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ジャンクション33  作者: 雨川水海
三本の牙

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三本の牙19

 サラテック基地の主、オディット・ベント大佐は、温和にシワを刻んだ表情に、緊張を浮かべて、着陸するヘリを出迎えた。


 専用の輸送ヘリから、無駄というものを削ぎ落とした動きの兵士達が、素早く展開する。

 全員、それぞれの魔導兵装を手に持っており、スラム街で起こった戦闘音に対し、警戒態勢を示していた。

 明らかに、基地の武装隊員とは練度が違うことが知れる彼等は、汎用先遣部隊(MAG)と呼ばれる特殊部隊だ。


 サラテック基地の武装隊員がそうであるように、通常の隊員は、その地域に固定される。

 ある程度の年月や資質に応じて派遣先は変わるが、それは数年単位のことだ。


 だが、MAGの派遣先は、〝危険の最前線〟である。

 最前線が動けば、彼等は速やかに移動する。

 例えば、危険度の高い組織や集団、あるいは場所に、必要に応じて先遣部隊として、あるいは増強部隊として投入される役目を負う。

 今回は、すでにサラテック基地があるのだから、増強部隊としての投入と言える。


 MAG指揮官である、少佐の階級章をつけた男が、ベント大佐の前に立った。

 階級は、ベント大佐の方が上である。だが、線の細い大佐と異なり、少佐は長身で分厚く、しかもスマートな礼服ではなく武骨な戦闘服であった。

 どちらがより強大か、見た目ではベント大佐の分が悪い。

 息苦しそうにするベント大佐に、礼儀上、少佐の方が敬礼した。


「MAG第13班指揮官、ドレイク・ブライト・ドラグニカ少佐だ」

「よ、ようこそ、ドレイク少佐。サラテック基地長、オディット・ベント大佐だ」


 ベント大佐は、ドレイクという部分をもつれそうになりながら口にした。

 ドレイク・ドラゴニカといえば、一族で伝統的にMAG指揮官を歴任し、さらに総指揮官すら数多く輩出する、エリート中のエリートだ。

 その戦闘能力は絶大の一言――龍を知る(ドラゴントーカー)と呼ばれる彼の種族名の通り、龍種の力を引き継いでいる。


 そんな大物が、どうしてサラテックのような辺境に来たのか。

 いや、辺境は確かに紛争が起きやすい。異世界衝突も発生しやすい。

 そのため、MAGが投入されるケースは多々あるのだが、どうしていまさら、すでに硬直し普遍化したような紛争地域へ。


 ベントは冷や汗を背筋に感じながら、基地長室へ案内しようとする。

 それを、戦闘態勢の隊員達を周囲に置いた少佐は拒否する。


「折角だが、先に情報を要求する。ヘリの上からでも、スラム街北部での爆発を確認した。あの爆発についての情報はないか」

「あ、ああ、流石はMAGだね」


 すでにサラテックの地図まで把握しているかと、ベント大佐は唾を飲む。


「それについては、やや不確かだが、あの地域に今日、二組パトロールに出ている。そのうちの一方から、もう一方のパトロールチームと通信がつかない旨、そのパトロールチームの方角から戦闘音が聞こえたという報告があったので、恐らくは」

「そのパトロールチームの安否と、確認と救護の対策チームはどうなっているか。必要であれば、こちらから派遣する」

「あ、いやいや、それには及ばない」


 ベント大佐は慌てて両手を振る。


「あのようなことはこの基地ではすでに慣れているものでね。パトロールに出ているチームが確認に向かっているので、追って情報が入るだろう」


 ベント大佐の言葉は、予想外に早く証明された。

 基地長用の携帯端末に、正面ゲートから連絡が入ったのだ。


「おっと、失礼。こちらベント大佐、何事か?」

『あ、大佐。こちら正面ゲート、なんですが、それがその、パトロールが戻って来まして』

「ああ、爆発音を調べに行ったパトロールか。それで、どうだった? やはり、あの訓練生達が……」


 ベント大佐の沈痛な声を、門番の困惑した声が裏切った。


『いえ、その、今戻ったのが、その、訓練生達です』

「なんだって?」


 エクスフォクスの待ち伏せ攻撃を食らったはずの訓練生が、どうして基地の正面ゲートに現れる。

 現実を認識し損なったベント大佐の前で、ドレイク少佐はさっと敬礼して、正面ゲートへ足早に動き出す。

 MAG隊員のうち、二人だけがそれにつき従い、残りは輸送ヘリから迅速に荷を下ろしだす。


 慌ててベント大佐も、足の速い少佐の後を追い、正面ゲートにたどり着く。

 報告通り、息を切らせ、青ざめた顔で座り込んだ目つきの悪い男子訓練生と、それを心配そうにしている二人の女子訓練生が、そこにいた。


「無事、だった、のか!」


 ベント大佐が、言葉を落としそうになりながら、何とかそう言い切った。

 女子訓練生は、一応背筋を正したが、男子訓練生フィッシャーは座り込んだままだった。


「どうした、負傷したのかね」


 大佐の問いかけに、フィッシャーは顔をあげ、何かを答えようとした。

 口が動き、だが、音が漏れない。


 フィッシャーは何度か、発言を試みたが、喉に石が詰まったように、かすれた声すら出ない。終いには、無理に話そうとした顔がゆがみ、胃の中の物をぶちまけた。

 それを、見慣れたものとして、ドレイク少佐は眉ひとつ動かさずに確認した。


「失語症のようだな。大佐、彼等が襲われたと思われたパトロールチームか」

「そ、そうだ。最近ここへ来たばかりの実習生で、ああ、かわいそうに」

「実習生? では、二年次訓練生ということか」


 吐き続ける少年に感情を表さなかった少佐の眉が、しかめるように、ほんのわずかだけ動いた。

 そんな未熟者が、危険度が高い地域にどうしているのか、どうして危険度の高いパトロールに出されたのかという疑念が、当然のように現れていた。


「それについては、実習生の指導は、イルギス准尉に任せてあるもので……」

「そうか」


 あっさりと、ドレイク少佐は追及をやめた。

 代わりに、女子訓練生二人に視線を置く。


「二年次訓練生、報告」

「あ、え、はい!」


 キャルが慌てて瞳をくるくると動かして言葉を探す。

 こういうことは、いつもリーダーのフィッシャーがやっていたので、とっさに代われと言われると困るのだ。


「えーと、パ、パトロール中に襲撃を受けました!」

「敵は」

「エクスフォクス、だと思います。えっと、七人……いや、狙撃あったから八人!」

「負傷は」

「多分、とりあえずは大丈夫だと……でも、至近で爆発を食らったから、特にフィッシャーが」


 ドレイク少佐の眼に、男子訓練生の醜態に対して一定の理解が浮かんだ。

 そうして改めて男子訓練生を見れば、顔に乾いて黒ずんだ血が付着している。


「自爆か」


 ドレイクの冷静な指摘に、男子訓練生がまたえづくことで答える。

 だが、それをいたわるようなことは言わず、ドレイク少佐はベント大佐に向き合う。


「大佐。敵は自爆攻撃まで仕掛けてくる段階に突入した。また、MAGは、敵が戦術兵器を購入するという情報を掴んでいる」

「そ、それは、本当か?」


 自分の命も武器にするような人間が、敵対者の命を思いやるはずがない。

 戦術兵器のような破壊力の高い兵装が、そんな連中の手に渡れば、間違いなく使用される。


「そういうことだ。これより、MAG第13班は、敵エクスフォクスを迅速に鎮圧する。この目的を達するために行動する際、我々の権限は、大佐、貴方より上位に位置する」


 ベント大佐は、口では何も言わず、ただ頷いた。

 それには不満がたゆたっていたが、ドレイク少佐は構わない。

 MAGとはそういうものだ。彼等は階級以上の権限を、常に与えられている。


「以上のことについての書面は、大佐あてに届いているものを確認してもらう。では、これより任務を遂行する」


 ドレイク少佐は、さっと敬礼をして、部下のもとへ向かう。

 その途中にも、付き添ってきた二人の隊員に指示を出す。


「すぐに資料室へ行き、情報を集めろ。それと外部との連絡を取る者のチェックだ。行動は迅速に行え。敵は耳が良く、逃げ足が速いぞ」


 二人の隊員がすぐに駆け出す。

 彼等の本当の敵を、逃がすわけにはいかない。

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