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第六十一話 あれから

 北山の安倍家の離れの二階の、二段ベッドの上の段。

 ここ数日の寝床で目が覚めた晃は、ぼーっとした頭でつぶやいた。


「…あれ…?」


 なんでベッドで寝ているのか。

 いつの間にスウェットに着替えているのか。


 状況がわからずぼーっとしていたら、ぐううぅぅぅ! と腹からすごい音がした。


 自分の出した音に、隣の布団がもぞもぞと動く。


 やがて、ねぐせだらけのナツが顔を出した。

 晃と同じく、ぼーっとしている。

 大きな目がほとんど開いてない。


「………おはよー」

「…おはよ」


 ナツが挨拶してくるのに、晃もかろうじて返す。

 下を見ると、ちょうどトモと佑輝も起きたところだった。


 眠そうに目をごしごしこすっているトモと、大あくびをしている佑輝にも声をかける。


 すると、またしても、ぐううぅぅぅ!! と腹の虫が叫ぶ。

 今度は四人それぞれから出たようで、思わず顔を見合わせて笑った。


 四人そろってふらふらと食堂へ向かうと、そこにはハルとヒロがいた。

 ちょうど食事中だ。

 良い匂いに、またしても四人の腹の虫が騒ぎだす。


「あ、おはよー。

 ちょうど今、そろそろ起こそうかって話してたんだよ」


 爽やかな笑顔のヒロに出迎えられ、席にうながされる。

 カウンターキッチンの奥から明子が出てきて、無事を喜んでくれた。


 とりあえずごはん。

 人数が増えたので、明子が次々におかずを作っては出してくれる。

 今日もおいしい。

 食べながら、ハルがあれからのことを話してくれる。




 あれから。



 晃達が立ち去ってから、再度『場』の浄化を行い、割れた封印石も回収した。

 京都中の『悪しきモノ』の動向把握も、結界も問題なしとなり、安倍家に出されていた非常事態宣言は解除された。



 晃達五人は、車で北山に移動している途中で寝てしまった。

 そういえば、車の振動が気持ちよくて、ふわふわしていた気がする。

 眠りこけて起きない五人を、晴臣と隆弘が二階のベッドまで運んだという。


「力持ちだね?!」

 

 まだ中学生とはいえ、それなりの大きさがある。

 佑輝は成人男性と変わらない大きさだ。

 それを一人ずつとはいえ五人も階段で運ぶなんてと驚いていると、明子がこっそり教えてくれた。


「ハルちゃんとヒロちゃんとじゃれるために、ずっと鍛えてるのよあの二人。

『父親の威厳のためには必要』なんですって」


 クスクス笑う明子に、ヒロはしかめ面だ。

 佑輝の家での一幕を思い出し、ああ…。と晃も察する。


 五人のつけていた防具も服も、少し触るとボロボロに崩れたという。

 あの黒い炎にずっとさらされていたのだ。

 無理もない。

 むしろ、よく()ってくれた。


 一人ずつスウェットに着替えさせ、ベッドに放り込んでくれたのだと聞き、ありがたさが増す。


 それが昨日の深夜のこと。


 今は翌日の昼。


 丸一日以上寝ていたと聞いてびっくりする。

 


「それだけ大変だったんだから。仕方ないよ」


「むしろそのくらいで済んでよかったよ」

 

 ハルの説明によると、あれだけ霊力量に差があるモノの『魂送り』になると、こちらの生命力全部使っても失敗する可能性のほうが高いという。

 五人全員死んでいてもおかしくなかったと説明され、晃が青くなる。


「…え? おれのムチャで、みんなを巻き込んで死なせるところだったの…?」


「そういうこと」


 そこからはハルのお説教だ。


「ごめんなさいごめんなさい」

「みんな、ごめんなさい」


 えぐえぐと泣きながら謝るしかできない。


「ハルちゃん。お説教はまたあとで。

 晃くん、ごはん食べられないじゃない。

 ほらほら晃くん。泣かないの。

 ごはん食べて元気出しなさい」


 明子のとりなしで、何とか食事を終えた。




 順にお風呂をいただきさっぱりしたところで、ハルによる健康チェックを受けた。

 本人も気づかない小さな傷から瘴気が入り込み死に至ることもあると聞き、ゾッとする。

 とりあえず五人とも身体も霊力も問題なしとわかり、ほっとする。



 祭壇のある部屋にちゃぶ台を出し、お茶をいただきながらあの時何があったか話していく。


「まさか晃の能力がカギになるとは…」


 以前の話し合いで晃の能力を「今回は関係ない」と判断していたトモががっくりしている。


「とにかく、今回は運がよかった。

 ひたすら運がよかった」


 ハルがしみじみと告げる。


 たまたま最初に白露が取り込まれたから『(まが)』が自分から異界を作り出てこなかった。


 たまたまナツが『完全模倣(コピー)』の能力者だったから修行が間に合ったし、全体の精度も上がった。


 たまたまトモが『境界無効』の能力者だっから異界にすんなり侵入できた。


 たまたま晃が『記憶再生』の能力者だったから『(まが)』の『真名(まな)』がわかった。


 たまたま白露つながりで緋炎が助力してくれたから、『(まが)』を浄化できた。


 他にもたくさんの『たまたま』か重なって、今回の結果になったとハルが言う。

 どれかひとつでも欠けていたら、今頃京都は地獄絵図さながらの世界になっていただろうと聞き、ゾッとする。


「もうこんな綱渡りはかんべんだよ!

 ホントどうなることかとおもったよ!」


 吐き捨てるように言うハルに、一番やらかした自覚のある晃は「ごめんなさい」としか言えない。


「でも」


 ハルの声色が変わった。


「今まで、誰も成し遂げられなかったことを成し遂げた。

 今後あの『(まが)』の驚異はなくなった。

 ――五人共、よくやってくれたな」


 ハルのやさしい笑顔に、晃の気持ちもパッと上向いた。

 えへへ。と五人で顔を見合わせて微笑む。



 そんな五人を優しい眼差しで見ていたハルだったが、座布団からおりてきちんと正座をした。

 背筋をシュッと伸ばしあらたまった様子のハルに、五人もつられて正座をする。


「改めて」

 手をつき、美しい拝礼をするハル。


霊玉守護者(たまもり)殿。

 今回の『(まが)』の浄化、並びに、結果的に京都をお守りいただいたこと。

 安倍家首座として御礼申し上げる。

 まことに、ありがとうございました」


 ハルの言葉に、態度に、あわあわしていたのは晃だけだった。


 ヒロが手をつき、返答した。


「我らは我らの使命を果たしたのみです。

 安倍家の皆様、特に首座様には、我らへの多大なるご支援をいただき、まことにありがとうございました」


 ヒロが頭を下げるのに合わせて他の三人も頭を下げる。

 あわてて晃も一緒に頭を下げた。


 顔を上げ、お互いに見つめ合う。

 が、すぐにヒロがプッと吹き出した。


「――と。まあね! こんなことを、今朝お偉方の前でやってきたわけだよ!」

「へ!?」


「そうそう。お前達安倍家所属になるから。

 トモと佑輝は自分()と兼任な。

 これからバリバリ仕事まわすから。

 しっかり働けよ!」


「は!?」


「せっかくの高霊力保持者だ。

 おまけにあれだけの戦闘訓練したんだ。

 使わないともったいないだろう?」


「え!?」


「報酬もちゃんと出るから大丈夫だよ!

 また一緒に仕事しようね!」


「ええぇっ!?」


 話についていけない四人の様子に、ハルとヒロがけたけたと笑う。

 なんだか化狐と化狸に化かされている気持ちになったが、明るく笑う二人をみているとまあいいかと思うのだった。




 霊玉はそのまま残った。

(まが)』の魂が浄化されたときに、別に存在していたために残ったのだろうとハルが推測する。


 とりあえず今までどおり、このまま晃達が持っておくことになった。


(まが)』はいなくなったけど、霊玉を守護することは変わりないようだ。



 自分達は、変わらず霊玉守護者(たまもり)で在り続ける。

残り二話です。

あと少しおつきあいくださいませ。


次回は明日12時投稿予定です

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