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第四十七話 修行三日目

 修行三日目。


 この日も前日と同じメニューをこなした。


 滝行のあと山を駆け、昼食のあとは座禅で霊力の圧縮。

 続いて剣の修行をし、夕食のあとは暗くなっても山を駆ける。


 何度も吐きながら、何度も倒れながら、五人共やる気に満ちあふれていた。




 昨夜あれから四人で話し合った。


 弱いところを見られはずかしそうに、それでも申し訳なさそうにあやまってくるヒロに「気にすんな」「がんばろうぜ」とはげましの言葉をかけ、明るくおやすみを言って部屋に戻った。


 それから、どうしたらヒロが死ぬのを避けられるかと話し合いになった。


 ナツがいかにヒロがいいヤツかを話すのに、自分の生い立ちも説明したため、その流れでそれぞれどんな環境で育ったのか、どんな修行をしてきたかの話になった。


 お互いの理解が深まり、それぞれの得意不得意もわかった。


 佑輝は戦闘力が高い。が、持久力が今ひとつ。


 トモは体力持久力戦闘力と全てある。

 それでもヒロには届かない。そして、一撃の重さは佑輝に敵わない。


 晃は体力持久力共にあるが、戦闘力が足りない。


 ナツは体力も持久力も戦闘力もない。

 が、『完全模倣(コピー)』で技術はすぐに追いつくと思われる。


 ヒロを死なせないためには、ハルの言ったとおり、自分達が最低でもヒロレベルになることが必須だ。


 どうすればヒロレベルになるか。


 この二日の修行で、自分達の体力霊力はずいぶん上がった。

 慣らすのが大変なほどに。

 つまり、この修行は効果があるということだ。


 ならば、この修行をもっと増やし、もっと体力霊力を上げよう。

 十分で走っていたところを五分で走り、一回でも多く回復を受けよう。

 霊力の圧縮にかける時間も短くし、少しでも多く霊力を取り入れなじませよう。


 まずはそれから。と話し合い、今日の修行に(のぞ)んだ。




 山を駆ける訓練では、明らかに前日よりもスピードが上がっていた。

 それでも、早く体力霊力を空っぽにして一回でも多く回復を受けるために、最初から全力で駆けた。


 昨夜の話し合いで、山を駆けるのは身のこなしの訓練もあるのではないかとトモが言った。

 そこで、一番山を駆けるのが得意な晃を見本に走り、それぞれに無駄な動きがないか、ヒロを入れた全員でチェックしあうことにした。


 初日には自分以外を気にすることはできなかった。

 体力が上がっているからこそできることだった。


 ナツと佑輝も晃達と同じスピードで走れるようになった。

 一緒に走るヒロも肩で息をするようになった。

 一回一回のダッシュを全力でやることで、短時間で体力霊力が空っぽになる。


 何度も回復を受けているうちに、ナツが回復術を覚えた。

 二人がかりで回復がかけられるようになり、またナツは自分にかけることができるようになり、回復にかける時間が短くなった。


「回復かけすぎたら逆に効かなくなるから!」とヒロに止められるくらいに回復をかけた。


 吐いても、倒れても、今までのように心が折れることはなかった。

 とにかく時間が足りない。

 ヒロを死なせないために、早くヒロに追いつかなくては。

 やればやるだけ強くなっていく実感があるから、鬼気迫る勢いで山を駆けた。



 特にナツがすごかった。

「自分がいちばん足を引っ張っている」と、昨夜の話し合いのときも深刻な顔をしていた。


 ナツの境遇を聞いたトモも佑輝も「仕方ないよ」「無理もない」となぐさめていたが、ナツ自身がそんな自分を許せないようだった。

 一昨日(おととい)も昨日も何度も気を失っていたのに、今日は倒れそうになっても歯を食いしばり、「くそおぉぉぉ!」と()(たけ)びをあげ己を鼓舞し、四人についていった。


「ヒロは死なせない!死なせないぞ!」

 ナツが()えるのに「おおぉっ!」と応える。


「絶対強くなるぞ!」

「おおっ!」


 ()え、駆ける。

 そんな自分達に、ヒロが目を細めているのには気付かなかった。




 前日と同じように山頂まで鬼ごっこをすることになった。

 今回は事前に戦略を練った。

 戦闘力のある佑輝とトモでヒロを引きつけ、そのスキに晃とナツが逃げきるというものだ。

 作戦は見事成功し、晃とナツ二人がヒロから逃げきった。

「やったぜいえーい!」とハイタッチで喜ぶ四人を、肩で息をするヒロは呆然と見つめていた。

 が、すぐに息を整え、にっこりと笑った。般若の笑みだった。


「今度は妨害なしでお願いできるかな?」


 本気のヒロの気迫はこわかった。

 こわすぎて、本気の本気で逃げた。

 そのおかげで、晃とトモがギリギリ逃げ切って勝ちとなった。




 午後からの霊力圧縮も、昨日でコツを覚えた。

 さらに五人でイメージを話し合い共有し、より圧縮できるように、早く慣れるようになった。


 最初から座禅を組んで身体を安定させておく。

 圧縮させる、隙間ができる、霊力を入れる、さらに圧縮するを繰り返し、霊力をいっぱいにしたあとは身体になじませるために霊力を巡らせる。


 昨日は加減がわからなくて霊力酔いのようになったが、今日は自分でうまく加減ができた。

 そのため、慣らすのも早くなった。

 早くなったので、圧縮の回数も増えた。


(うつわ)』はかなり大きくなったと感じる。

 入れる霊力の量が昨日とちがう。

 それでも少しでも霊力を入れようと、何度も圧縮を重ねた。




 剣の稽古ではナツが活躍した。

 最初にヒロと佑輝が打ち合ったのを見たナツがそれぞれの動きをトレースし、無駄な動きを割り出した。

 ナツは剣術は素人(しろうと)だが、舞は物心つく前からやっている。キャリア十年以上のベテランだ。

「剣も舞も同じだって気がついた」というナツは、流れるように、力を生かすように動きを修正していった。


 ナツ自身も「長時間舞うときと同じ」と自分で気づいてからは、長く打ち合えるようになった。

 一番打撃力のある佑輝とも互角に打ち合えるようになり、佑輝が落ち込んだ。


 ヒロもナツに動きを修正される。

 四人共ナツに修正された動きを練習し、習得したら打ち合い、また修正され、と繰り返すうちに、自分でも剣の精度が上がっていくのがわかった。


 ナツはナツで四人の動きを取り入れ、一番省エネで自分に合った動きを作りだしていた。

 優雅な舞のようだが、対戦すると、打ち込んでも流され、すぐに素早い剣戟が繰り出され、なかなかに厳しい相手になった。


 剣に関しては素人だった晃もナツも、この日にはヒロと互角に戦えるようになった。




 そもそも何で剣を使うのかとヒロにたずねると。


「霊玉に霊力をどんどん込めていってごらん」

 左手に霊玉を握らせ、そんなことを言う。


 ナツと二人言われたとおりにやってみる。


「もっと、戦うぞー! 武器になれー! って思って込めてみて」


 むむむーっとやってみると、左の拳が熱くなった。

 ぶわり、と拳を炎が包んだと思った瞬間、炎がどっと伸びあがり、そのまま一本の刀になった。


「えええええ?!」


 ヒロや佑輝が霊力の刀を出したのは見たことがあるが、まさか自分も出せるとは思わなかった。

 ナツも自分の刀を見つめて呆然としている。


「どうも昔の霊玉守護者(たまもり)の意識が残っているみたいで。武器イコール刀になっちゃうんだよねー」


「意識すれば槍や弓にもなるけど、刀が一番早いな」

 そう言ってトモは器用に霊玉を変化させる。

 槍、弓、手裏剣にもなった。


「刀の大きさも変えられる」

 と佑輝はパッと出した自分の刀を、ペーパーナイフサイズから自分の背丈ほどもある大剣へと変化させる。


「ほえええええ!!」

 晃もナツも驚くことしかできない。


「この辺は霊力コントロールになるから。

 明日からはこっちもやっていこうか」


 汗びっしょりのヒロがうれしそうに笑って言った。




 食事も昨日までとはちがう。

 ガツガツもりもりと、競うように食べる。

「おかわり!」「おかわり!」の声に、ハルの母の明子もおそれおののいている。


 食べれば食べただけ血肉になる。エネルギーになる。強くなる。

 たとえあとで吐くのだとしても、少しは残るように。

 小食のナツもむぐむぐとがんばって食べていた。


「よ、四人共。ちょっと落ち着こう? ムリはよくないよ?」


「何甘えたこと言ってんだヒロ! ムリしてでも強くならないとだろ?!」

「そうだそうだ!」


 晃の反論にすぐにナツが同調する。

 トモと佑輝は咀嚼(そしゃく)しながらうなずいている。


「今がんばらなくてどうするんだよ?! 負けないぞ! 死なせないぞ!!」


 言ってガツガツとごはんをかきこむ自分を見るヒロが泣きそうな顔で笑っていたので、「ヒロももっと食べろ!」とどなっておいた。




 暗くなっても山を駆ける。

(まが)』の異界では視界があるかわからないから、暗くて障害物のある場所で修行するのだと説明され、納得する。


 暗くなる前に、暗くなってからも、五人で話をした。


 できているヒロはどんなことを気を付けているのか。

 どんな風に霊力を巡らせているのか。


 イメージして、練習して、山を駆ける。

 どこが悪かったか話し合い、また駆け、霊力体力が尽きたら回復する。


 何度も何度も挑戦し、何度も何度も改良し、何度も吐いてまた挑戦し、その日は終わった。

次話は明日12時投稿予定です

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