第三十一話 隆弘
本日も二話投稿します。
このお話は一話目です。
朝が来た。
昨夜たらふくごちそうになり、霊力の濃い春日家でしっかり眠ったおかげか、体力も霊力も完全に戻っていた。
むしろいつもより調子がいいくらいだ。
最初に目が覚めた晃がナツとヒロを起こし、朝食をいただく。
昨日どろどろにした服は昨夜のうちに佑輝の母が洗ってくれていた。
ナツの服は昨夜のうちに晴臣が届けてくれた。
厚手の長袖Tシャツにジーンズというシンプルなもので、ナツによく似合っていた。
ナツは目を覚ましたものの、ずっとぼーっとしている。
「霊力がからっぽになったあとだからね。しばらくはこんな状態かも」とヒロが言う。
それでも霊力を取り込めない異界から抜け出し、霊力の濃い春日家で休んだことで、かなり回復しているようだ。
ぼーっとしながらも、もそもそと食事を口にしている。
ヒロは「あれ食べて」「これも食べて」と勧められるままに次々と食べている。
昨夜も「出る前に餅食べてなかったらヤバかった」と言っていたし、食べることでパワーを貯めているのだろう。
「迎えが来た」と呼ばれ玄関に行くと、見知らぬ男性が佑輝の父と話をしていた。
てっきり晴臣が来ると思っていたのにと首をかしげる晃の横で、ヒロが顔をしかめた。
「…なんでタカさんがお迎えなんだよ…」
「知り合い?」
「…ぼくの父」
そういえば。と晃も思い出す。
ハルが言っていた。
霊玉守護者の情報を制限するために、霊玉守護者に関わるのはハルの両親とヒロの両親だけにする、と。
ハルの父である晴臣でない男性となると、自然ヒロの父ということになる。
だが。
あらためてヒロの父を見る。
あまりヒロに似ていない。
ヒロは母親似だと言っていたから当然かもしれないが、外見も雰囲気も全く違う。
背は高く、がっしりとした身体つき。少しつり目がちの目は自信にあふれ堂々としている。
茶髪を右目の上でツーブロックに分け、爽やかな印象だ。
ベージュのパンツにグレイのジャケット、中には丸首のネイビーのカットソーを合わせ、ちゃんとした服装に見える。
なのに、何故だろう。
どこか『軽い』感じがする。
晴臣がきっちり硬い『仕事のデキる男』という感じなのに対し、この人は『年齢の離れた近所のお兄さん』という雰囲気だ。
それにしても、ヒロのこの嫌そうな顔。
いつも穏やかに微笑んでいるイメージのヒロに似つかわしくない顔だ。
一緒に暮らしていないと言っていたし、父子仲が良くないのだろうか。
「おー。子供達。おはよう。迎えに来たぞー」
へらりと笑って手を振ってくる。
「ヒロの父の目黒 隆弘だ。タカさんて呼んでくれ。おじさんはダメだぞー」
まだ『お兄さん』だからな。と笑いながら晃の、佑輝の頭をがしがしとなでていく。いたい。
「なっちゃんも無事でよかったなー。心配したぞー?」
頬を両手で挟まれてぐりぐりとなでられるナツ。
顔が変形していくが、ナツはぼーっとしたままだ。
「ん? どしたなっちゃん? 元気ないか?」
「霊力切れかけて回復中なんだよ。触んな。構うな」
ペタペタとナツの額や頬をさわって様子をうかがっていた隆弘から、ヒロがベリッとナツを奪う。
「ヒロおおぉぉぉ!」
「抱きつくなーーーーー!!」
あっと思う間もなく隆弘の腕に抱きこまれたヒロが暴れるが、びくともしない。
ヒロより頭半分大きい隆弘はがっしりとヒロを抑え込み、かいぐりかいぐりと頭をなでまわす。
「おはようヒロ! 今日もかわいいな!」
「誰がかわいいか?!」
「昨日は大変だったな。臣に聞いたぞ。がんばってえらかったな!」
「だ・か・ら! はなせーーー!」
かわいいえらいとヒロを構いたおし嫌がられている隆弘に、その場の全員が呆然としている。
「…あれだ。好きだからと構いすぎて嫌われるやつ」
「なるほど」
「思春期男子にあの扱いは酷ねぇ…」
佑輝の家族が話している間も、隆弘はヒロを構いたおす。
ヒロも本気で反撃すると怪我をさせるとわかっているので、思うように力を出せず抜け出せない。
それでも腹に一撃食らわせると、それを合図にするかのように隆弘がヒロを開放した。
いてててて、とわざとらしく腹をさすりながらも、顔には笑みが浮かんでいる。
ヒロは髪もボサボサになり、ぐったりだ。
「さて、それじゃあ行こうか子供達。
春日さん、お世話になりました」
また後日改めてお礼を、と挨拶をする隆弘は、年齢相応にしっかりした男に見えた。
晃達もあわてて佑輝の家族に礼を述べ、玄関を出る。
昨日も乗った八人乗りの黒いミニバンに乗り込む。
佑輝の家族は、車が走り去るまでずっと手を振ってくれていた。
二列目に晃と佑輝、三列目にヒロとナツが乗り、車は昨日通った道を逆に向かって走る。
街を抜け、山に入り、すぐまた街に入る。
四車線の道路は、時々のろのろになりながらも順調に進んでいる。
車内ではずっと隆弘がしゃべっていた。
晴臣は別件で忙しいこと。今日は自分が運転手で、トモをひろって北山の安倍家まで連れていくこと。といった業務連絡的な話から、吉野から来た晃のためにか、あっちが平安神宮、これが疎水、ここが御所と、名所案内もしてくれた。
ナツは目を閉じて眠っているようだった。ヒロが手を握り、霊力をおくっている。
黙って話に加わらなかったヒロだったが、話がヒロとハルの幼い頃のはずかしい話になると大声で止めに入った。
晴臣と隆弘が大学時代からの親友だという話や、若い頃の武勇伝もいくつか話してくれた。
本人は絶対に認めませんが、ヒロがスキンシップ過剰なのは、この父の影響です。
本人は絶対に認めません。
そもそも自分がスキンシップ過剰だとも思っていません。
次話は本日18時投稿予定です。




