第四十六.五話 ハルのおもい
ハル視点です。
五千字超と長いです。
半分にわけようかとも考えましたが、本編とは関係ない話なので一気にいきます。
よろしくおつきあいくださいませ。
夕食時の四人の様子に、ハルは迷っていた。
もそもそと食事を口に運ぶ四人には、覇気がない。
ヒロの修行についていくだけで精一杯のようだ。
昨日から始めた修行。
「ヒロレベルになれ」と言ったが、それは『禍』との戦いに臨む上での最低条件だ。
できれば今のヒロ以上の実力がほしい。
なにより、今の状態では、ヒロが指導するのに四人がついていくだけで、ヒロ自身の修行にはならない。
どうにか四人にもっと必死になってもらわなくてはいけない。
多少のことではへこたれない、岩に喰らいついてでも立ち向かっていく気概がほしい。
少しでも、ヒロの、全員の生存率を上げるために。
やはりヒロのことを言うかと考える。
ヒロが十四歳まで生きられないという、安倍家現当主の先見。
二歳で初めて聞いたとき、何を馬鹿なと思った。
『水』の霊玉守護者故に水に巻き込まれやすいだけだと、霊力過多による発熱だとハルは知っていたから、先見などしたことがなかった。
だから、先見を告げられた時、すぐに自分でも先見をした。
そして、愕然とした。
現当主の先見どおりだったからだ。
ハルは今生が十回目の人生だ。
何度も安倍家に生まれ変わり、安倍晴明を名乗っている。
初代、二代などとついてはいるが、安倍晴明を名乗っているのは自分だけだ。
自分以外の当主は安倍晴明を名乗らない。
その長い人生の記憶はしっかりと残っている。
何千何万とした先見はまず外れたことはない。
しかし、極稀に、自分の先見をくつがえすモノは確かに存在した。
だから、ヒロもきっとくつがえすことができる。
そう信じて、二歳のヒロに修行をつけた。
今冷静になって思うと、二歳児につける修行としては、確かに厳しかったかもしれない。
それだけ当時の自分は先見に動揺していた。
今までの九回の人生では、どの生でも大往生という年齢まで生きた。
そんな自分だが、兄弟がいたことはない。
自分の霊力が強すぎるのが両親に影響しているのか、単なる偶然かはわからない。
だから、双子の兄弟といっても差し支えないヒロの存在は、単純にうれしかった。
『転生者』で『安倍晴明』の自分と同じくらい異常な存在である『霊玉守護者』であることもうれしかった。
自分と並んでも劣ることのない存在。
自分と対等の存在。
自分の親友。
そんな存在は、長い人生の中でも数人しかいない。
周りが、ヒロが思っている以上に、ハルはヒロの存在がうれしかった。
そのヒロの、死亡宣告。
どれだけ訂正したくても、何度繰り返しても、変わらない先見。
何とかして先見をくつがえそうと、ハルも、あがきもがいていた。
安倍家になるべく関わらないようにしていたハルの父とヒロの父を引き込んだのも、ヒロの生存率を上げるためだ。
現段階の先見では、十四歳までに死ぬことしか視えない。
何が起こるか、何故死ぬのかはもっと直近にならなければ視えないのだ。
ほんのちょっとしたきっかけで、簡単に未来は変わる。
星の数よりも多い事象が複雑に交わり絡み合い、未来がつむがれていくのだ。
何が起こるかわからない以上、持てるチカラは何でも上げておくべきだと考えた。
父の晴臣には安倍家の財務をまかせた。
『霊力なし』と一族でないがしろにされている晴臣だが、霊力以外では才能だらけの人物だった。
特に、投資に関してはハルからみても何か憑いてるんじゃないかといいたくなるくらい天才的だった。
一族の誰も知らないが、とんでもない額の個人資産を持っている。
晴臣が勤めている弁護士事務所は、もともと安倍家のための事務所だ。
今までは所長の補佐業務ばかりで隠れていた晴臣に、ハルが全権をまかせた。
安倍家の資産を増やすこと。
安倍家のチカラを増やすこと。
ヒロに何かあったときに、どんな手段でも取れるように手を尽くさせた。
ヒロの父の隆弘も安倍家に巻き込んだ。
隆弘は留学時代、パソコンいじりが過ぎてあぶない橋をわたりかけ、それが縁で当時まだ珍しかったホワイトハッカーをしていたことを聞いていた。
女神とあがめる妻の「華道家としてひとりだちしたい」という夢を全力サポートするために、ホワイトハッカーの職も弁護士の道も捨てていたが、安倍家のデジタル導入の責任者に無理矢理抜擢した。
この時代はデジタルが中心なのは誰が見ても明らかだ。
もっと早く対策をとってもよかったくらいだ。
情報処理部門をつくり、隆弘にシステムとプログラムを作らせ、部員を選び徹底指導させた。
特に徹底させたのは、情報管理。
霊玉守護者であるヒロの不利にならないように。
ヒロにとって有益な情報はすぐに得られるように。
ヒロを「女神そっくりの子供。つまり天使!」と言ってはばからない隆弘は、「ヒロのため」と言えば馬車馬よりもよく働いた。
その晴臣と隆弘は、ハルにとって父親だ。
普段他人に紹介するときは「ハルの父」「ヒロの父」と言っているが、ハルもヒロも、父親が二人いると思っている。
もちろん母親も二人だ。
これには家庭環境が影響している。
元々従妹同士、双子と言われ仲の良かった母ズと、大学時代からの親友で同居していた父ズ。
結婚してからも当然交流は深く、「華道家としてひとりだちしたい」と悪戦苦闘していた隆弘夫妻は、晴臣夫妻の家に月の半分以上は転がりんでいた。
むしろ、ほぼ同居していた。
そんな状態は二日違いで子供が産まれても続き、明子が子育ての中心となり、他の三人がサポートする形で日々が過ぎていった。
二組の夫婦と、二人の子供。
ちょっと珍しい家族の形だが、自分達にとっては自然な家族関係だった。
その親達にハルが何度も言われていたことがある。
「せっかく子供に生まれたのだから、子供時代を楽しんでほしい」
自分が『転生者』であることは、母の腹にいるときから伝えていた。
それを両親も、隆弘夫妻も、あっさりと受け入れた。
安倍晴明であることまでも。
受け入れた上で、ただの子供でいいと親達は言うのだ。
これには驚いた。
今までの人生では、早く大人になること、安倍晴明として一族を導くことを求められてきたというのに、この四人は子供であれとそればかりを願う。
元々晴臣は『霊力なし』で、安倍家と関わりが薄かった。
それを幸いと、ハルを普通の子供のように扱った。
それが、ハルもうれしかった。
今生は、生活様式も今までの人生とは全く違った。
まるで異世界に落ちたようだと、落人はこんな気持ちなのかと思った。
それもあって、ヒロと二人、子供らしい子供として成長していった。
それも、二歳まで。ヒロの先見を受け、少しでもヒロの生存率を上げるため、手っ取り早く力を手に入れた。
十代安倍晴明として、二歳にして安倍家の全権を掌握したのだ。
それでも、父ズも母ズも変わらない。
ただの子供として、ただのハルとして扱ってくれる。
それは、考えていた以上にうれしいことだった。
「どした? ハル」
気付いたら、隆弘の仕事場に来ていた。
ちょっと気分転換しようと散歩していたつもりが、いつの間にか隆弘のところに来てしまったようだ。
ヒロの先見を知れば、きっとあの四人は奮起する。
ずっと親しいナツはもちろん、義理堅い佑輝に頭のいいトモ、人のいい晃ならば、きっとヒロを死なせまいと今以上にがんばる。
ちょうどヒロが先見の話をしそうだと予見し、さり気なく四人を起こし、話を聞くように仕向けた。
狙いは当たった。
大当たりだ。
しかし、晃の言葉は、涙を流すヒロは、ハルにとってショックだった。
「ハルのせいだ」「ハルが悪い」と八つ当たりされるのは大したことではない。
晃はあやまってくれたが、気にしていないので問題ない。
自分がショックだったのは、ヒロが本心を隠していたこと。
そのことに気づけなかったこと。
「ヒロの話を聞いていない」と言われ、そのとおりだと気付いたこと。
二歳のあの日以来泣いたことのないヒロが。
ナツの母の死を知ったとき以外は涙を見せたことのないヒロが、泣いたこと。
いつの間にか人払いがされ、室内には隆弘と自分の二人だけになっていた。
そのことに、知らず肩の力が抜ける。
「何か飲むか?」と聞かれるが断る。
「進捗はどうだ?」
報告書は先程見たばかりだが、話の切り口を探してそんなことを聞く。
隆弘もわかっていて「ぼちぼちだな」と答える。
「トモくん使えたらもっと早いんだけどなー」
「今回は仕方ないな。現状戦力で何とかしろ」
普段わがままを言わないヒロが「他の霊玉守護者に会いたい」と珍しく何度も願い、四歳でトモに、佑輝に、ナツに会った。
幼い自分とヒロを連れて行くのは、たいてい父ズのどちらか。
その日はたまたま隆弘がトモの家への引率者だった。
仕事が間に合っていなかった隆弘は、子供達をトモの祖父母にまかせ、部屋と机を借りてパソコンと格闘していた。
それに興味をもったのが、四歳のトモだった。
トモは隆弘の話にがっつりハマり、そんなトモを隆弘もおもしろがって行くたびに色々と教え込んだ。
隆弘が関わっていたホワイトハッカーの会社の試験に最年少で受かったトモは、今や隆弘をもしのぐという。
情報収集に参戦してくれれば確かに心強いが、今回トモは実戦部隊だ。
まずは体力霊力を上げることを優先しなければならない。
そっけなく言葉を返したのに、隆弘がふわりと自分を抱きしめる。
驚くが、隆弘がすぐ抱きつくのはいつものことだ。
そして、ぽんぽんと背をたたかれると、力が抜けて肩にもたれてしまうのも、いつものこと。
「――今度は、何をかかえてるんだ?」
見透かされるのも、いつものこと。
九回も大往生しているのに、狐と呼ばれる自分なのに、隆弘に隠し事ができたためしがない。
「いつも言ってるだろ? ハル。
お前はオレ達の息子なんだ。
まだ十三歳の子供なんだ。
子供は子供らしく、親に甘えてわがまま言っとけ」
軽い口調と背のリズムに、喉の奥が苦しくなる。
何でこいつはわかるんだろうかと目の奥が熱くなる。
「――それ、似たようなこと、さっき晃がヒロに言ってた」
「ほほう。やるな晃くん」
晃の言葉を思い出した。
ヒロに「わかったふりしてのみこむな!」と怒った晃。
「言ってどうなる」と頑なだったヒロに「ヒロが楽になる」と即答した晃。
自分も、吐き出しても許されるだろうか。
子供のように、父に甘えて吐き出してもいいだろうか。
「――弱音、吐いて、いいか?」
「どんとこい!」
ぎゅっと抱きしめてそんなことを言うものだから、おかしくて涙がにじむ。
「――僕は、」
先程の、ヒロ達のやりとりを洗いざらい話した。
「僕は、役立たずだ。
肝心な時に役に立たない。
大事な人ほど守れない」
あぁ、晃。
お前の言うとおりだ。
吐き出すと、身体の中に溜まっていた澱も出ていくようで、少しだけ楽になる。
「何が安倍晴明だ。何が天才陰明師だ。
何度転生しようと、どれだけ長生きしようと、大事な人が守れないなら、そんなチカラ意味がない」
だが、晃。
多少楽にはなっても、事実はくつがえせない。
事態も変えられない。
僕が役立たずなことは、変わらないんだ。
「結局僕は、あのころの、捨てられた役立たずの子狐のままなんだ」
「…ハルが役立たずだったら、世の中のほとんどが役立たずになっちまうぞ」
そう言って背をなでる隆弘に、小さく首を振る。
まるで子供のようだと自分でも思う。
「ハルはがんばってる。
やるべきことをちゃんとやってる。
ハルがちゃんと指示してくれるから、みんなパニックおこすことなくがんばれてるんだ」
「…それは最低限の僕の役割だ。
やって当たり前のことだ」
「当たり前を当たり前にやってくれてるから、たくさんの人が助かってるんだ。
ハルはエラいぞ。役立たずなんかじゃないぞ」
「結果がともなわなければ意味がない」
自分のその一言に、隆弘の抱きしめる力が一瞬強くなる。
「――それは、大人の考え方だよ。ハル」
「中身百歳超えのじじいだぞ僕は」
「それでも」
片手は背に置いたまま、反対の大きな手のひらで自分の頭を抱え、ぎゅうっと抱きしめてくるものだから息ができなくなる。
息が苦しくて、涙が出そうだ。
「中身がじじいでも、それでも、お前はオレ達のかわいい子供だ」
口をふさがれているから、反論ができない。
喉の奥が苦しいのも、口をふさがれているからだ。
「ハル。
オレ達にできることは限られている。
オレだって、ヒロのことを考えると、気が狂いそうだよ。
でも、だからこそ、それぞれにできることをやっていこう?
あせっても、苦しくても、目の前のことを、ひとつずつ」
隆弘も、自分と同じ苦しみと葛藤しているのだとわかった。
ヒロが大事で。
そのヒロの死を目前にしているのに、何もできない苦しみ。
同じ想いを抱えてあがいているのが自分一人じゃないということに、少しだけ心が軽くなった。
そして、幼いヒロがあれほど他の霊玉守護者に会いたがった理由が、本当の意味でわかった気がした。
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