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第二話 白露

引き続き説明回です

本日五話投稿します

このお話は三話目です

 晃は春の気配を感じながら山を駆ける。奥へ、奥へと。

 慕わしい気配を求めて駆けていく。

 そこにいたのは。


白露(はくろ)様!」

「久しぶり。(こう)。元気そうね」


 大きな体躯の、白い虎。

 黄金に光る双眸(そうぼう)は穏やかな知性の光をたたえ、しなやかな肢体をおおう白い毛は、その名のとおり白露(しらつゆ)が光っているかのごとく艷やかに輝いている。

 首元に抱きついてきた晃を揺らぐことなく受け止めて、穏やかに笑っている。




 この世界には『霊獣』がいる。


 強い霊気が集まり固まって生まれるものや、動物が強い霊力を宿して霊獣と成るものなど、色々なパターンがあるが、強い霊力を宿した動物が『霊獣』である。


 たいていは長命で、生まれ住んだ『()』を守ることを第一とするため、めったに移動することはない。

 しかしこの白露は、あちこちに顔を出しているらしい。

「私は『霊獣(そういうの)』じゃないからねぇ」

 と本人は言うのだが、とんでもない霊力があるのは確かだし、祖父が子供の頃から一切変わっていないというのだから、晃や周囲の見識としては『霊獣』である。


 山を駆け回って遊ぶこの地域の者全員が、子供の頃遊んでもらった経験を持つ。

 子供好きで、面倒見の良い白虎なのだ。


 その中でも晃は特別かわいがられていた。




 この世の中は、木火土金水の五属性と、陰陽(いんよう)によりできている。

 陰陽五行説と言われ、広く世間に知られている。


 人間はこの陰陽五行がバランスよく()る。

 五つの属性が均等にある者もいれば、こちらが強くてこちらが弱いといった形でバランスをとる者もいて様々だ。


 しかしたまに、五属性のどれかが突出して発現する者がいる。

 たいていは高い霊力を持ち、日々の修行で霊力と属性をコントロールして身に納めていくのだが、幼い頃に発現してしまうと、強い霊力を納める『(うつわ)』が足らず、霊力過多症になり弱って死ぬか、強すぎる属性にひっぱられて死ぬことが多い。


 幼い晃もその例にもれず、霊力をあふれさせて発火することが多かった。

 晃は『火』の属性が飛び抜けて強いためだ。


 現代の生活に置き換えると、霊力とは、いわば電気のようなものだ。

 自然界に存在するものは皆微弱な電気を持っている。筋肉が脳の電気信号で動くことなどはよい例だ。

 誰しも持っているが、それを出力できるものは限られる。

 電力が弱ければ豆電球ひとつ灯すこともできないが、強ければ巨大都市を丸ごと稼働することができる。

 霊力も『器』の大きさに応じた量によって多い少ないがあり、多ければ当然色々なことができる。


 そして、陰陽五行の属性。

 これは、出力方法と考えると理解しやすいかもしれない。

 同じ電力を使って、掃除機を使って掃除をする。洗濯機を使って服を洗う。IH調理器を使って料理をする。

 同じように、火の属性で火おおこす。水の属性で水を出す。土の属性で穴を掘る。といった具合だ。


 もちろんこの出力時に、持っている霊力の大小が関係することは言うまでもない。

 火の属性を例に出すと、霊力の弱いものは線香の火程度の火しか出せず、強いものは火炎放射器レベルの炎を出すことができる。持続時間や発現回数も、霊力の大小に関係する。


 ちなみに晃の霊力と火属性特化という性質を合わせたときに起こる炎は。


 短時間で激しい爆発と燃焼をおこすバックドラフト現象と同等の炎を、長時間維持できるレベル。


 はっきり言って、いつ大爆発が起きても、いつ山が灰燼(かいじん)()しても不思議ではない状態だった。

 祖父達この地域の修験者では抑えきれなかったため、白露がずっと側で霊力をコントロールし、成長する晃に霊力の使い方を教えてきたのだった。




 晃にとって、白露は母そのものだった。


 赤ん坊のときに亡くなったという母のことは覚えていない。薄情だとは自分でも思うが、赤ん坊だったので仕方ないじゃないかとも思う。


 自分が赤ん坊の頃から側にいてずっと守ってくれていたのは、白露だった。

 食事やおむつなどは祖父母がしてくれていたが、身体の中をぐるぐるする霊力に飲み込まれそうになったときも、何故か身体から炎が吹き出したときも、必ず白露が抑えてくれていた。

 日中はその背にのせて山を駆け遊んでくれ、夜はふかふかの身体で包んで寝てくれた。


 いつもやさしい言葉をかけてくれる。

 笑顔を向けてくれる。

 側にいてくれる。


 成長して『母親』という存在があることを知ったとき、すぐに白露のことだと納得した。


 そのことを祖父母に伝えると「とんでもない!」と叱られた。

「白露様とお呼びしなさい」と厳しく言われるので「白露様」と呼んでいるが、心の中では今でも「母さん」だと思っている。


 ちなみに本人に伝えたところ、いつもの調子で「あらあら」と笑った。「でも、晃の『母さん』は、(はるか)だからねぇ。私が『母さん』になるわけにはいかないわねぇ」

 少し、かなしそうな笑顔だった。


 そうして、白露は母のことを教えてくれた。




 晃の母である遥は、伊勢神宮の神主の娘で、幼い頃から白露と親しくしていた。

 修験者として行事で訪れた晃の父に一目惚れし、猛アタックの末結婚し、晃が産まれたが、産後体調を崩し、晃が生後半年の頃亡くなったそうだ。


「遥はホント思い込んだら一直線で」「こんなこともあったのよ」と、白露が母との思い出を聞かせてくれるが、晃にとっては『母』というより『白露の友達のお姉さん』という印象になってしまう。

 それでも母が赤ん坊の自分をとてもかわいがってくれていた話を聞くと、胸の奥がじんわりとあたたかくなるのを感じるのだった。


 尚、晃の父は母の死をきっかけに吉野を離れ、現在は単身奈良市内で働いている。

 連絡してくることは滅多になく、十三歳の今日までに会ったことはなく、たまに祖父母に電話があるがそれも数えるほど、という状態なので、こちらも『父』というよりは『じいちゃんの知り合いのおじさん』という印象だ。


 幼い自分を育ててくれたのは、祖父母と、近所の人達と、この白露だった。




 晃が母を失ったその日から、白露は幼い晃の自宅で暮らすようになった。

 母が居たときもほぼ毎日顔を出していたが、文字どおり昼も夜もつきっきりで世話をするようになった。

 おむつ交換や食事などは白露の大きな手では難しいため、人間でないと無理だったが、側にいて、あふれ出す霊力を散らし、暴走し噴き出す炎をおさえ、幼い晃の霊力を安定させることに心血を注いだ。


 晃が成長するにつれ、霊力を納める『器』も大きくなってゆき、おしゃべりが上手になるにつれ霊力コントロールを教えることができるようになった。そのかいあって、晃が三歳をすぎてからは、少しの間ならば白露が側にいなくても問題なくなり、小学校にあがってからは、夜一緒に寝なくても一晩過ごせるようになった。

 十歳になる頃には日常生活を送るのに問題ないレベルになったので、白露は一旦晃から離れることにした。




 昼も夜もつきっきりで世話をしてくれていた白露との時間が少しずつ減っていくのはさみしかったが、晃も小学校にあがり、他の子供に「おかあさんにべったりくっついていたいなんて、あかちゃんみたい」と言われたことにショックを受けたことで、少しずつ『白露ばなれ』をするようになった。

 時にはさみしさや甘えたさが我慢できなくてべったりくっついてしまうが、霊力コントロールや体術を教えてもらったり、体力づくりと称して遊んでもらったり、それなりに一緒にいられる時間はあった。


 十歳になったとき「もう時々会いに来るだけで大丈夫ね」と言われた時には、あまりのショックで泣きそうになった。が、周りの大人が「白露様を十年もこの地に留めさせてしまった」と話しているのを知っていたので、ぐっとこらえて了承した。


 毎日は会えないが、二~三ヶ月に一度は会える。別れるときはさみしいが、「次会うときにはまたびっくりさせてね」と言われると、成長を褒めてもらいたくて修行に励むのだった。

次話は本日18時投稿予定です

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