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第三十四話 西村家

「まぁ、やっちゃったものは仕方ないだろう」


 けろっと言うのはトモだ。

 最初の印象どおり、飄々としている。

 合理的というか、現実的というか。


「とりあえず、ウチに移動しよう。ヒロの親父さんがあることあることウチのおばさん達に話してるぞ」

「すぐ行こう!!」

 別の意味で青くなったヒロがすっくと立ちあがる。


「ナツはまだ縮地(しゅくち)できないから、ぼくが背負っていくね。トモ、先導お願い」

「りょーかい」

 立ち上がったトモに「二人は走れるか?」とたずねられ、佑輝(ゆうき)と二人でうなずく。


「じゃあ、行くか」

 そう言うと、トモは走り出した。

 (こう)と佑輝が後に続く。

 ナツを背負ったヒロが最後尾だ。


「晃。佑輝。できるだけトモと同じところを走るように気を付けて」

 何で? と問う前にヒロはトモに声をかける。

「トモー。佑輝は走り慣れてないから、ゆっくりめでー」

「おー」


 ザッ、ザッ、と地面を走っていたと思ったら、突然タタンッと樹を蹴り上げ上空に舞うトモ。

 晃は白露といつもこんな修行をしていたので、平気で同じルートをついていく。


「ホラ佑輝。同じ道をついていって。迷うよ」

「お、おう」

「ナツ。前を走ってる晃が見える? 山を走るのは晃が一番慣れてるから。晃の動きをよく見てね」

 ナツがヒロの背でこくりとうなずく。


 トモと晃は軽々と走っていく。佑輝も遅れないように何とかついていく。

 そして小柄とはいえ人一人背負ったヒロも、難なくついていった。


「ばーさんが結界の強度上げてたんだよ。元に戻し忘れてたって。ごめんなー」

 走りながらトモが話す。

 体さばきで山を駆け慣れているのがわかる。


「トモの走るルートなら迷わないのか?」

 晃と佑輝は、何度走っても同じ場所に戻っていたのに。

 何か特別なルートがあって、トモはそれを知っているのだろうか。


「俺、結界とか効かないんだ」

 どういうわけか、異界や結界など『境界』のあるものを無効にして出入りできるらしい。


「境界無効。俺の特殊能力」

 本人は普通に歩いているだけなのに、何故か『境界の隙間』を選んでしまうのだという。


「自然に正解ルート選ぶみたいだ。

 だから、ばーさんの迷いの術も俺には効かない」

 なので、トモの走るルートをたどっていけば、晃達もこの術から出られるという。

 晃はただただ驚くばかりだ。




 走ったのは十分程度だっただろうか。

 突然山を抜けた。

 ザっと木から飛び降り着地したところは、先程見た家の裏手のようだった。


「無事全員ついてきたな。よかったよかった」

 こっちこっち、とトモにうながされついていく。

 枝折(しお)()を押し開け、庭に入り、ぐるりと回って玄関に出た。


「ただいまー。連れてきたよー」

 トモの声に奥から女性が出てきた。

 晃の祖母と同年代に見える。

 この人が迷いの術をかけたトモの祖母だろうか。


「いらっしゃい。霊玉守護者(たまもり)くんたち」

 こんにちは。と四人が挨拶をする。


「それにしても、あんたたち、よく動いてきたのねぇ」

 にっこり言われ、えへへと笑顔を返す晃。

 お互いの姿を見ると、山を駆けてきたので木の葉やらホコリやら色々ついている。

 よく動いてきたのは間違いない。

 修行してきたから褒められたのかな? と晃が思っていると、トモが「やべっ」と言いそうな顔で玄関を出た。

 あわててヒロが続く。

 何だ何だと思ったが、佑輝とナツも後を追ったので急いでついていく。


 トモとヒロはパンパンと自分の服をたたき、汚れを落としていた。さらにお互いの背もたたきあったあと、ヒロは側に来たナツの汚れをかいがいしくはたきおとしてやる。トモは佑輝の手の届かない背中や頭の汚れを落とす。


「え? 何? 何?」

 何が起きているのかわかっていない晃を、ヒロとトモが囲む。

 前後から汚れをたたきおとしながら説明してくれる。


「あれ、『汚いからきれいにしてこい』って意味」

「え?」

「まあ、京都流の言い回しだよね」

 ヒロとトモがお互いを含めて全員チェックして、よし。と再び玄関をくぐる。

 再び先程の女性と挨拶を交わし、家にあがる。


 先導されるのについていきながら、晃がトモをつつく。

「あの人がおばあさん?」

 前を歩く女性からは強い霊力を感じる。能力者なのは間違いない。

 結界を強めたというおばあさんかとたずねると、トモは短く返事をする。

「いや。叔母」

 そうなの?! と思ったのが伝わったようだ。苦笑とともに教えてくれる。

「俺、父が五十三のときの子なんだ」

 だから一世代ずれているのだと話してくれる。

 

 こそこそ話していると、佑輝がトモをつんつんとつつく。

「…鳴滝の西村家?」

 じっと表札を見ていると思ったら、名字を確認していたようだ。

 トモが肯定すると、ちょっと興奮した佑輝が続けて問う。


「伝説の退魔師の西村(にしむら) 玄治(げんじ)さんて、身内?」

「じーさん」

 今いるよ。と言われ、佑輝がぱあっと喜色に染まる。

 どうやらすごい人のようだ。

「ウチはばーさんが一番エライんだ。じーさんはばーさんの言いなり。

 会ってがっかりしても知らないぞ」

 そう話しているうちに、座敷に通された。


 上座に二人の老人が座椅子に座っていた。

 二人共八十歳は超えていると思われる。

 小柄な老女は白髪を結い、紺の絣の着物を着てちょこんと座っている。

 しわのある顔だが張りがあり、血色もよい。にこにこと穏やかそうだ。

 それに寄り添う老人は、年齢のわりにしっかりした身体つきで、背筋もしゃんと伸びている。

 白髪を短く刈り込み、作務衣を着ている。


 この人が伝説の退魔師。

 たしかに強者のたたずまいだ。

 強い霊力を感じる。


 その二人の前に隆弘がいた。

「おそいぞ子供達ー」と、のん気なものだ。


「ごめんねぇ。おばあちゃん、結界の段階上げたまま、うっかりそのままにしてたわぁ。

 みんなが来る前にいつもの状態に戻しとけばよかったねぇ」

 おっとりと謝られる。

「大丈夫です。トモが来てくれましたから」

 ヒロが言うと、おばあさんはにっこりと微笑んだ。

 笑うとしわがよって、人形のように可愛らしい。


「トモのおばあちゃんのサトです。こっちはおじいちゃんの玄治さん」

 その名を聞いて佑輝がぴんと背筋を伸ばす。

 伝説の退魔師に会えてうれしくてたまらないらしい。目がキラキラと輝いている。


 五人で並んでトモの祖父母に挨拶をする。

 それぞれ名乗るとにこにことうなずいてくれる。


 トモの祖母は不思議な人だった。

 ただ名乗っただけなのに、ただうなずいてくれるだけなのに、それだけで自分が認められたような、何かを肯定されたような、不思議な高揚感が起こる。

 

 ただ、ナツの顔を見たときだけは、おばあさんは少し引っ掛かりを覚えたようだった。

 うなずいたあとちいさく首を傾けて、ナツをじっと見つめていた。


「話自体は昨日(おみ)が来て済んでるから。

 じゃあ、トモくん、行こうか」

 辞去の挨拶をする隆弘を、トモの祖母が止めた。


「お昼ごはん、食べていきなさい」

「え?」

「今すぐ用意させますから」

「いえ、そんな急な、ご迷惑になりますか「由樹さーん」

 明るく呼ばれ、先程の女性――トモの叔母が祖母の側にやってくる。

 昼食を用意するよう指示され、すぐにひっこんだ。


 押しが強くマイペースに見える大人の隆弘が反論できなかった。

 そのことに驚きつつ、隆弘でどうにもならないのなら自分達ではどうにもできないと、五人は顔を見合わせあきらめるのだった。

次話は明日12時投稿予定です

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