットにどしゃりと落ちる。


「あ、あわわ……」

「私が奴に健闘を称えられて喜ぶとでも思ったか」


 カギリは一度もソファーから立ち上がっていない。

 腕を振り上げただけで、あの純白の魔族が両断されたのだ。

 こうなると魔術など、もはや児戯でしかない。

 幼少の頃から魔術を学び、共に天才と評された同期の者達と競い合ってきた。

 そんな一握りの者達は胸を張って魔導士団として、国の盾となる。

 国旗を掲げて、誇りを持って生きてきた。

 国に命を捧げるつもりだったというのに。


「おい、何をしている。ドリンク」

「あ、は、はいぃ!」


 今や体が勝手に動いてしまう。

 本能がこのカギリに逆らうなと警笛を鳴らしている。


「今の私はタウラスに敗北して、力を蓄えている最中……。これではあのお方に顔向けできん」


 私の頬が切れていた。

 血が頬を垂れる感覚があったところで、背後の家具が真っ二つになっている。

 下半身が温かくなり、これで何度目かわからない失禁だ。

 カギリがまたランキング表に目を通す。


「このソアリス……。戦いを見る限り、人間の中でも突出している。何者だ? おい、人間。答えろ」

「い、いえ、私もそこまでは……」

「思い出せ」

「……は?」


 カギリの瞳孔のない目に射竦められて血の気が引いた。

 知らない。私は何も。だが、何か言わなければ。

 どうする。何でもいい。クソ、なんだソアリスとかいう女は。

 余計な、余計なことを。


「貴様ら人間は絆だの喚いて横の繋がりだけは大切にする。だから私はまずそれを断ち切った。私はな、人間。貴様らのような矮小な存在でも、使えるものは使うのだ」

「は、は、ひ……」

「絆や繋がりがあるのだろう? わかるはずだ。ソアリスとはどういう人間だ? 見たところ、人間にしては身体能力が卓越しているが?」


 これだから魔族は。我々人間の理屈など通用するはずもない。

 こういった無茶を押し付けられて、何人の人間が殺されたか。

 どうすればいい。死にたくない。助けて。


「よく聞け。ソアリス、だ。知っているはずだ」


 ソアリス、ソアリス。ソアリス。

 何でもいい。でっちあげろ。どうせこいつにはわからない。

 ソアリスは女だ。強い女、そうだ! アレしかない!


「せ、聖女です……」

「なに?」

「と、隣の国で、聖女と呼ばれる……やたら強い女がいるんです……」


 子どもの頃に母さんから聞いた事がある。

 隣国の聖女ソアリスは救世主のような存在だと。

 強い女など子どもだった私が興味を持つはずもなく、話半ばに聞いていた。

 それを今、思い出せたのは幸運かもしれない。

 ハハ、言ってやったぞ。もうどうにでもなれ。


「……なるほど。聖女か。人間特有の下らん崇拝思想から生み出された偶像のようなものだな」

「その通りなんですよ!」

「私にもようやく運が巡ってきたようだ。その偶像を大勢の前で砕く。そして人間という脆弱な中身を引きずり出す」


 屋敷の家具がそれぞれバラバラになる。

 目で追えない超速度、これがカギリだ。

 あのタウラスとも渡り合ったらしく、誰が敵うというのだ。

 ソアリス、と決めつけてしまった女。お前はやらかした。私のせいではない。


「これでこの町の支配は完了する。次は王都に歩を進めよう」


 カギリが狙っているのはタウラスだけではない。

 あのお方と呼ぶ主の命令で何かを成そうとしていた。

応援、ブックマークありがとうございます!

亜空の聖女、MFブックスより一巻が発売しております!

しかしどうも売れ行きがあまり良くないようです…。

気が向いたらでもよろしいのでぜひ……!


書籍ではWeb版をより深く掘り下げており、展開も一部ですが異なります。

いわばWeb版の完全上位互換です。

何より武田ほたる様に描いていただいた表紙、口絵、挿絵が素晴らしい!

どのシーンが挿絵になっているかは書籍版でのお楽しみですよ。

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ソアリス、トリニティハートの三人、エルナ、キキリ、アドルフ王、リデアです。

巻末にはキャラクターデザインが公開されているのも見所です、ホントに。


どうですか!!!!!!!!!!!!!

ぜひ!!!!!!!!!!!!


各店舗にて特典SSがつきます!

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ソアリスがいかにして肉体派(違う)となったかが明かされます。


・メロンブックス様

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王都内の温泉にソアリスがこっそり向かう話です。

そこで出会った者達とは……?


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その他、巻末のURLのアンケートに答えていただけますと更に特典SSが読めます!


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