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聖女、その視線は未来へ

 エイミーが見るも無残な姿になるけど、敵の勢いは衰えない。

 そもそもあの兵士達、疲労も痛みも感じてない。相変わらず目が血走っていて、何かを叫んでいる。

 超高位治癒魔術エデン・リジェネレートで傷は癒やせても心の疲労は回復しない。

 一向に収束しない戦いを皆が実感してしまえば、一気に劣勢になる。

 この数相手に皆、本当によく頑張って。守りたいものの為に、明日のために。私だって限界を超えなきゃ。


「空間……大切断ッ!」


 前方に見える大勢の敵の体がやがて二つに分かれる。

 首、胴体、どこも致命傷となる場所だ。一斉に敵が倒れて、視界が味方一色になる。


「ハァ……ハァ……!」

「ソアさん!」

「まったく問題ないですよ……」


 二つの大規模魔術を展開しつつ、超広範囲の空間魔術は無茶だった。

 嘔吐感と眩暈が一気に襲ってくる。ダメだよ、ソア。魔力酔いに飲まれるな。ふらりと体が揺れたところで、今度は私がサリアさんに支えられていた。

 小さいながらもマオも反対側を支えて、何とか倒れずに済む。杖さえあれば、なんて弱音を頭の中で打ち消す。

 皆、戦っている。今、この瞬間。何の言い訳もせずに。折れそうになっている人だっているはず。


「私は……聖女、だから……」

「聖女……?」

「サリアさん、デュークさんとハリベルさんは?」

「そ、そうだ!」


 サリアさんが私を放して走り出すと、危うく倒れかかる。

 デュークさんが剣を垂直に立てつつ集中して、ハリベルさんがドドルマンの猛攻を凌いでいた。

 氷属性中位魔術(アイスウォール)が巨大な黄金の腕で一撃で叩き割られる度に再展開。

 ドドルマンは愉悦の表情で二人を攻め立てていた。


「フハハハハ! ただの氷など、この黄金の豪腕(ミリオンアーム)の百分の一の価値すらないわ!」


 ハリベルさんがいつもの軽口を叩かない。ただひたすらに耐えている。デュークさんを守っている。

 

「む! エイミーの奴が見えんな」

「残念ながら俺の仲間に退治されたみたいだな」

「馬鹿な事を! 大方、地面に浸透でもして……」


 ドドルマンが魔力感知でエイミーを捜している。結果、火山みたく赤くなる表情。わなわなと震える体。そして――。


「無敗の百年記録が途絶えてしまったではないか! このグラッセル家の面汚しがッ! やはり持たざる者は罪だな!」


 グランシア王国第六魔術師団の団長ドドルマン。

 武骨な面構えとは裏腹に、その魔術は超現実主義に基づいている。

 何かを媒介にしたり、関連付ける事によって魔術の効果を飛躍的に高める事そのものは珍しくない。ドドルマンの場合は至ってシンプルだ。


名前 :ドドルマン

攻撃力:3,937+10,000

防御力:3,210+10,000

速さ :2,691+10,000

魔力 :28,488+50,000

スキル:『マナ・ゴールド』 総資産に応じて魔力が上昇する。

    『ゴールドマン』  身に着けている装備の価値が高いほど魔力補正が上昇する。


「金も魔力も持っている奴が強い。男なんぞに色目を使っている時点で愚妹の敗北など決まっていたようなもの……」


 いっそ清々しいスキル群に加えて、ドドルマンはお金を消費して攻撃を防ぐ。

 威力によって金額は変わるけど、条件さえ満たせば無敵だ。攻撃も同様で、最大値になるとここら一帯が消し飛ぶ。

 正直に言えば、ドドルマンが舐めてかかっているうちに決着してほしかったところ。


「誰もが平等ではない。貧乏人の家に生まれた者、裕福な者。どちらにも等しく努力する権利が与えられる。ただし勝つのは持つ者だ。当然だろう? だから私は持つ者として徹底した」


 ドドルマンが黄金の腕を見せつける。ハリベルさんは冷めた表情で、デュークさんは静かだった。


「持てば多くを得られる。得られた者はより抜きんでる。持たざる者は得られず、右往左往するしかない。得られないが故に進むべき道への知識もないのだからな。当然、お前達は持たざる者だ」


 ドドルマンが唐突に私に視線を移した。つらそうな私を見て、小馬鹿にしたように笑う。


「持たざる者を庇って無駄に魔力を消費する。持たないから最適な判断も出来んのだ。足手まといを切り捨てるくらい簡単だろうに」


 多くを得られたなら、多くの選択肢がある。膨大な魔力が宿れば聖女としての道がある。

 そうじゃないなら、きっと別の道もあったと思う。聖女の道という選択肢は消えて、相応の魔術師として生きていたかもしれない。

 お金もそうだ。お金で得られるのは物だけじゃない。お金から発生する縁、人、あらゆるものを呼び寄せる。

 私は聖女になって何を得られた? 答えなんて考えるまでもない。


「確かに私はまだ何も得ていません」

「ソ、ソアさん。あんな奴の言う事なんて」

「何を得たか……。ハッキリとそれを認識できるとしたら、皆が笑顔になっている時ですね」


 まだ何もわからない。判断できない。何かを得られるという事はそんな簡単じゃない。


「下らん……! そのような甘い事をほざいているからその様なのだ! 私はお前のような甘ったれた奴が大嫌いだ! 確実な現実から目を逸らす! そして命を落とすなどッ! 見ておれ!」


 ドドルマンが両手を広げて踏ん張る。

 体が黄金色に輝いて、歪なシルエットを形成し始めた。ドドルマンの体に何らかの変化が起こっている。


「魔術真か……」


 紅の一閃がドドルマンの腕を斬り飛ばす。

 何が起こったのか、ドドルマンが把握できるはずもない。

 デュークさんがこの瞬間を狙っていたのかわからないけど、チャンスには違いなかった。


「な、なに……」


 飛んだ腕が赤に包まれて燃え盛る。もう一方、ドドルマンの肩が発火。

 まさに一度、火がつけば止まらない。


「ぐああぁぁぁ! に、二十万で……!」

「無駄だ」

「火が止まらんんん! 五十万! 百ま……」

「お前のそれは一撃に対する対価だ。常に燃え続けて浸食する火のどれを防ぐんだよ」


 デュークさんが剣を振り切った後も、構えを崩さない。

 赤々と燃えるドドルマンの姿が、デュークさんの瞳に映し出されている。

 熱に耐え切れず、踊り狂っているかのようにドドルマンの体が激しくうねっていた。


「わ、わーわわたしがこんな、馬鹿な、こんな事でああぁぁついいいぃぃ誰かぁぁ!」

「昔、村で火事が起こってな。一番大きな家で金持ちだったが全焼して資産もろとも消えたよ。火には当たり前だが熱がある……。何としてでも燃やし尽くしてやろうという確固たる意志、いや。熱がな」 

「止めてくれ何でもするいくらでも払うああぁ……」

「ハリベルがお前を誘ってくれたおかげだ。フレアエッジ、ソアとエルナのおかげで火属性の本質を考え直せたよ」


 エルナちゃんが? 私が知らない間に何か話したのかな。

 ふと見ると、名前を出されたエルナちゃんがピースしてる。


「あ、あ……ぁ……」


 もがく事すら出来なくなったドドルマンが炎に飲まれていく。

 お金も資産も、今まで得たであろうものすべてが焼かれていく。

 ほんの少し油断したばかりに燃え盛る様は、それこそ火事だ。ランプ一つ火事の元。私も火の取り扱いは両親にきつく注意されたっけ。


「デュークさんそのものが火事みたいですね。まったく油断も隙もない……」

「よせよ。オレだってもっと綺麗に勝ちたかったんだぜ?」

「確かにデュークさんならそういうところ拘りそうですね」

「大切なものは勝った先にあるからな」


 熱く荒々しく、それでいて静かだ。

 あのフレアエッジみたいに派手な音も立てず、目標のみを見据えている。

 ドドルマンを尚も燃やす炎に照らされたデュークさんの顔がどこか清々しく見えた。

団長は残り一人


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