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第三十話 春日家

本日二話投稿しています。

このお話は二話目です。

 山道を抜けると、ぱっと視界が広がった。

 広い庭に面して大きな家が建っている。

 黒々とした瓦が屋根に並び、玄関の左手には縁側も見える。

 少し離れたところにもうひとつ大きな建物と、山を上がったところに小さな建物があった。


「ただいまー」

 玄関をがらりと開け、佑輝(ゆうき)が家の中に声をかける。

()ーさーん。病人連れてきたー」

 いや、病人じゃないんだけど。

 そう思っていると、廊下の奥からひょっこりと女性が顔を出した。


「――あら! あら、あら? あら!」

 四十代と思われる女性は、佑輝の背のナツを見、側に立つ二人の少年に気付き、そのうちの一人がヒロだと気づいたらしい。


「安倍の。ヒロくん!」

「ご無沙汰してます」

 ぺこりとヒロがお辞儀をする。と、階段の上から女性の声が響いた。

「ヒロくん?」

「ヒロくん来たの?!」


 きゃあきゃあと明るい声とともに、女の子が三人、玄関になだれ込んできた。

 二人は高校生くらい、一人は自分達より年下に見える。

 三人は帰ってきたばかりの佑輝を邪険に押しのけ、ヒロを取り囲んだ。


「ヒロくん、いらっしゃい!」

「おじさま、もういらしてるわよ」

「ヒロくん、上がって上がって! ちょっと佑輝! 何ヒロくんに荷物持たせてんのよ!」


「ヒロくん」「ヒロくん」とちやほやと取り囲まれているヒロは穏やかな笑顔で三人に対応している。すごい。

 女性陣の迫力に押されて、佑輝と二人自然と玄関の隅で小さくなってしまう。


「…姉二人と妹だ。やかましくてすまん」

 顔を寄せボソリと謝られるのに、首を振ることしかできない。


 やがて、佑輝の母とともに、晴臣(はるおみ)が玄関に出てきた。

「ヒロ。晃くんも。無事でよかった」

 穏やかだった顔が、佑輝を見た途端こわばった。正確には、佑輝に背負われている少年を見て。

 背負われているのが誰かを理解した瞬間、晴臣は息を飲んだ。


「――なっちゃん!」


 あわてて駆け寄り、佑輝の背からナツを受け取る。

 スーツがしわになるのも構わず座り込み、ナツを抱きかかえる。

 口元に手をあてる。息をしていることを確認し、ほっと安堵の息をつくと、そのまま頬をなでる。

 ナツは目を開けない。真っ白い顔で変わらずぐったりしている。

 それでも晴臣は頬を、頭をなでている。

 なっちゃん、なっちゃんと呼びかけながら。

 やがて呼びかける声に嗚咽(おえつ)が混じり、雫がナツに落ちた。


「なっちゃん…。無事で、無事でよかった。よかった。なっちゃん…」


 晃は驚いた。

 大人の男でも、あんな風に泣くんだ。

 よかったな。ナツ。大事にしてくれる人がいて。

 ぎゅうっとナツを抱きしめ泣く晴臣を見て、晃も涙がこぼれそうになったが、ぐっと我慢した。




 奥からさらに人が出てきた。

 佑輝の父と祖父母だと名乗られ、晃も挨拶を返す。

 客間に布団を敷いたからと(うなが)され、晴臣がナツを連れていく。

 自分達も上がるように勧められたが、足元がどろどろなので申し訳ない。

 ヒロと二人困っていると、「じゃあこっち」と佑輝に連れていかれた。


 家をぐるりと周り込み、裏口の流しで足を洗わせてもらう。

 つっかけを渡され、裸足の足に履いて裏口から家の中に入らせてもらう。


 そこは洗面所だった。

 佑輝の母と姉が「くさい!」「くさい!」と叫びながら、佑輝のボストンバックから衣類を洗濯機に入れているところだった。


「もうすぐお湯がたまるから。ヒロくんも晃くんもお風呂入っちゃいなさい」

「…は?」

「いえ、そんな、そこまで「ちゃんと髪も洗うのよ。これがシャンプー、こっちがコンディショナー。ボディーソープはこれね」

「服はこれ使って。佑輝のだけど」

「肌着とパンツは新品だから。安心して」

「泥のついてる服はこっちに入れて。それ以外は洗濯機に入れて」

「佑輝のクサい服とヒロくんの服、一緒に洗って大丈夫なの?」

「あらそれもそうね。じゃあ服はこっちで」

「タオルこれね」

「佑輝あんたも一緒に入っちゃいなさいよ」

「狭いだろう。オレはあとでいいよ」

「ほらほら二人共。早く脱いで。洗濯機まわすから」

 佑輝の母に服を脱がされそうになるのを何とか佑輝が阻止し、洗面所兼脱衣所から女性達を追い出す。


 口をはさむ間もなかった。


「――あー…――…」


 二人で呆然と立っていると、佑輝が申し訳なさそうにごほんと咳払いをした。


「とりあえず、風呂に入ってくれ」




 風呂をいただくとさっぱりした。

 気付かなかった疲れもとれたようだ。

 ジャージ姿の少年三人は、大人との話し合いに臨んだ。


 ここは佑輝の家の座敷。刀鍛冶の祖父と父、佑輝が並んで座り、机を挟んでこちら側に晴臣、ヒロ、晃の順で対面している。

 ナツは別室で寝ている。

 生命の危機を感じるレベルに少なかった霊力は、この家の濃い霊力のおかげで少しずつ持ち直している。

 女性陣はふすまの外から中の様子をうかがっている。


「大体の話は君達が来る前から晴臣君から聞いたが」

 佑輝の祖父が重々しく口を開いた。

 老人といっていい年齢なのに、刀鍛冶という職業柄か、筋骨隆々とした人だ。

 聞けば未だ現役で退魔の仕事をしているとのこと。元気だ。


「当の佑輝が聞いていない。もう一度説明をお願いできるか」

「わかりました」

 了承の意を示すと、晴臣が佑輝に昨日からの出来事を説明する。


 全て聞き終えて、佑輝はただ一言「わかりました」とだけ言った。

「では佑輝はしばらくそちらにお預けします」

「ありがとうございます」


 これで話は終わりだ。知らず詰めていた息をそっと吐き出し、ヒロと顔を合わせ笑みを交わす。


「それにしても、ヒロくんも晃くんもドロドロだったな。何があったんだ?」

 佑輝の父に問われ、ヒロが「ナツを異界から連れ出すのにちょっと」とだけ答える。


「あの子は異界にいたのか」

「そりゃ見つからないはずだ。よく出てこれたな」

 佑輝の祖父と父に言われ、苦笑しか浮かばない。

『出てきた』のではなく『佑輝に助け出された』のだから。

 ヒロがそのことを伝えると、佑輝の祖父と父が感心したように声を上げた。

 賞賛のまなざしを向けられ、佑輝が正直に思ったことを口にした。


「なんかヘンなモノがあったから斬ってみた」


「このど阿呆!」

 スパーン! と平手で頭をはたかれる。


「むやみやたらとわからんものを斬るなと、いつも言っているだろう?!

 前もそれで問題を起こしたのを忘れたか?!」


 ギリギリと両方のこめかみを拳で挟まれる。いわゆるウメボシだ。

 イテテテテ、と涙をためて、佑輝が何とか反論する。

「今回は、ちゃんと、考えて斬った!

 なんか知った気配だったから! 出られなくなってるかんじだったから!!」

「あ、あの! ホントです! ぼく達、佑輝が斬ってくれたおかげで助かったんです!

 ですから、その、そのヘンで…」


 ヒロのとりなしに佑輝の父もしぶしぶ佑輝を開放する。

 頭痛を抑えるように頭を抱えていた佑輝の祖父が、ごほんとひとつ咳払いをする。

 そして、晴臣にひとつの提案をした。


「子供達は我が家で一晩預かりましょう」

「そんな、ご迷惑をおかけするわけには」

 固辞しようとする晴臣を、佑輝の祖父は手を挙げることで抑えた。

「あの子、ナツくんでしたか。あの子は今動かさないほうがいい。

 我が家は霊気が強い。一晩ここで寝ていたら、ある程度は回復するはずです。

 それに、ヒロくん達もずいぶん疲れている。

 今日はこのままウチで休ませて、明日朝西村さんの家に向かったほうがいい」


 尚もためらっていた晴臣だが、ヒロにも後押しされたこともあり、最期には折れた。

「ヒロくんがお泊り!」

「ヤバい!」「ヤバい!」

 きゃあっ、と喜びに沸き上がる姉妹に男達は苦笑し、晴臣が頭を下げた。


「子供達を、よろしくお願いします」




 話が終わるとヒロが晴臣を呼び止め、鞄の中からレポート用紙を受け取る。

 そのまま机を借りたヒロは、ものすごい勢いでペンを走らせていく。

 次々に出来上がる書類を確認している晴臣の顔が段々険しくなっていく。

 見せてもらうと、異界で見たものについての報告書だった。

 ぼんやりとした人達が何を言っていたかも、詳細に記してある。

 ぼんやりとした人の名も書いてあって、よく判別できたな、聞き取れたなと驚いてしまう。

 それ以上に驚くのは、その量だ。

 あれだけの情報を、何一つもらさないとばかりに次々に記していく。

 いつ、どこで、誰が、どのように。一言一句、もらさぬように。


「よく覚えてるな」

 思わずポツリと声がもれる。

 するとヒロが顔も上げずに答えた。


「これがぼくの特殊能力」

「え?」


「ナツの特殊能力は、一度見た動きを完全に模倣できる、完全模倣(コピー)

 佑輝の特殊能力は、異界だろうと何だろうと、斬ると定めたものは何でも斬れる、絶対切断。

 ぼくは、一度見聞きしたものは完全に覚える、絶対記憶」


 意味を理解し、絶句する晃をよそに、ヒロはバリバリと手を動かす。

 やがてペンを置いたヒロは、ふうっと一つ息をつくと、晴臣にむけてにっこりと笑った。


「これで少しはあの家の人間を叩きのめせるかな」

「お手柄だ。ヒロ。あとはまかせろ」


 ヒロも晴臣も、爽やかな笑顔で微笑み合っている。

 なのに、何故だろう。

 化狸と化狐が悪だくみをしているようにしか見えない。


 そして、霊力があろうとなかろうと、晴臣(このひと)とハルは親子なんだなと、何故か納得した。

本編とは関係ありませんが。

佑輝の本当の両親は交通事故で亡くなっています。

生まれた佑輝を産院から自宅に連れ帰る途中での事故でした。

ヒロが「みんな両親と暮らしていない」と言っていたのはこのためです。

作中の父は、本当の父の双子の兄です。

佑輝の家族は、血縁上は、祖父母と伯父夫婦と従姉妹となります。

生後数日で家族になり今に至っているので、甥とか従兄弟とか普段は思っていません。普通に息子、兄弟として接しています。


佑輝は養子縁組していることはこの時点では知りません。

小さい時説明されたけど、意味が理解できず、まあいいやと放置しそのまま忘れています。

他の家族は妹含めてみんな佑輝も知っていると思っています。



次話は明日12時投稿予定です

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