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第五話 京都へ

実在の地名・名称が出てきますが、違う世界の同じ名前の場所としてお楽しみください。


本日も五話投稿します

このお話は一話目です

 なんとか京都駅の改札をぬけた(こう)は、もうヘロヘロだ。



 安倍家(あべけ)から送られた『京都までの行き方』のおかげで、電車にも乗れたし乗り換えも何とかできた。

 が。普段の修行とは違う部分で精神力をガリガリ削られた。


 四月の吉野駅周辺の人出を見て、毎年エゲツないと思っていたけれど、あんなの目じゃない。どこもかしこも人だらけだ。


 特にこの京都駅。ホントにどこから人が湧いてくるのかというくらい人がいる。

 そして誰もが迷いなくさっさと歩いていくのだ。流されないように、迷わないようにするだけで精一杯だった。



 改札を無事ぬけて安心した途端、どっと疲れが押し寄せてきて思わず壁際でしゃがみこむ。

 ずっと肩から下げていたボストンバッグも、急に重さが増したようだ。まるで鉄の塊にでもなったかのように重い。

 はあぁー、と、弱音の代わりにため息を吐き出す。


 流れる人波を見るともなく眺めていたが、ようやくボストンバッグから水筒を取り出してごくごくと喉を潤す。

 思っていた以上に疲弊していたようで、一気に半分くらい飲んでしまった。

 それでも水分が入ったことで少し回復した。



 立ち上がり、プリントを確認する。

 次のミッションは、公衆電話に行き、家で待つ祖母に連絡すること。安倍家の迎えの人と合流することだ。


 よく一緒に遊んでいた健兄(けんにい)が、何でもかんでも「ミッションだ!」と言うので、いつの間にか晃も何かやることがある時には「ミッション」と考えるようになった。

 ひとつひとつの指令(ミッション)をクリアしていく、と考えると、色々なことがすんなりできたりするので、晃もこのクセを直す気はない。


 おろしたての黒の綿パンに、履きなれた白いスニーカー。白いシャツの上から紺色のブルゾンを羽織った「訪問に失礼のない格好」が決まるまでは大変だった。

 タンスの服を全部出し、お隣の真由(まゆ)おばちゃんが兄ちゃん達の服も持ってきて、祖母と三人でああでもないこうでもないと、ひと騒動あった。



 何とか公衆電話にたどり着く。

 そういえば、公衆電話を使うことも自分の家に電話をかけることも生まれて初めてだ。

 数回のコールのあと電話に出た祖母に、無事京都に着いたことを報告する。

 そして。


「…え? どういうこと?」

「なんか緊急事態? が起きたんだって。で、晃ちゃんに『一条戻り橋』まで来て欲しいって」


 ミッションクリア目前で、難易度の上がった新しいミッションをぶち込まれてしまった。





 そして、現在。



 晃は途方に暮れていた。



 無事一条戻り橋まで来たはいいが、人待ちしている様子の人は一人もいない。

 橋を行き交う人は誰もが目的をもって歩いていき、誰かを探す様子もない。


 そもそも本当にここでいいのかという不安が晃の胸によぎる。

「有名な観光地」と祖母は言っていたが、どう見ても普通のコンクリートの橋だし、車だって普通に通っている。まわりはマンションが建ち並ぶ住宅街だ。


 山深い吉野で育った晃にとっては、こんな短い小さな橋を「橋」と呼んでいいのかも疑問だし、その下を流れている水路も、とても川とは思えない。コンクリートで固められた溝だ。



 最初は橋のたもとでじっと立っていた晃だったが、十分過ぎたあたりから落ち着かなくなった。橋を行ったり来たりしてみたり、橋の下をのぞき込んだりと、辺りをうろうろする。

 祖母に連絡して「誰も来ないよ?! どーしたらいいの?!」と泣きつきたかったが、周辺に公衆電話は見当たらない。

 この場を離れて電話を探しに行こうにも、もし離れている間に迎えの人が来たらと思うと動けない。スマホなんて、田舎の中学生が持っているわけもない。


 連絡手段もないまま、一条戻り橋到着から三十分が過ぎた。



 泣きべそをかきそうになるのを何とかこらえていると、ふと何かが目の端にひっかかった。


 橋の下で何かが動いた気がする。

 何だろうとのぞき込んでみる。

 川の両岸は遊歩道になっていて、たまに人が歩いている。良い散歩道であり、生活道路のようだ。

 その遊歩道の、街路樹が影を作っている部分。丁度橋の真下あたりで、ちいさな何かが動いている。


 場所を変えてのぞき込むと、そこには。


「――何だあれ」


 赤ん坊が、ぴょんぴょんと跳ねていた。


 一メートルないであろう身長に、まんまるの頭、ふくふくの手足。授業の一環で訪れた保育園で見た一歳児のチビ達にそっくりだ。


 ただ、普通の赤ん坊と違うのは、肌の色。


 三人いる赤ん坊は、それぞれ赤、青、緑の肌をしていた。

 そして三人の頭にはちょこんと小さな黄色いツノが生えている。

 おそろいの袖なしの着物を着て、影の内から晃を手招いている。


 おれのこと? と無言で自分を指さすと、三人同時にこくこくとうなずく。

 そして、早く来いと言わんばかりに、ぴょんぴょん飛んだり手招きしたりする。


「まさか、お迎えって…アレ?!」


 とりあえず側まで行ってみようと、橋の横の遊歩道へとつながる階段を下りていく。

 下りてきた晃に、赤ん坊達は喜んでいるようだ。どうやら正解だったらしい。



 赤ん坊達の側まで歩いていくと、そこは街路樹の影になっているからか、ひんやりしていた。

 今までずっと日なたで立っていたので、ひんやりした空気が気持ちいい。

 しかし、日なたから急に影に入ったせいか、辺りがより暗く感じた。

 周辺にはたまたま誰も歩いていないので、このカラフルな赤ん坊達が見えているのが自分だけなのかどうか確かめることはできない。


 赤ん坊達は晃の足のまわりをくるくると走り回っている。

 なんだか「やっときた」「よかった」と言っているように感じる。

 微笑ましくなって、つい笑顔が出た。


「ええと…。君達が『安倍家のお迎え』?」


 晃が尋ねると、赤ん坊達は立ち止まり、うんうんとうれしそうにうなずいた。


 そして、晃の足をぐいぐいとひっぱり、押す。

 前から一人が右足、一人が左足のズボンをひっぱり、もう一人が後ろから両足を押してくる。


「え? え? 何、なに?」


 どうやら、川の中に入れようとしているようだ。


 川といっても水深はおそらく数センチ。入れられても支障はなさそうだが、間違いなくスニーカーはびしょびしょになる。人様に会いに行くのに、びしょびしょの靴で行くことになるのはかんべんしてもらいたい。

 抵抗しようとするが、低い重心で力をかけられ、転びそうになるのを防ぐために、とととっと足が出る。


「え? ちょっ、待っ――」


 抵抗らしい抵抗もできず、晃の両足がドボンと川に入る。

 靴もズボンもびしょぬれに――なるはずだった。

次話は本日12時投稿予定です

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