第十六話 出発
本日三話投稿します
このお話は二話目です
ハルと明子に見送られ「行ってきます」と晴臣が玄関をくぐる。
続いて晃が外に出ようとして――固まった。
ここは、北山の山中の離れではなかったのか?
目の前に広がるのは、山の木々ではない。
四角いビルが立ち並んでいる。
積み木のように建物が並んだはるか遠くに山が見える。
「どうした。晃」
突然立ち止まった晃にヒロが声をかける。晴臣も異変を感じたらしい。再び玄関に入って扉を閉めた。
「…ここ、どこ?」
ギギギ、と音がしそうなくらいぎこちなくヒロを振り返り、やっと言葉をしぼり出した。
すると、ハルもヒロも「気付いていなかったのか?!」と驚いた。
「ここは御池のマンションだよ。さっきまでいた北山の離れの食堂から転移してきたんだ」
物置の扉に転移陣が組んであり、認証を受けた者だけが使えると説明してくれる。
晃は認証を受けているヒロと手をつないでいたので通れたのだ。
『おいけ』がどこか、京都の地名に明るくない晃にはわからない。
ただ、目の前の光景から街中だとはわかる。
「道理で何も聞いてこないと思った」
「逆になんでわからなかったんだよ」
「いや…。そういう家なのかなーって…」
「「天然か」」
二人同時にツッコまれ、晃がへこむ。「まあまあ」と晴臣が取りなしてくれた。
「晃くん。もう出かけても大丈夫かな?」
「あ、はい」
再び扉が開けられる。
「じゃあ、今度こそ行ってきます」
四階建てのマンションの一階部分が駐車場になっていた。
「二階と三階が事務所になっていて、四階が住居なんだ」
晴臣はその弁護士事務所に勤めていると話してくれた。
そこでは安倍家の財産管理から法的手続、落人関係の事務手続まで、安倍家関連の仕事を行っていて、晴臣の父である現当主の右腕というべき人が所長をしているそうだ。
「さ。乗って乗って」
八人乗りの黒いミニバンに乗り込む。
ヒロと並んで二列目に座り、シートベルトをしめると、車は軽快に走り出した。
しばらく街中を走る。どこを見ても建物しかない。都会だ。
四車線ある道路は車がぎっしり走っている。
「このへんの桜もそろそろかな」
「今はどこが見頃かなー」
晴臣とヒロは社交的な性格なのか話し上手なのか、今日会ったばかりの晃にも上手に話をふってくれる。
「吉野の桜は有名だよね。どんな風に咲くの?」
「柿の葉寿司のおいしいお店があったよねぇ。晃くんはさば派? さけ派?」
「修験者ってどんな修行するの?」
二人の話にのせられて色々と話している間に、車は山に入り、しばらく走ると再び街に入る。
さらに住宅街をぬけ、山にはいっていった。
「もうすぐだよ」
そう言われて辺りをのぞく。いつの間にか家がなくなり、山道を少し走ると車は停まった。
「…うまく共鳴するといいんだけど…」
先程までの明るさがうそのように、ヒロがぽつりとつぶやいた。
ヒロは晃と初めて会って共鳴したとき、期待していたのだろう。
ナツが見つかるかも、と。
ナツが、応えてくれるかも、と。
なのに、何の反応もなくてがっかりしたのだ。
きっとヒロは答えなんて求めていない。ついぽろっと、弱音がこぼれただけだ。
それはわかっていたが、わかっていたからこそ、ヒロに何か言いたかった。
励ますような、元気づけるような言葉を。
「共鳴って何?」
何と声をかけようかと困っていると、晴臣が声をかけてきた。
シートベルトを外し、後ろ向きになってにこにことこちらを見ている。
晴臣は霊力が少ないと聞いている。何と言えばいいのかとまたも困っていると、あっさりヒロが言った。
「霊力守護者が初めて会った時、こう、霊力が響き合うっていうか、感じるものがあるんだ。
共鳴って言葉がぴったりな感じなんだけど。
それでナツを呼べないかなって考えてるんだ」
ぼくと晃じゃだめだったけど。と、ヒロが哀しそうに言う。
よほどナツが心配なのだろう。膝の上で組んだ指の先が白くなっている。
それにしても。と晃は内心驚いた。
かなり具体的な話をするんだな?!
ハルからは、この晴臣は一般人よりも霊力が少ないと聞いている。
現当主の息子とはいえ、霊力の少ない人に霊能力関係の話をするのはどうなのだろうか。理解できるのだろうか。失礼にあたらないだろうか。そんな晃の心配をよそに、晴臣は平気な顔で「うーん」と少し考えて言った。
「共鳴…というと、共振だね」
「「共振?」」
二人同時に上げた声に「うん」と晴臣が答える。
「どっちも同じだよ。音に対しては共鳴ていうけど、モノに対しては共振て使うことが多いかな。ええと、ちょっと待ってね。いい動画ないかな」
スッスッとスマホを操作しながら晴臣が教えてくれる。
「要は、物体の固有振動数と同じ振動を与えると、より大きく振動する現象だよね」
あ、これなんかどうかな。と見せてくれたのは、振り子がゆらゆら揺れる映像。
二つの振り子のうちひとつを引っ張ってゆらゆら動かすと、何もしていないもう一つの振り子もつられて動き出した。
「ヒロがやりたいのは、こういうことだろう?」
『こういうこと』がわからなかったのか、ヒロが視線で再度説明を求める。
「自分達の霊力をぶつけあって動かすことで、なっちゃんの霊力を動かして、反応を探す。ってことじゃないのか?」
「――そう。そう!」
漠然としたイメージが言語化され、はっきりした方向性が見えたのだろう。
ヒロがぶつぶつとつぶやきながら何か考えている。
「そういう話、ラノベで読んだ。結界をつくって、二人で重ねて…。円を重ねるイメージ? だとすると…」
晃は驚いた。
晴臣は一般人よりも霊力が少ないと聞いていたから、話をしても答えが返ってくると思っていなかったのだ。
考えていることが顔に出ていたのだろう。スマホを収め、にっこりと晴臣が笑った。
「おじさん、霊力はないけど、わりと色んなこと知ってるんだよ」
そこには大人の男の余裕があった。
次話は本日18時投稿します




