第四十一話 四百年前のいきさつとハルのこと
「そういえば詳しく聞いたことなかったけど、四百年前はどうやって封印したの? ハル知ってる?」
ヒロに問われ、「知ってる」とハルがうなずく。
そして、話してくれた。
四百年前も『悪しきモノ』を次々と取り込んで『禍』は巨大になっていた。
当時は戦国末期。
応仁の乱から始まった戦の時代は、たくさんの『悪しきモノ』を京都中に生み出していた。
それを取り込み、大きく大きくなっている最中に、当時の霊玉守護者が『禍』を封じた。
人々に攻撃を仕掛ける前に封じたのだ。
「五人それぞれに封印石を持たせ、『禍』を取り囲んで封印石をぶつけるよう指示したんだ」
最初は封印石を投げつけたが、はじかれたので、封印石を握りこんで腕を差し込み、起動させたのだとハルが話す。
当然そこにたどりつくのに、あまたの『悪しきモノ』を倒している。
攻撃されると判断した『禍』が、取り込んだモノを開放し差し向けたのだ。
それらを全て倒し、『禍』本体になった状態で、その攻撃をよけながら封印石を持った腕をさしこんだのだ。
話を聞き終えた晃は呆然とした。
それを、おれらに、やれ。と?
考えなくてもわかる。
ムリだろ?
でも、やらなければ白露は『禍』に取り込まれてしまう。
ヒロレベルにまで自分が強くなれば何とかなるなら、やらねば。
きっとハルも、できる可能性があるからやれと言っているはずだ。
強くならなければ。
強く。強く。
誰もが難易度の高さに青くなっている中、トモが発言を求め「ちょっといいか?」と小さく挙手する。
「…誰も聞かないから俺が聞くけど」
トモがヒロをちらりと見て、おずおずといった様子で口を開く。
できればヒロに聞いてもらいたかったと顔に書いてある。
「四百年前の霊玉守護者五人は、どうなったんだ?」
一瞬の沈黙。
ハルが顔を笑みの形にして一言問う。
「聞きたいか?」
一人一人見つめるハルの笑顔に気圧される。
聞きたいような、聞きたくないような。
ハルがそういう言い方をするということは、きっと良い結果ではなかったのだろう。
迷っているのは、ハルにはバレバレのようだった。
何も言えずオロオロするしかできない晃と違い、ヒロはまっすぐにハルを見て言った。
「聞きたい」
決意を秘めた声だった。
その声に後押しされるように、他の四人も腹を決め、ハルにうなずいた。
ハルは仕方ないなぁというようにひとつ息をつくと、五人をぐるりと見た。
「霊玉守護者五人のうち、四人は封印石と一緒に喰われた。
帰ってきたのは一人だけ。
そいつも、封印石を握っていた右腕一本喰われた」
思わず息をのむ。
それは。
それは。
思い出すのは、一昨日のあの恐怖。
『禍』に喰われそうになった時に感じた、死がすぐ間近まで迫ったあの感覚。
誰も何も言えない中、トモがようやく口を開いた。
「まるで見てきたかのように言うんだな」
雰囲気を変えようとするかのように、わざと明るく、わざと少しズレた感想を言う。
ハルもそれに応える。
「まぁ僕、帰ってきた一人と元々友達だったから。わりと詳しく話聞いたからな」
「…ん?」
トモが想定していた答えと違ったのだろう。
笑顔のまま固まったトモに、ハルも何が言いたいか察したようだ。
「あれ? 言ってなかったか?」
「何を?!」
「ヒロには言ったよな?」
「何が?」
トモとヒロに確認し、ハルは言った。
「僕、四百年前の霊玉守護者五人と知り合いだったって」
「…はあぁっ?!」
トモと晃の叫びは無視された。
ナツと佑輝は目を見開いて固まったままだ。
「それは初耳だよ?
ぼくが聞いてるのは、ハルが初代安倍晴明だったっていうのと」
トモは驚きすぎて口を開けたまま動かない。
他の三人も同様だ。
「今が十回目の人生だっていうことだけだよ」
「なるほど。『転生者』か」
「だからハルは大人っぽいんだな!」
「それでやたら色んなこと知ってたのか。それにしても初代安倍晴明って…。超有名人じゃないか」
『十回目の人生』と聞いて、晃はナニソレと驚いているのに、京都育ちの三人は驚きながらも受け入れている。
佑輝の言葉に思わず疑問がこぼれる。
「転生者って何?」
「前世の記憶をもっている人のこと」
すぐにヒロが説明してくれる。
「まあ京都ではあまりめずらしくないかな」
「え?」
「俺の知り合いにも三人はいる」
「小学校のとき同学年に二人いたぞ」
トモと佑輝も口添えする。
「そんなにいるもんなの?!」
思わず声をあげると、全員がうなずいた。
「京都って、外を結界で囲まれた霊能都市だから。
おまけに中も結界やら神社仏閣やら乱立してて、霊的に見て時空のゆがみが発生しやすいんだよね。
そのせいか、落人もよく落ちてくるし、記憶を持ったまま生まれ変わる人も多いんだ」
ヒロの説明に、晃は「ほえー」としか言えない。
「とはいえ、十回目っていうのはさすがに初めて聞いたぞ」
トモが言えば、ナツも佑輝もうんうんとうなずいている。
「僕の場合は狙って転生してるからね」
記憶を持ったまま生まれ変わるように陰明術を使っていると、簡単にハルは言う。
「そのかわり、術をかけた子の子孫にしか生まれられないし、僕の親になる子は、場合によっては祖父になる子も、僕に霊力を渡すために『霊力なし』になるんだけどな」
ハルが生まれるために晴臣は『霊力なし』として生まれたという。
そんなことができるのかと驚くことしかできない。
「まぁ、誰だって誰かの転生者だ。
そのころの記憶を持っているか持っていないかだけの話だよ」
「だけ」とハルは簡単に言うが、やはりそれは大変な違いだと晃は思う。
そして、ハルが落ち着いて大人っぽいことに納得した。
「まぁ僕のことはいいんだよ」
言いながらハルは胸のポケットから何かをごそごそと取り出す。
「初代安倍晴明だろうが何度生まれ変わってようが、この件で僕にできるのはサポートだけだ」
ちゃぶ台の上に袋から取り出した包みを置く。
それを開くと、ビー玉サイズの玉が五つ出てきた。
ガラスだろうか、水晶だろうか。無色透明の玉だ。
「これが封印石」
これが。と、思わず見つめる。
特に強い霊力などは感じない。
ただの透明な石に見える。
「封印の力を強めるために、五行の理を使う。
お前達ひとつずつ持っとけ。それぞれの属性に染めるんだ」
はい。とひとつずつハルが封印石を手渡してくる。
反射的に手を出し受け取る。
小さな軽い石のはずなのに、ずっしりと重く感じる。
「ホントはペンダントみたいに首から下げて肌に直接当てたほうがいいんだけどな。
修行中に首にヒモかけてて、もし絞まったら危ないからな。
胸のポケットにでも入れとけ」
首にかける装飾品が危険物に変わる修行とは、一体どんなものなのか。
一抹の不安を感じながらも、受け取った封印石を胸のポケットに入れる。
チャックがついているので、落とす心配はなさそうだ。
全員が封印石をポケットに納めたのを確認して、ハルは五人をぐるりと見回す。
「話はこんなところかな。
何か質問あるか?」
ハルに問われ、今までの話を頭の中で整理する。
自分達がやること。
『禍』を封印すること。
『禍』に干渉できるのは自分達だけだから。
『禍』の異界の中は『悪しきモノ』だらけだということ。
それを倒し、封印石を使って封印すること。
そのために、ヒロレベルまで強くなること。
これから修行して、強くなること。
四百年前の霊玉守護者のことは今は考えない。
考えるべきなのは、強くなること。
強くなって『禍』を封印し、白露を助けること。
それだけに絞って考えると、覚悟が決まった。
質問はないと示すためにハルの目をまっすぐ見てうなずく。
他の四人も同じようにうなずいていた。
ニヤリとハルが笑う。
何度見ても悪だくみしている狐のようだ。
「じゃあ、さっそく修行に入ってくれ。
京都の平和はお前達にかかっているぞ」
次話は明日12時投稿予定です




