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四十九話 修行四日目ー2

引き続き痛い場面があります。

 痛い。痛い。痛い。こわい。こわい。


 えぐられた肩からは血がどくどくと流れ出ている。

 右腕は感覚がない。腕がついているのかもわかからない。

 折れた右足も感覚がない。ただ膝から下が熱くてたまらない。


 自分を取り囲んだ『悪しきモノ』達は、誰がこの獲物を喰らうかお互いに牽制(けんせい)しあっているようだ。


 この隙に逃げ出したくても、身体が動かない。

 血が足りなくなっているのか、恐怖のためか、ブルブルと震えがとまらない。

 地にうつ伏せたまま、晃はただただ震えていた。

 自分の肩から流れ出る血だまりは、どんどん広がっていく。


 痛い。痛い。こわい。こわい。こわい。痛い。


 金槌でたたかれているように頭の中でガンガンと音が響く。

 右肩と右足は熱くて燃えそうなのに、他の部分は氷のように冷たい。

 痛みと恐怖で叫び出したいが、叫ぶと自分を取り囲む『悪しきモノ』達が襲いかかってくるのがわかっているから歯を食いしばってこらえる。


 痛い。こわい。こわい。痛い。


 他には何も考えられない。

 立ち向かうとか、炎を使うとか、そんな考えは浮かばない。

 ただ目の前の恐怖にとらわれて震えることしかできない。


 そんな晃の耳元に、ハルの声が聞こえた。


「ここがアバラ」

 次の瞬間、左の脇腹辺りに激しい痛みが走った!


「ぐあああぁぁ!!」


 肋骨? 折れた?!

 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い!!


 痛くてこわくてわけがわからなくてパニックになる。

 何も考えられない。

 もうおれ死ぬんだ!

 こわい! 痛い! こわい!


 ぎゃあぎゃあと泣き叫ぶことしかできない。

 痛みにも、こわさにも、自分の弱さにも涙が出る。



「この程度でよく『ヒロを死なせない』とか言えたな」


 ハルの声が聞こえる。

 聞こえるが、意味がわからない。

 ヒロ? 何のことだかわからない。

 ただ、痛い。こわい。痛い。痛い。



 のたうち回っていると、ふと、視界に何かが入った気がした。


 なぜかそれが気になり、血と涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をなんとか向けると、うごめく黒い壁のすき間から何かが見えた。


 数匹の『悪しきモノ』が、何かをたべている。

 ぐちょぐちょと咀嚼(そしゃく)する音がやけに大きく響く。

 かすかに見えたそれは。



「――ナ、ツ…?」


 わずかに見えるのは、腕の一部だけ。

 綺麗だった手のひらに、できたての剣だこ。

 おそろいの黒いジャージの、ラインは黄色。


 ナツだ。

 ナツが。


「う…」


 ナツが


 喰われた


「う…うわあああぁぁぁぁ!!」


 ドン! と身体中から炎が立ち昇った。

 晃を中心に火柱があがり、数匹の『悪しきモノ』が巻き込まれ燃え上がって消滅する。


「ナツーーー!!」


 身体中に炎をまとったまま、晃は走り出した。

 あれだけ動かなかった身体は炎の熱でこわばりが溶かされたかのように動いた。

 折れた右足をひきずりながらなので、早く走れない。

 それでも懸命に足を動かす。


 突然動き出した獲物に、『悪しきモノ』達が立ちふさがる。

 再び弱らせ喰らおうと襲いかかってくる。


「ど…っけえぇぇぇ!!」


 いつの間にか再び握っていた炎をまとった刀を一閃する。

 目の前の黒い壁に大穴があく。

 巻き込まれたモノも燃え上がっていく。


「ナツー!!」

「もう間に合わないぞ」


 突然、ハルの声がした。

 その声に足を止める。


「ハル?! ハル、どこだ!」

 キョロキョロ見回すも、姿は見えない。

 いつの間にかあれだけいた『悪しきモノ』もいなくなっている。


 真っ暗な空間に、自分ひとりが立っている。


 肩の血は止まらない。

 あれだけ痛かった脇腹にももう痛みすらない。

 きっともう自分は死ぬのだろう。

 もしかしたら、死んでしまったのかもしれない。


 それでも。

 それでも、仲間は助けたい。


 ハァハァとあがる息もそのままに歩き出す。

 真っ暗なのでどこに行けばいいのかわからない。

 それでも先程までナツに向かっていったので、方向は合っているはずだ。

 そう信じて、ひたすら前に進む。


「ナツ! ナツ!!」


 ヒロは、トモは、佑輝はどうしただろう。

 あの強い三人なら、きっとどうにかしているはずだ。

 ハルは、一体どうしたのだろう。

 わけがわからない。

 とにかくナツを、ナツを助けなきゃ…


 そこまで考えてふと気付いた。


 …おれ、誰かを助けようとしていたような…


 パッと、白露(はくろ)の姿が浮かんだ。


 そうだ! 白露様!

 おれ達が『(まが)』を封じて、助けなきゃ!


 何故忘れていたのだろう。

 思い出すと、少しだけ身体に力が戻ったようだ。


 ミッションだ。

 これは、ミッションだ。


「ミッションいち。ナツを助ける。

 ミッションに。ヒロ達と合流する。

 ミッションさん。ハルをしばく。

 ミッションよん。『(まが)』を封じる。

 ミッションご。白露様を助ける」


 立ち止まり、ぶつぶつとやるべきことを挙げていく。


 ミッション。

 いつもやってる。

 いつもやってること。


 思い出し、目を閉じる。

 息を吸って。息を吐いて。


 すううぅぅぅ。はああぁぁぁ。


 数回繰り返して霊力を巡らせる。

 白露に聞いたことがある、霊力コントロールを使った止血法。

 一度木から落っこちて頭から血を流した晃に教えてくれた。

 呼吸を整えながら巡る霊力をコントロールして、肩の出血を止める。

 右足と脇腹の骨折も応急処置として霊力で固めておく。


 すううぅぅぅ。はああぁぁぁ。


 霊力を整えると、周りの気配を感じた。

 みんな、いる。

 大丈夫だ。まだ死んでない。


 すううぅぅぅ。はああぁぁぁ。


 霊力が巡る。

 身体の状態を整える。

 痛いけど。こわいけど。

 とりあえず、あとで!

 今は、ナツを助ける!


「こわいんだろう?」


 またもハルの声が聞こえる。

 どこから話しているのだろう。姿は見えない。



「今なら、まだ逃げられるぞ。


 死にたくないだろう? こわいだろう?

 痛いのはいやだろう?


 使命とか、仲間とか言ったって、お前に関係ないじゃないか。


 それに、まだ中学生。まだ子供じゃないか。


 『自分にはムリだ』って、逃げ出しても、誰もお前を責めないよ」



 優しく甘い言葉に、ぐらりと心が揺れる。

 押し込めた恐怖心がじわりと出てきそうになる。

 それらを、ぐっと歯を噛みしめてこらえる。

 拳を握る。右手は感覚がない。左の手の中には、刀がある。


「おれは、逃げない!」


 自分に言い聞かせるように叫ぶ。


「おれは、おれの、成すべきことを、する!!」


 握りしめている左手から炎が立ち上がる。

 ぶわりと全身に広がる炎の中で、晃はキッと前をにらみつけた。


「お前がハルなのか、ハルのニセモノなのかは知らない。

 お前が何者だろうと、仲間を傷つけるヤツは許さない!」


 そんな晃の言葉を、姿の見えない相手はあざ笑う。


「痛い痛いとめそめそ泣いていたお前に何ができる?」


 ぐっと晃がつまったのを、相手は見逃さなかった。

 ぞわり。ゆらり。

 闇の中でナニカがうごめいている。

 さっきの『悪しきモノ』が追いついてきたのだろうか。

 先程の恐怖が浮かんできて足がすくむ。

 見えない相手がクスクスと笑う。


「やめとけやめとけ。

 子供がでしゃばったって、迷惑になるだけだ。

 子供は子供らしく、山でかけっこして遊んでいたらいいんだ」


 ぐらり。心がうごく。

 そうかもしれない。

 そのほうが正しいかもしれない。

 だって、こわいのはイヤだ。痛いのもイヤだ。


 でも。


 でも。


「――おれは!」

 再び炎が立ち上がる。


「おれは、『()』の『霊玉守護者(たまもり)』だ!

 悪いヤツには屈さない!

 痛いのにも、こわいのにも、負けない!!」


 叫ぶと同時に炎を巻き上げる。

 最大火力で辺りを殲滅(せんめつ)させる勢いで炎を広げていく。


 余計なことは考えない!

 とにかく、相手をぶっ倒す!!




「ま、ギリギリ合格かな」


 パンッ。

 目のすぐ前で柏手をうたれた。

 いわゆる猫だましに、頭が一瞬固まる。

 立ち上げた炎も消えてしまった。

 反射的に目を閉じ、開けた。



 そこは、山の中だった。

 さっきまでの暗闇も、うごめくナニカも霧散している。

 晃達が修行していた、おだやかな春先の山だ。


「…あ、れ?」


 拍子(ひょうし)抜けして力がぬける。

 状況についていけずきょろきょろと辺りを見回すと、ヒロがいた。トモも、佑輝もいる。

 三人共ぐったりとしているが、無事のようだ。

 なぜか三人並んで地べたに正座している。


 ナツは?! と探すと、ヒロのそばで横になっていた。

 顔半分にタオルを乗せていて表情はわからないが、無事のようだ。


 仲間の無事に、ほーっと長い息がもれる。

 そのまま力もぬけて座り込んでしまう。


 地面についた自分の両手が視界に入る。

 そういえば!

 あわてて自分の右肩にさわってみる。

 えぐり取られたはずの肩は、えぐられておらず、痛くもなんともなかった。


 忘れていた右足と脇腹が急に痛みはじめる。


「い…痛て、痛てててて」


 座っているのもつらくて横になる。

 先程のように霊力をコントロールして痛みをごまかす。


 必死に呼吸を整えていると、ザクリと落葉が鳴った。


 悪だくみをしている狐のような、ハルが立っていた。

次話は明日12時投稿予定です

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