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第十一話 おやつ

本日五話投稿します

このお話は二話目です

 そろそろ腹の限界が近い。おいしいのでつい食べ過ぎてしまった。

 おかずはまだまだ残っているが、問題ないとハルが説明してくれた。



 現在安倍家は非常事態体制にある。


 封じてあったはずの『(まが)』の封印が解け、京都の外側を囲む結界の南側が破られた。

 ハルの一族の者、それに連なる者や部下、安倍家で保護してそのまま勤めてもらっている能力者など総勢二百人ちょっとが現在の安倍家の人員なのだが、それを総動員して結界の修復や事態の裏付けなどに走り回っている。


 誰がいつ戻ってくるかわからず、でも戻ってきたら腹いっぱいに食べさせたいと、対策本部となっている本家の一室が食堂として開放され、常に食事ができる体制をとっているのだそうだ。


 晃達が食べきれなかったおかずもそっちに持っていくと聞いて、安心した。

 そして、自分の知らないところでたくさんの人が動いていると知り、あらためてエラいことだと冷や汗を流すのだった。




 食事が終わると、晃はヒロと荷物を置いた部屋に戻った。

 六畳程の広さだが、ベッドが置いてあるので狭く感じる。

 扉を入って正面に窓が一つ。右の壁にクローゼットと机。左の壁際にベッドが置いてあった。


「しばらくここが晃の部屋になるから。クローゼットも机も好きに使ってね」

 そう言ってヒロはクローゼットや机の引き出しを開けて説明してくれる。

 ヒロにうながされて着ていた上着を脱ぐと、クローゼットのハンガーにかけてくれる。


「朝から移動でつかれただろ? 夕方からまた移動するから、今のうちにちょっと寝とくといいよ」

「…うん。ありがとう」


 正直、すごく助かる。

 朝から緊張の連続で体も精神もヘトヘトだし、ムズカシイ話を聞いて頭もいっぱいいっぱいだ。

 とどめにおいしいごはんを腹いっぱい食べてしまい、睡魔がすぐ横までせまってきていたのだ。


 ベッドにかけてあった掛け布団をめくり、さあ寝ろとヒロがうながしてくる。

 ふと思い出し、机の上のボストンバックから祖父に持たされた菓子折りを引っ張り出す。

「ハルか明さんに…」

 持っていこうとするのをヒロに制される。

「ぼくが渡しとくから。晃は早く寝ろよ」

もうまぶたがくっつきそうだよ。と指摘され、恥ずかしくなる。

「また三時頃起こしに来るから。それまで寝てて。おやすみ」


 バタンと扉を閉められ。


 ――そこで、記憶がとぎれた。




 ハッと目が覚めた。

 目が覚めたことで、自分が寝ていたことに気付いた。

 いつの間に寝たのか全くわからない。

 多分ベッドに倒れて、そのまま寝ていたのだろう。


 壁にかけてある時計を見ると、三時前だった。

 二時間くらい寝ていたらしい。

 しっかり食べて寝たからか、体力も精神力も回復している。

 うーん。と伸びをしていると、ノックの音が響いた。

 返事を返すと、ひょっこりとヒロが顔をのぞかせた。


「あ、起きてた?」

「うん。今起きたところ」

 よかった。と言いながら、ヒロが扉を大きく開ける。

「顔洗っておいで。そのあとで出かけるから、上着だけ持って出てね」


 言われたとおり上着を持ってトイレと洗面を済ませる。

 顔を洗うとさっぱりして、しゃきっとした。


 さてヒロはどこだろうと歩いていると、丁度ヒロが階段を上がってきた。

 何故か晃の靴を手に持って。


「あ。準備できた? じゃあ、こっち来て」

 手招かれ、ヒロと一緒に食堂に入る。食堂の奥、カウンターキッチンの入口の反対側の扉の前に立つ。

「はい。これ持って」

 自分の靴を渡され、受け取る。

「手、出して」

 言われるがまま靴を持っていない右手を出すと、ヒロが手をつないできた。

 そのままがちゃりと扉を開け、部屋に入る。



 入ったところは、広い部屋だった。

 すぐ目に入ったのは、カウンターキッチンの奥に立っている明子と、その前のテーブルについているハル。

 扉の音に気付いたのか、二人共すぐに顔を向けてくれる。


「あら晃くんおはよう。少しは眠れた?」

「はい。おかげさまでスッキリしました」

 正直に述べると、二人共にこりと笑ってくれた。

 菓子折りの礼を言われ「こっち座ってこっち」と、まるで昼食時の再現のように椅子をすすめられる。


 テーブルの上には、これまた所狭しと盛皿が並んでいた。

 いちばん大きく目立つのが、中央の大皿。豆餅がこれでもかと並んでいる。つぶれないようにだろう、重ねられていないので一番スペースをとっているようだ。

 豆餅の入った大皿のまわりの皿も、あふれそうなくらいの菓子が盛ってある。

 せんべいとドーナツはわかったが、あとの菓子はよくわからない。

 そこにさっさと晃の靴をどこかに持っていっていたヒロが戻ってきた。


「うわぁ~! 豆餅だ! どこの?!」

 明子が店名を告げると、やったー! とヒロが喜び飛びあがる。

「しかも今買ってきたばかりよ」

「やったー!!」

 見た目は高校生くらいにみえるのに、こうやって豆餅に喜んでいる姿は子供っぽくて、やっと自分と同じ中学一年生だと思えた。あと数日で中学二年生だが。


「晃、晃! フィナンシェもラスクもそばぼうろも明日食べても大丈夫だから!

 これ!この豆餅食べて!!

 ここの豆餅チョー有名なんだよ!! 甘さひかえめのあんことお豆のしょっぱさが絶妙で、何個でもイケるんだよ! おまけにこれ! わかる?! このやわらかさ! 買ってスグのやわらかさ!! 今食べなきゃダメでしょ?! 食べて! とにかく食べて!!」


「落ち着けヒロ。晃がドン引いてる」

「何言ってんだよハル! 豆餅だよ?! 出来立てだよ?!

 明さん! 明さんありがとう!! ぼく、めっちゃうれしい!!」

 ハルの制止も聞かず、興奮おさまらないヒロはそのまま明子に感謝のハグをする。

 明子もいつものことだと抱き返している。


「さあさ。いくつでも召し上がれ。

 晃くん何が好きかわからなかったから、色々用意してみたの。

 何でも好きなモノをつまんでね」


 荒ぶるヒロを椅子に座らせ、お茶を煎れてくると明子がカウンターのむこうに移動する。

 少しすると緑茶のいい香りがしてきた。


 その間にヒロは幸せそうな顔で豆餅を食べている。

 もりもり食べているはずなのに、食べ方に品がある。育ちの良さがにじみ出ていて、都会の人はちがうなぁと感心する晃だった。

次話は本日15時投稿予定です

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