第四十話 現状報告
「昼前の霊力のゆらぎについて話せ」とハルに言われ、あのとき何がおこったかをヒロを中心に説明する。
さらにヒロと晃は昨日御池を出発してからのことも話す。
ハルは全て聞き終え「そうか」と一言うなずくと、それはそれは綺麗に笑った。
「さあ。お説教の時間だ」
こわかった。
正直、本気で怒ったうちのじいちゃんよりこわかった。
がっつり絞られ、ふるふると震えながら晃は泣くのをこらえる。
心なしか佑輝とトモの顔も青い。
それなのにヒロとナツは「思ったより怒られなかったね」「よかったなヒロ」と笑いあっている。
…あれで?
じゃあ本気で怒ったらどうなるんだ?
怖いので知りたくはない。
世の中には知らなくてもいいことがある。
ただ、ハルだけは怒らせないようにしようと固く誓った。
そのうちに、ハルが戻ってきた。
この二日のできごとの報告を受けて、急ぐ指示を出しに席を外していたのだ。
「とりあえず急ぎの指示は終わった。
お前達の話は聞いたから、次はこっちの話な」
ハルはそう言うと足をくずし、茶を飲んだ。
その様子にヒロもナツも緊張を解き楽な姿勢になっている。
「みんなも足くずしなよ。話長いよ」とヒロにすすめられ、三人もおずおずと足を崩した。
ヒロは早速自分の用意したおやつをみんなに配り、自分は食べ始めている。
「まずは南の結界。
こちらは修復にむけて順調に進んでいる。
といっても穴をふさぐだけの応急処置的なことしかできないがな」
やぶれた障子の穴を紙でふさぐようなものだと説明される。
そこに穴があることはバレバレだが、ふさがないよりはマシらしい。
「次に封印石を割った件の裏付け。
こっちはまだ難航している。あと数日はかかるだろう」
対象者も多く、なかなか思うように進んでいないとため息をつく。
「三つ目。京都中の結界の総点検。
こっちもまだ半分しか済んでいない。
あわせて他の『悪しきモノ』が妙な動きをしていないかを調べているが、こちらは動きがない」
あれだけ巨大な『禍』が動き、結界に穴が空いたなら、便乗して暴れたり結界を抜け出そうとするものが少なからずいるはずなのに、それが全く無いという。
「どうも『禍』が京都中の『悪しきモノ』を取り込んだみたいなんだ」
ハルは『禍』のところに式神を飛ばして得たという情報を教えてくれる。
『禍』は封印が解けたあと、五つに分かれて晃達霊玉守護者の元に飛んだ。
しかし、京都を囲む結界に防がれ、またヒロとナツに散らされて、五つに分かれた『禍』は再びひとつに合わさった。
そして、封印が解けた『禍』の邪気で活性化した『悪しきモノ』を、手当たり次第に、次から次へと取り込んでいったのだという。
そうやって『禍』は巨大な霊力を得て、一番弱いと知った南の結界に突撃し、破った。
そのまま南にいる晃の気配を目指し、吉野の結界も白露の結界も破り、白露を取り込んだのだ。
幸か不幸か『禍』が『悪しきモノ』を取り込んだおかげで、他の被害がなかったという。
とんでもない話に、五人は口をはさむこともできない。
一気に話したハルはお茶で喉を潤し、ふぅとひとつ息をついた。
「で。『禍』の現在の状況だが」
一番自分達に関わる話になり、五人が表情を引き締める。
「やはり『禍』の異界には誰も干渉できなかった」
安倍家の退魔に携わる中でも上位にある数人で『禍』への攻撃を仕掛けようとしたが、そもそも『禍』の異界を認識することができなかったという。
霊力差がありすぎると、下位の者には上位の存在が認識できないのだと説明してくれる。
認識できるとすれば、上位の者がその存在を示したとき。
つまり、『禍』が白露を取り込み、この京都に君臨しようと現れたときだ。
そうなっては当然敵うわけもない。
『禍』の異界を認識できたハルの指示で、一か八か攻撃を仕掛けたが、全く効果はなかったという。
ハル自身も攻撃を仕掛けたが、異界の外からでは全く効果がなかった。
かろうじて、細く細く組んだ式神を侵入させることはできたが、とても攻撃することはできないという。
ましてや封印するなど、無理な話だ。
『禍』に干渉できるのは、やはり『霊玉守護者』だけ。
『禍』の霊力を分けた霊玉を持つ霊玉守護者にしか、現時点で『禍』を封じることはできないと改めて説明される。
そしてハルは『禍』の異界の中の様子を話し始めた。
「『禍』は自分の作った異界の中で、白露様を取り込もうと苦心していた」
そして晃をみてハルが続ける。
「晃がナツの異界に飛ぶ前に見たという黒いもやもや。多分、それが『禍』だ」
やっぱり。
晃も佑輝の家で寝ようとしたとき気付いたのだ。
あれはもしかして、と。
ただ、あの時気付いていても、何もできなかったのには変わりない。
「僕が今日『禍』の異界に侵入したときには、『禍』は白露様を取り込むために、それまで取り込んだ『悪しきもの』を全て吐き出していた。それらが出るに出られずうごうごと争っていたよ」
「蟲毒みたいだね」とヒロがつぶやく。
『こどく』が何かわからなかったが、話がそれそうなので黙っておく。
「白露様に気を取られて他に注意がいっていないようだったから、うまくすれば『禍』に気付かれる前に封印石で封印できるかもしれない」
難易度が少し低くなったともとらえられそうなハルの言葉に、こわばっていた身体から少しだけ力がゆるむ。
「もちろんそのためには『禍』の吐き出した『悪しきモノ』を倒さなければならないだろう。
『禍』を封印するために『禍』の異界に侵入したら、間違いなくすぐにヤツらに囲まれるからな」
それは、どれほどのミッションなのだろう。
『悪しきモノ』って、どのくらい強いんだ?
どのくらいの数がいるんだ?
聞きたいけど、こわくて聞けない。
『悪しきモノ』と戦ったこともなければ見たこともない晃には、どんな戦いになるのか想像もつかない。
それでも、実戦経験があるというヒロも、トモも、佑輝も顔をこわばらせ口を引き結んでいることから、容易なことではないとわかる。
「そのために、まず四人には大至急レベル上げをしてもらうぞ。
少なくとも、今のヒロレベルにまではなってもらう」
『今のヒロレベル』がどのレベルかわからないが、とりあえず四人でうなずく。
「ビシバシやれよヒロ」「はーい」と明るく話す二人からは、どの程度の修行になるのかわからなかった。
「そのレベル上げにかけられる時間はどのくらいあるんだ?」
トモの問いに、少し考えてハルが答える。
「できれば数日、長くても十日とれるかどうか、だな。
それ以上は白露様がもたないかもしれない」
その答えに、晃がぎゅっと拳を握る。
「そんな短期間で俺たちがヒロレベルになると思うのか?」
「それはお前達次第だろう?」
ハルに挑戦的に言われ、トモも口をへの字にしてそれ以上は言わない。
ヒロは相当に退魔師としてのレベルが高いようだ。
同じ退魔師として実戦に出ているという佑輝も、トモと同意見のようで眉をよせている。
自分は修行についていけるだろうかと不安になる晃だった。
次話は明日12時投稿予定です




