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第十話 世界の説明

説明回です

本日も五話投稿します

このお話は一話目です

 強い霊力を持つ者は『能力者』と呼ばれる。


 一口に『能力者』といっても、使える能力はそれぞれだ。

 結界術に優れた者、予知能力に秀でた者、五行の属性の特性を使った技を行使できる者。

 大抵の能力者は師匠につき、その術を学び修めることで能力を発揮する。

 その術は多岐にわたる。

 占星術、方術、仏教の秘術などなど。

 そして、その術を会得した者の呼び名も様々だ。

 修験道を修めた修験者。

 仏法を修めた僧侶。

 そして。

 陰明術を修めたのが、陰明師だ。




 陰明術とは、陰明道に基づいた技のことだ。

 古代中国の思想である陰陽五行説が日本で独自に発展したもので、呪術や占術の他、祭祀、祈祷、天文、暦学などの分野がある。

 平安時代には陰明寮という公的機関もあった。

 霊的な側面から国家鎮護を(にな)ってきたのが、陰明寮であり、そこに勤める陰明師であった。



 陰明道は広く一般の生活にも浸透しており、陰明師も市井に多く存在した。

 国家公務員である陰明寮の職員から町かどのよろず相談屋まで、様々な陰明師がいたものだ。

 彼らの多くは方角を視て吉凶を占い、不吉なモノを祓い、人々の幸いを祈った。

 しかし中には人を呪ったり悪事に術を使う者もいた。

 それに対抗するのもまた、陰明師だった。




 電話で祖母にも確認していたが、明子は晃本人にもアレルギーの有無を確認してきた。

 何もないことを伝えると、明子は「よかった」とにっこり微笑んだ。


「晃くん何が好きかわからないから、思いつくものみーんな作ってみたの!

 余ったら食べる人いっぱいいるから、少しずつでも食べてみて! ごはんとお味噌汁はおかわりオーケーよ!」


 三人で食べるには多すぎるおかずだが、お言葉に甘えて少しずつ取っていただく。

 そういえば朝早く朝食を食べてから飲み物しか口にしていなかった。ひと口口に運ぶと、食欲がどんどんでてきた。

 唐揚げ、ハンバーグ、ポテトサラダ、キャベツと豚肉の重ね煮、グラタン、筑前煮…。

 揚げ物が五種類、サラダが三種類。煮物は五種類。他にも色々。どれもおいしくて、すぐにごはんのおかわりをお願いした。




「安倍家は代々陰明師の家なんだ。血縁の有る無しに関係なく、安倍家の人間を名乗るのは陰明師が多いね。もちろんぼくもハルも陰明師」

 これでもいろんな術が使えるんだよ。とヒロが得意げに言う。

「さっきおれの靴乾かしてくれたみたいな?」

「そうそう」

 すげー。と、素直に感心する。ヒロはぱくぱくと箸を進めつつ話を続ける。


「陰明師で一番有名なのが、平安時代の安倍晴明(あべのせいめい)なんだけど、知ってる?」


 安倍晴明。聞いたことがあるような、ないような。

「漫画とか映画とかにもなってるんだけど。知らないならまあいいや。

 陰明師は式神って呼ばれる鬼神を使うんだけど。そう。晃をここまで連れてきたあの子達みたいなの。

 その安倍晴明の使っていた式神が待機していたのが、あの一条戻り橋の橋の下なんだよ。

 今でもあそこを住処(すみか)にしている式神がいるから、あそこに転移陣一個置いているんだよ」


 食べながら話しているのにとてもきれいに食事を進めるヒロに、晃は内心驚いている。

 やっぱり都会の人は上品なんだなあ、と感心しながら話を聞く。


「ヒロ、話がズレてる」

「あ、ゴメンゴメン。


 安倍晴明はその時代の陰明寮のトップで、さっき話してたぐちゃぐちゃ状態の京都の結界の整理整頓をしたんだ。

 それ以来、京都の結界維持は安倍家を中心に行うことになったんだ。

 その安倍晴明の子孫が、このハル」


「ご先祖が平安時代までさかのぼれるってこと?! スゴイな!」

「いや。京都ではそのくらいザラにいるよ」


 驚くとこそこじゃないだろ。と二人が思っていることには気づかず、晃は「京都スゲー」と妙な感心をしている。

 ハルが続ける。


「江戸に幕府ができた時に、国家鎮護のために安倍家も東に(くだ)れって命令があったんだけど、京都の結界管理するのが安倍家(ウチ)の第一だから。分家して、国家鎮護に秀でた能力のあるヤツを東に行かせて、結界構築とかが得意なヤツは京都に残ったんだ。

 現在(いま)安倍家(ウチ)の仕事は、京都の結界維持と退魔、能力者と『落人(おちびと)』の保護だな」

 またわからない単語が出てきた。


「落人って?」

 晃がたずねると、二人がちょっと顔を見合わせた。どちらが説明するか相談しているらしい。


「晃は漫画とかラノベとかって読む?」

 ラノベって何だ? と思ったが、『読む』とつくのだから本だろうと察して首を横にふる。

 晃はひまさえあれば山に入って遊んでいるので、基本学校以外で読書はしない。


 どう説明しようかな、と困り顔で、ヒロが言葉を続ける。



「ぼくらの今存在するこの世界とは『異なる世界』っていうのが存在するんだよ」


「ことなるせかい」


 あまりにスケールの大きな話に、言葉をオウム返しすることしかできない。


「多重世界、並行世界、パラレルワールド、異世界。色々な呼び名がついているんだけど。

 ―――たとえばぼくらが今いるのが、この重ね煮のこの部分だとするとね」

 キャベツと豚肉を交互に重ねてある料理の、断面の一部を箸の先で指し示す。

 地層のように重なっているのがよく見える。


「この、ちょっとズレたこっちの部分に、もう一つ似たような別の世界があるんだ」


 箸先を見ていた視線を思わずヒロの顔にもどす。目が合うと、念を押すように力強くうなずかれた。


「たとえば応仁の乱がおこらなかった世界。織田信長が本能寺で死ななかった世界。電気がうまれなかった世界。

 そんな風にぼくらの世界の歴史や文化と『ちょっと違う世界』が、この重ねた数以上にあるんだ」

 箸先をキャベツ、豚肉、キャベツ、と、一枚ずつ指し示しながら、ヒロが説明する。


「世界が……たくさん…」

 キャベツの重ね煮をじっと見る。その一枚一枚にひとつの世界があると考えてみる。

 途方もない話すぎて、頭から湯気が出そうだ。想像しようとするがうまくできない。


「で、時々、この二つの世界が交わったり」

 重ね煮の上二枚を上手に箸で取り、取り皿の上で並べて一枚につなげてみせる。

「穴が空いたみたいにつながることがあるんだ」

 残った重ね煮をブスッと箸で突き刺す。箸を抜くと、当然下まで穴が空いていた。


「交わったりつながったりするのはホンの一瞬、人ひとり通れるくらいの大きさが多いんだけどね。

 それで、ちがう世界の人がこっちの世界に来てしまうことがあるんだ。

 特に京都はさっきも言ったけど霊能都市になっちゃってるから。いろいろ『つながりやすい』みたいで、色んなのが『落ちて』くるんだよねー」

「あちこちに結界だの何だの作ってるから、空間がゆがみやすくなってるんだよな」

 ハルも続けて言う。


 その『迷い込んだ人』達が一番多く言うのが「落ちてきた」なので、この世界と異なる世界の人のことを『落人』と呼ぶようになったそうだ。


「時間も空間も関係なしに『つながる』から、過去から未来まであらゆる時代の人間が来るぞ」

 それはなかなか大変なのではないだろうか。

 時代が違うということは生活様式もお金も違うだろう。

 自分がもしそんなところに迷い込んだらと考えると、ゾッとする。


「あとね。こっちがぼくらのいる世界だとして」

 先程説明に使っていた自分の重ね煮の皿の横に、ハルの重ね煮の皿を並べる。

「また別の世界がある」


 同じ重ね煮の皿を並べたことで、晃でも気付いたことがある。それがわかったのか、ヒロがうなずき、答える。

「別の世界ももちろん、ちょっとズレた世界がある」

 ぷしゅう。と頭がパンクした気がした。


「それが、いっぱいある」

 食卓に並べられている皿ひとつひとつを指さされる。

「で、それもたまにこうやって重なることがあって」

 二つの食器をカチンとくっつける。

「ここから『落人』が落ちてくる」

 かろうじて接している一点を指し示し、ヒロが言う。


 何だそりゃ。

「落まくりじゃないか」

「そうなんだよ」


 困ったようにヒロが言う。ハルも続けて話をする。

「たいていは『落ちて』きたことにも気付かず、すぐに元の世界に戻るんだけど、たまに戻れない人がいるんだよ。安倍家(ウチ)は結界管理している関係で、京都の中なら『時空のゆがみ』を察することができるから、『つながった』時点で現地調査に必ず行くんだ。その時に落ちてきた人を見つけたら保護する。帰れそうなら帰るために手助けするし、帰れない人は安倍家(ウチ)で働いてもらっている」

「落人の衣食住を当面支援するために、ここみたいな離れがいくつかあるよ」

「大変だな…」


 かろうじて言えたのはこれだけだった。

 落ちてきた人は大変だろうが、それを保護し支援する体制は整っているらしい。

 一度にたくさんの情報を入れられ、晃はいかに自分がせまい世界で生きてきたのか実感した。

次話は本日12時投稿予定です

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