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第三十三話 霊玉

本日から一話投稿になります

 ふと、身体の中で何かが共鳴しているのを感じた。

 あれ? と思っている間に、共鳴は次第に強くなる。


「あ。お迎えが来たみたい」

 ヒロが顔を向けたのにつられて見上げると、遥か上方に人影が見えた。

 え? と見ていると、人影は人の姿になり、すぐ近くにに着地した。

 すっくと立ち上がった少年は、どこか飄々とした雰囲気をしていた。


 ヒロと同じくらいの背。170センチより少し高いだろう。

 服の上からは体型はわからないが、身のこなしから相当鍛えていることがうかがえる。

 フード付きのトレーナーにジーンズ、スニーカーという、「ちょっとそこまで」といった出で立ちで、とてもこの深い山を歩く格好ではないが、実際目の前に立っている。

 つり上がった眉の下の目は垂れていて、どこか眠そうでもある。

 長めの前髪と短く整えた後頭部という髪型が都会っぽい。


「久しぶり。トモ」

 ヒロに呼びかけられたトモは、おー、と応えたが、小さく首を傾げる。

 が、すぐに納得したようにポンと手を打った。


「これで霊力守護者(たまもり)が揃ったのか。それで共鳴してるのか」

 言うなり左手をぐっと握り、四人に掌をみせる。


 そこには、霊玉があった。

『金』と刻まれた透明な玉の中は、白い渦が踊っていた。


「『(ごん)』の霊玉守護者(たまもり)西村(にしむら) (とも)だ」

 おお、と声をもらしたのは誰だろう。自分かもしれない。

 (こう)は胸の奥の奥から湧き上がる感情に高揚していた。


 ずっと会いたかった。

 やっと会えた。

 自分と同じ存在。自分の仲間。

 ずっと会いたかった。

 やっと会えた。



 晃は立ち上がるとトモの近くに行き、霊玉を出した。


「『()』の霊玉守護者(たまもり)日村(ひむら) (こう)です」

 リン、と共鳴が起こった。


「『(もく)』の霊玉守護者(たまもり)春日(かすが) 佑輝(ゆうき)

 佑輝も隣に来て霊玉を出す。


 不思議なことに、霊玉を増やすごとに共鳴が起こる。

 今までは、他の霊玉守護者(たまもり)に会うまでは共鳴しても、お互いに霊玉守護者(たまもり)と認めたら共鳴は収まっていたのに。


 リン、リン、と、響く音も短く強い。


 ヒロとナツも立ち上がり、三人の側に来る。五人で円陣を組んだ形だ。


「『(すい)』の霊玉守護者(たまもり)目黒(めぐろ) 弘明(ひろあき)

「『()』の霊玉守護者(たまもり)、…ナツ」

 ナツも霊玉が出せるまでに回復していた。ボンヤリしていた目にも光が宿っている。



 そう立ったのは、偶然。

 晃と佑輝は並んでトモの前に立っていた。

 空いた場所にヒロとナツが立っただけ。

 それでも、偶然、五行の並びに立ち、中央に霊玉を出す形になった。


 ナツが最後に霊玉を出した瞬間。


 リイィィィ、と、ひときわ大きな共鳴が起こった。

 驚いたが、嫌な感じはない。

 やっと会えた、と喜び()いているのが伝わってくる。

 霊玉がそれぞれのてのひらの中で光り、かすかに震えている。

 やがて、霊玉から光があふれ、隣の霊玉へとむかう。

 木から火の霊玉へ、火から土の霊玉へ。

 ゆらり、と移動した光はさらに隣へ、隣へとゆらぎうごき、次第にその早さを早め、くるくると渦を巻きはじめた。


 くるくる くるくる くるくる くるくる


 廻る光は次第にひとつに溶け合っていく。

 やがて直径一メートルほどのひとつの球体になった。


 なんてきれいな霊玉だろう。


 晃はぽかんとその珠を見ることしかできない。

 自分達五人の囲んでいる中央でくるくるとまわる珠は虹色に光っている。

 しゃぼん玉がゆらめいているようだ。

 佑輝も、ナツも、トモも、ヒロも。

 同じようにただ霊玉を見つめていた。


 やっと会えた。

 やっとひとつに戻れた。


 共鳴も細かい音が重なりすぎて、リリリリリーン、リリリリリーンと、逆に長く響くように感じた。

 そうしているうちに大きな霊玉はくるくるまわりながら徐々に小さくなっていく。

 圧縮されていっているとわかった。


 いつも晃達が手にするサイズ――ピンポン玉サイズまで小さくなり、そこで固定する、と思った。


 一瞬動きを止めた霊玉は、ふるりと表面をみだし。


 そして。



 パァン!


 弾け飛んでしまった。


 予想外のことに五人が驚いている間に五つに分かれた霊玉はぐるぐると晃達の外側を回ったあと、再び五人の中心の高いところで集まりくるくるまわり、もう一度合わさろうとした。

 しかしそれは叶わず、花火が散るようにパァンと弾け、それぞれの霊玉の持ち主の身体の中に吸い込まれていった。



 あ、もどった。



 そう感じた途端、あれだけ鳴り響いていた共鳴もピタリとおさまった。




 何が起きたのかわからない。


 呆然として他の四人の顔を見ると、他の四人も同じように呆然としていた。


 五人とも霊玉を差し出したままの、左手を中央に差し出した格好で固まっている。


 となりの佑輝と目があう。

 呆然としている。


 反対どなりのナツも見る。

 何が起こったのかわからないというように、大きな目をさらに大きくしていた。



「…今の、何?」


 ポツリ。

 晃の口から言葉がこぼれた。

 それは、全員の気持ちを代弁したものだった。


 やがて。



 ぶわわわわ――っと、足元から頭の先に向かって電流が走った。


「何?! 何今の?! 何が起こった?!」

「うわあああぁ!! 何かザワザワする!」

「何かすごくなかったか?! 何だったんだ今の?!」

「すごかった! すごかった!!」

「うわあああぁ!! やっばかった――!! 今の絶対ヤバかった!!」


 晃もトモも佑輝もナツもヒロも、足踏みしたり腕をさすったりと、自分の身体をおちつかせようとドタバタする。

 鳥肌が全身に出ている気がする。動いていないと落ち着かない。

 ぎゃーぎゃーとさわぎ叫び、自分の身体のあちこちをさすり、落ち着くのにしばらくかかった。




 ざわざわがやっと落ち着くと、自然とその場に座った。

 ちょっと落ち着いて話をしたい。そんな気分。


「しかし、さっきの、すごかったな」

 佑輝が口火を切った。心なしか声が弾んで、まだ興奮がおさまっていないのがわかる。

 ナツもうんうんと激しく首を縦に振っている。


「白露様が『五人を会せたら何が起こるかわからない』って言ってたけど、ホントに何か起こったな」


 晃のつぶやきに、三人がうんうんとうなずく。

「びっくりしたな」「びっくりだな」と、お互いに言い合う。

 ヒロだけが晃の言葉にはっと目を開け、そして嫌そうな顔になった。


「――やっちゃった、かも」

 何が? と四人にたずねられ、ヒロは口元を押さえながらも話を始めた。


「四百年前に『(まが)』の封印が解けた話って、聞いてる?」

「聞いてない」「知らない」と三人は首を振る。

 晃は昨日のお茶の時間にちょっと聞いていたので黙っている。


「四百年前に『(まが)』の封印が解けたのは、『(まが)』を封印している場所で、たまたま、偶然、霊玉守護者(たまもり)五人が会ったからだって。

 共鳴が起こって封印が解けたって聞いてたけど…。

 多分、今のと同じことが起きたんだ」


「今の?」「どれ?」と口々にたずねられ、ヒロが説明する。


霊玉守護者(たまもり)五人の霊玉が、ひとつにもどろうとしたんだ。

 戻りきらなかったのは、最初に霊力を五つに分けた術がまだ生きているから――かな?」

 多分、と、ヒロは続ける。心なしか顔色が悪くなっている。

「多分、あの、ひとつになったときか、五つに弾けたときか。

 あれで、四百年前に『(まが)』の封印が破れたんだと思う」



(まが)』の封印を解くような現象を、起こしてしまった。



 サー―ッと、血の気が引いていくのがわかった。


 うわあぁぁぁ、とヒロが頭を抱える。

「これ絶対ハルに怒られるヤツ」

「ヒ、ヒロ。大丈夫だ。おれも一緒に怒られるから」

「そ、そうだ。不可抗力だ。やりたくてやったわけじゃない」

 ナツと佑輝が落ち込むヒロを励ます。その二人の顔も青くなっている。


「『(まが)』の封印はもう破れてるから。今さらだって、ハルも言ってたじゃないか。大丈夫だよ」

 晃もハルの言葉を思い出し一生懸命に伝える。

 そうかな、とヒロが少し顔を上げる。


「ただ、あれだけの霊力のゆらぎを起こしたとなると、少なからず本体に影響があるだろうな」

「うわあぁぁぁ」

「「トモーッ!!」」

「だ、大丈夫だヒロ! ヒロは悪くない! たまたまだって、おれ、ハルに言うよ!」


 佑輝と一緒に「それ今言わなくてもいいだろう?!」とトモに詰め寄りながらも、ヒロを励ますナツの姿に、元気になってよかったと胸をなでおろす晃だった。

次話は明日12時投稿予定です

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