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第二十六.五話 神々の望み

本日本編二話・番外編一話 合わせて三話投稿しています。

このお話は三話目・神様サイドの事情説明回です。


幼児虐待場面を飛ばした方のためのあらすじ


25話のあらすじ

母の通夜の席で、血縁上の父に連れ去られるナツ。

霊力を暴走させるが、「霊力なし」の父には効果がなく、連れ去られてしまう。

初見の舞を舞うよう強制されるが、ナツの能力『一度見た動きは完全に模倣できる』完全模倣で見事舞いきる。


26話のあらすじ

ナツを救おうと幼い頃から奮闘するヒロとハルだったが、現在まで成果はでていない。

神の庭で神々から「母を救えなかったかわりに願いをひとつ叶える」と言われたが、ナツが願ったのは「母に会うこと」だけだった。

 その日の宴が終わった。

 招待した神仏は皆満足して帰り、残っているのは同じ神社に祀られている十三柱の神々だけだった。


《本日も我らが(いと)()の舞は見事であった》

《あれでまだ十歳(とお)とは。先が楽しみよのぅ》

 まことまこと。と、口々に褒めそやす神々。

《しかし》

 主神たる神が重々しくつぶやいた言葉に、他の神々も何を言わんとするのか察し、明るかった表情を曇らせる。


《我らが愛し児は…、ミツは、十九までしか生きられぬ天命》

《神たる我らでも、天の定めた命を変えることはできぬ》

《惜しいのぉ》

《惜しいのぉ》


 神にできるのは、「ほんのちょっと」助けること。

 背中をぽんと押す。人と人との縁をつなぐ。見落とさないように注意する。

 ほんのちょっとしか、現世に関われない。

 幸も不幸も、大半はその人自身のちから。生きる姿勢や努力によって決まるのだ。

 もちろん『災厄除け』の加護はある。

 さりとて、それすらも絶対ではない。

 天命の前では、神の加護も効かないのだ。


 そして、神とて、神だからこそ、己の願いを第一に叶えることはできない。

 神はあくまでも『世界の調整者』であり、神力となる霊力を捧げてきたモノを守り、願いを叶える存在なのだ。


《ミツが十九までしか生きられぬことはわかっても、何故そうなるのかはまだ現在の段階ではわからない。

 病を得るのか、事故や災害に遭うのか、はたまた別のなにかがあるのか…》

《もう少し時間が経てば、わかることもありましょう》

《然り。現段階ではかけられるだけの『災厄避け』をかけております。これ以上は今はできることはないかと…》

 それもそうだと神々が納得したところで、その日の宴はお開きになった。




 あれから何度も宴は開かれた。

 回を重ねるごとに愛し児の舞は素晴らしくなっていく。

 舞が好きだと。

 舞うことが楽しくてたまらないと、全身で表現している。

 愛し児の舞を見ているだけで、神々のこころは浮きたち、神力が増していくのだ。




 やがて、愛し児が十八になった。

 そして、それが『視えた』。



 愛し児が生命を落とす理由。

 『霊力守護者(たまもり)』を産み落とすという、生まれ持った『天命』


 生まれ持ったその天命のために、愛し児が苦しみを受けることも。

 生まれ持ったその天命のために、愛し児がその生命を落とすことも。

 神々ではどうにもできない。

 どれほど口惜しくとも。どれほど腹立たしくとも。


 それが、彼らの愛した愛し児の天命なのだから。


《――何とかならぬかのぉ》

《せめて愛し児の生命を永らえることはできぬものだろうか》

《まことまこと。

 十年などと贅沢は言わぬ。

 一年でも、半年でも、少しでもよいから、我らが愛し児の生命を永らえることはできぬだろうか》


 神々は考えた。

 散々話し合い、宴に来た神仏に相談し、出雲の『神議(かむはかり)』でも相談した。


 本来ならば、一人の人間に対して神々がこのように心を砕くことはあってはならない。

 神々は霊力と共に捧げられた祈りを神力に変える。その礼として、祈りを捧げた者の願いを叶える手助けをするのだ。

 それを、毎月舞を奉納している者とはいえ、願われたわけでもないのに「どうにかならないか」と東奔西走するなど、本来はあってはならないことだ。


 しかし神々は願った。

 一度でも多く、愛し児の舞を見たいと。

 あの輝く太陽のような、大輪の花が開くような、ちからあふれるあの娘を、一度でも多く見たい。

 それは、彼女を神楽人としている神社の神々だけではなく、宴に招かれた神仏全ての願いだった。

 それほどまでに、彼女は神々に愛されていた。



 やがて、ある神が気付いた。

《この娘の天命は、霊力守護者(たまもり)となる子供を産むことだ》

《「子供を産む」のが天命であって、そのために死ぬことは天命のうちではない》


 天命とは、生まれ落ちるときに天から授けられた使命。

 天命とは、天から定められた寿命。


 どちらの意味もある。


 たいていは、そのふたつは相反しない。

 使命を果たし、定められた寿命を生き、人はその生命を終えるからだ。


 しかし、神々はそれに気付かないフリをした。

『生まれ落ちるときに天から授けられた使命』は果たす。

 そのうえで、寿命を伸ばすのは構わないではないか。

 使命は――天命は果たすのだから。


 屁理屈のような言い分だが、神々はそれに賭けた。


 そして、一人の人物を呼び出した。




 その日の宴のあと、神々から「セツだけ残るように」と指示され、セツは嫌な予感がした。


 神楽人(かぐらびと)として舞を捧げはじめて三十年以上。

 娘のミツと二人で舞を捧げるようになって十年。

 今までにこのようなお声がけはなかった。

 ついに自分も神楽人としてのお勤めを終えるのかと、残念に思った。


 神々を満足させるだけの舞が舞えなくなったら、神楽人としては失格だ。

 自分ではまだまだ現役で通用すると思っていたが、神々を満足させるだけの技量がなくなったということだろう。


 人の身である以上、衰えはある。

 それはわかっている。十分すぎるほど。

 三十をずいぶん過ぎて娘を産んだあとも。五十の歳を超えたときも。

 以前とは違う。衰えたと感じたことはある。

 だが、その年齢だからこそ舞える舞もあると知っていた。

 若い者には舞えぬ、年齢を重ねたからこそ舞える舞が。

 だからこそ、未だ現役で舞い、神楽人として勤めてきたのだ。


 しかし、神楽人をお選びになるのは神々だ。

 その神々が退けとおっしゃるならば、自分は潔く神楽人を引退しよう。

 幸い娘のミツは『愛し児』と呼ばれ愛されるほどの舞い手だ。

 後進に不安がないのは幸いだろう。



 そう覚悟して臨んだ神々との話し合いの場で、セツはあまりの話の内容に気が狂うかとおもった。


 大事な娘が、死ぬ?

 子供を産むことが、娘の天命?


 すぐに心当たりが浮かんだ。

 先日、娘がある男に卑劣極まりない行いを受けた。

 それは、天命のために受けねばならない苦しみだったというのか。

 神々から護られているはずの娘が何故?! と思ったが、神々にそのことを申し上げる訳にもいかず、神々に護られているなどと過信した己の甘さをただ嘆いた。

 娘も同じように感じたようで、「これからは気をつけるわ」「いい勉強になったわ」と言っていた。

 あれは、何ヵ月前だった?

 胎児を堕ろせるのは、いつまでだった?


《セツよ》

 神のお声がけに、あわててひれ伏す。

 あまりの内容に、思いがけず拝礼が乱れていたようだ。


《セツよ。我らが神楽人よ。

 お主の怒り、もっともじゃ。

 お主の哀しみ、もっともじゃ。


 お主は長らく我らに善く仕えてくれた。

 それ故、ひとつ褒美を取らせようと思う》


 言葉の意味を図りかね、セツは思わず顔をあげる。


《特別だ。

 何か一つだけ、願いを叶えてやろう。

 ただし、そのためには膨大な霊力がいる。

 本気で願いを叶えたいと強く強く祈りを込めた、霊力が》


 神はあくまでも人の祈りを助けるものだ。願われていないことを勝手に行うことはできない。


 だが、人が願うのなら話は別だ。

 それも、強く強く祈りの込められた願いなら、なおさら。


《それほどの霊力をこめれば、もう神楽人として宴で舞うことはできぬ。

 寿命も、だいぶ削ることになるだろう。

 ――それでも、叶えたい願いがあるならば》


《一つだけ、願いを叶えてやろう》



 セツは、舞った。

 一晩中。祈りを込めて。

 込められるだけの霊力を込めて。

 セツは、祈った。

 血を吐くほど強く強く強く祈った。


「どうか、どうか!

 我が娘、ミツの生命を、お救いくださいませ!

 そのためならば、私のこの生命も、霊力も!

 全て! 全て捧げます!」


 魂からの叫びは、祈りは、霊力は、神々に届いた。


 神々は霊力と共に捧げられた祈りを神力に変える。

 その礼として、祈りを捧げた者の願いを叶える手助けをするのだ。




 神々は賭けに勝った。

 祈りは、叶えられたのだ。


 その後は生まれた子供の霊力を捧げることでセツの願いを継続させた。

 その願いと捧げられた霊力で、神々の愛し児の寿命は五年延びたのだった。

次話は明日12時投稿予定です。

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