第七話 現状の説明
説明回です
本日も五話投稿します
このお話は三話目です
自分の失礼な態度を、二人は穏やかに許してくれた。
「よく言われるから、気にしないで」
「成長期がちょっと早かったみたいなんだ」
落ち着いた二人の様子に、晃は感心してしまう。
お隣の修兄や健兄は大学生だけど、この二人よりずーっと子供っぽいし、すぐ怒るのに。
きっと都会の人は何か違うんだ。食べるものとか、空気とか。
晃が無理矢理納得したところで、「さて」と晴明から声がかかる。
「落ち着いたところで。君の話を聞きたいんだ。晃」
「おれの、話?」
「そう」
晴明が鋭い瞳で自分を見つめてくる。まるで、心の内を見透かそうとしているようで、少し怖くなる。
「昨日何があったか、ある程度は君のおじいさんから聞いた話が報告されている。でも、君自身の口から、何があったのか、どう感じたのか、聞かせてもらいたいんだ」
膝の上の拳に思わず力が入る。
昨日、あったこと。
白露を失ったこと。
あれから周囲が目まぐるしく動いて、考える余裕もなかった。
突然、息が苦しくなる。
何もできなかった後悔、白露を失った哀しさ、それは自分をかばってのことだという自責の念。
いろいろなものが一気に押し寄せ、泣き叫びたくなるが何とかこらえる。こらえたが、何も言えそうにない。口を開けば、出てくるのは間違いなく泣き声だ。
握りしめた拳が小刻みに震えているのに気付いたのだろう。
晴明と弘明がちらりと目線を交わす。
少しの逡巡のあと、晴明が口を開いた。
「これはまだ憶測でしかないんだが――」
「白露様は、生きている」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
生きている?
白露様が?
言いたいことが全て顔に出ていたのだろう。
晴明は少し困ったように息をつくと、正座していた足をくずしあぐらをかいた。弘明もそれに続く。
「あくまで現時点での憶測だけどな」
「晃も足くずしなよ。話長いよ」
そう弘明にすすめられたが、晃は身動きひとつできない。
だって、喰われた。
おれの、目の前で。
でも、生きてる?
「晃のところに現れた『禍』は」
『禍』。あれが、『禍』。
祖父達や白露から、話だけは聞いていた。
瘴気を撒き散らし、良き『場』を穢す。災厄を生み出す『場』を作りだす。禍々しい存在としか例えられないモノ。それが、『禍』。
確かにとんでもない存在感だった。白露すらかなわなかった。思い出すだけで怖くてまた拳を握る。
「晃のところに現れた『禍』は、霊玉守護者が持っている霊玉の本来の持ち主なんだ」
「あの、昔お姫様に封印されたっていう――」
白露が話してくれた昔話を思い出し答えると、「そう、それ」と晴明が返してくれる。
「白露様から聞いてた?」と問われ、うなずく。
「あの『禍』が本来持ってた霊力は、霊玉に封じられて現在はお前達霊玉守護者が持っている。
霊力を失った状態の『禍』は大したことができないはずなんだが、あの『禍』は他の者から霊力を奪い、取り込んで自分の霊力にしているんだ。
おそらく生前そういう能力を持っていたんだろう。」
晴明の説明に、うなずくことで話の先をうながす。
「白露様の霊力はとてつもなく多い。それこそ、五人の霊玉の霊力を合わせたくらいは軽くある。
で、そんな存在をあの『禍』が取り込んだとしたら、すぐに行動を開始するハズなんだ」
「行動って?」
「失った自分の本来の霊力を取り返すこと――つまり、霊玉守護者から霊玉を奪う」
つまり、またアレが自分のところに来るということか。
今度は白露の巨大な霊力を取り込んだ状態で。
昨日も自分一人だったら間違いなく喰われていた。
今さら生命の危機を感じてゾッとする。
「もしくは」
晴明が言葉をつづける。
「本来の目的を遂行する」
「本来の、目的」
意味がわからずそのまま返すと、こくりと晴明がうなずく。
「この国の王になること」
聞いた晃はやはり意味が分からなかった。
確かに白露に聞いた昔話でそんな話はあったが、『禍』となった状態でそんなことができるのだろうか。
「『禍』になった現状でやりそうなことといえば」
晴明が指折り数えながら案を出していく。
「他の『禍』を服従させ配下に置き、京都の人間を襲い自分を王と認めさせる。
京都中の人間を皆殺しにして『禍』の国にして、その王になる。
京都を『禍』と瘴気であふれた土地にして、人間も『禍』に変えて君臨する。
――こんなところかな」
どれもえらいこっちゃじゃないか!!
考えてもいなかった話を聞かされて晃が青くなる。
何か言おうと口を開くが、何と言っていいかわからず、金魚のように口をぱくぱくすることしかできない。
やっとしぼり出した言葉は、先程の説明でひっかかったところ。
「何で京都限定なんですか?」
いいところに気付いた。というように、晴明がにっこりと笑う。
「京都のできたいきさつは知っているか?」
「歴史の授業でちょっとだけ…。都が、うつったんですよね」
そうそう。と肯定されて、晃はほっと息をつく。
「奈良の都でドロドロした権力抗争が激化したから都を変えることにしたんだけど、新しい都でも暗殺事件やら呪詛やら色々あって。怨霊とか祟りとか被害が続出したんで、さらに新しく移った都が、今の京都」
あれー? おれの習った歴史と違う気がするー?
晃が頭にハテナマークを飛ばしている間も、晴明の説明は続く。
「で、新しい都は、外から怨霊とか入ってこられないように、都の外側にガッチガチに結界張ったんだ。
おかげで外部からの怨霊は防げるようになったが、中にいる人間がこれまた恨み辛み妬み嫉みのドロッドロなことやらかすもんだから、都の中で怨霊やら何やら次々生まれてくるんだよ。
でも都の外側に張ってる結界が、外からの怨霊が入れないかわりに中からも出ていけないようにする融通の利かない結界だったもんで、都の中はさながら悪霊大国なわけ。
それじゃまずいっていうんで、都の中にもあっちこっちに浄化するものやら結界やらどんどん後付けで増やしていって、そしたら今度は外の結界とのバランスがーってなって、外の結界広げて…ってやってるうちに、世界に類を見ない霊能都市ができあがったというわけだ」
「――ええぇっと、つまり?」
話についていくのが苦しくなった晃が先をうながす。
「京都の外を囲っている結界は強力で、外からの『禍』を入れないが、中の『禍』も出さない、ということだ」
次話は本日18時投稿予定です