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聖女、封印される

「聖女ソアリスに禁固300年の刑を言い渡す」


 何も考えられなかった。

 なんで自分が法廷に立っているのか。

 王国裁判にかけられているのか。


 突然、屋敷にある私の寝室に騎士達が踏み込んできてからは凄まじい速度で事が進んだ。

 騎士隊がベッドの下、本棚、タンスから超魔水(エリクサー)を発見したところから記憶が曖昧だ。


「聖女という地位を利用して禁止魔法薬の超魔水(エリクサー)の所持、及び使用した事は民への裏切りに等しい悪辣なる行為である」

「違いますよ……? 私、そんなもの使ってませんよ?」


 必死に抗議するけど、裁判官は表情一つ変えない。

 国の重鎮達が囁き合っている。

 失望した、すべては表の顔だった、国の威信に関わる。死刑にしろ。

 耳を塞ぎたくなる言葉ばかりを口にしていた。


「しかしながら、これまでの功績に免じて禁固300年が妥当だと判断した。ソアリスよ、何かあれば申してみよ」

「私、やってません! もう一度、調べて下さい!」


「お姉様、見苦しいですわ」


 妹のリデアが冷笑している。私はこの子を疑ってなかった。

 東に国を脅かす魔王が現れたなら討伐に向かい、邪神復活の際にも戦って滅ぼした。

 王都に帰れば皆が手をふって歓声を上げる。

 お父様とお母様が自分を抱きしめて、帰りを喜ぶ。

 貴族家に恥じない豪勢な料理がテーブルに並んだ。

 私達が好きなものばかりで、本当に嬉しかった。

 リデアも自分のことのようにはしゃいで、喜んでいたのに。


「お姉様の活躍はわたくしも目に焼き付けていますわ。でも、それらがすべて超魔水(エリクサー)による魔力増幅効果の賜物だなんて……信じたくありませんでしたのよ」

「リデア……!」


 そんなリデアは今、証人席に座っている。


――お前はすごい力を持っているのだから、たくさんの人を幸せにできる


――人に優しくすれば笑顔になるわ。でもまずはあなたが笑顔になるのよ


 生まれて初めて喜ばせたのが両親だった。

 二人のおかげで私は人を笑顔にすることの素晴らしさを知ったんだ。

 奮起した私は、7歳の時には大人の魔術師を圧倒した。

 10歳で魔術学院に入学して、在学中に宮廷魔術師と変わらない実力だと褒められる。

 1年で卒業した後は11歳という異例の宮廷魔術師の誕生だと、国中で大騒ぎだった。

 それから16歳まで、聖女と呼ばれるくらいには活躍したはずだ。

 リデアにだって優しくした。笑顔で接した。それなのに、なんで。


「お姉様の部屋から証拠品が出てきましたのよ。信じられるわけありませんわ」

「いきなり騎士がやってきて、あっという間に場所を特定するなんて不自然でしょ!」


 私は信じたくなかった。部屋に鍵をかけた事がない。

 そうする必要がないと思っていたから。

 だけど、もう否定できる材料がない。

 家族であるリデアが、私に罪を着せたんだ。


「お姉様。妹としてお願いしますわ。罪を認めて償って下さいませ」

「リデア、どうしてあなたが!」

「さ、皆様。そろそろ時間ですわ」

「何を言って……」


 いつの間にか首に鎖が出現して巻き付いている。

 左右には黒い半球が構えていて、鎖はそこから出ていた。


「こ、これ、まさか……!」

「さすがはお姉様ですわ! よく勉強してご存じのようで、妹として嬉しいですのっ!」

超魔水(エリクサー)も、これも……どこで、どうやって!」

「何を仰っているのかわかりませんわ。まさかわたくしにこんな事を出来るはずがないとお思いまして?」


 身動きが取れない私にリデアが近付く。鼻先まで顔を近づけてから、より意地悪く笑う。


「そうやって見下しているから足をすくわれますのよ? あぁ、今は縛られてましたわ」

「禁止魔導具による封印術……こんなもの、いつの間にどうやって……」

「気が遠くなるような下準備、そこそこの協力者、期間。何よりお姉様の油断が必要でしたの。禁固300年の判決も、フェイクの一つに過ぎませんわ」

「協力者……」


 縛られながらも私は、頭の自由が利くうちに周囲を見渡した。

 軽蔑や怒りの感情を顔に浮かべる重鎮達。

 自分を評価してくれた国王と王妃。

 プロポーズを断った王子の一人が意地悪く笑っている。

 私には、どの人達にも好意的な感情を持ってないように見えた。誰も、私を信じてくれない。


「皆さん! 私を信じていただけませんか! 陛下!」

「お姉様。ご心配なさらずとも、あなたのかわりはわたくしが務めますわ」

「リデア! あなたには務まらない!」

「そうやってまたわたくしを侮辱しますの……もういいですわ」


 私はあらゆる魔術を行使して、封印の阻止を試みた。

 だけど全部、無効。そもそも魔術や物理問わず、この魔導具はあらゆる干渉を受け付けない。

 一度、条件を満たして発動すれば防ぐ手立てなんかなかった。

 妹のリデアがどんな方法でここまで完成させたのか。今の私には知る術がない。


「お姉様は用済みですわ」


 リデアはずっと私に嫉妬して疎ましく思っていたんだ。

 聖女への憧れもあったんだと思う。

 私に気づかせない入念な下準備をやってのけて、封印にまでこぎつけるほどの執念だもの。

 でも、その執念の使いどころを間違ってる時点で聖女なんて務まらない。


「お姉様、さようなら」


 鎖が増殖して私の目鼻を覆う。視界が閉ざされた後は更に何かが覆いかぶさる。

 左右の球体が勢いよく私に叩きつけられたように思えた。

 視界は闇一色、卵の内側に閉じ込められたかのような錯覚に陥る。

 大人しくこの状況を受け入れるしかなかった。

 かつて世界を滅ぼした災厄を封印したと言われている封印魔導具『冥球(メトロ)』、数百年は有効とされているんだから。

 ()()自分には不可能だとわかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 漫画の続きが気になったので読みに来ました 封印してた厄災は聖女が滅したのかな
[気になる点] 「聖女という地位を利用してーー」使用してきたから聖女になれたのでは?(してないけど) 所持ということは作った人がいる。 「しかしながら、これまでのーー」裁判官は死刑という言葉は出してい…
[一言] 英雄を政争で廃した結果滅んだ国が中国史にあったような気が まあ中国に限った事じゃ無いだろうけど まあこの国が滅びるのは仕方ない
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