8話 ロット
「2人とも落ち着いた?」
「「はい……」」
言い争いをやめた2人は、腕を組んだ私の前に並んで座っていた。
まるで姉妹を叱りつける母親の図だ。
「私が誰とどれだけキスしたとかはどうでもいいの」
「あら? それって誰とどれだけキスしても気にしないって事ですか? でしたらわたくしと……」
「ずるい! それなら私も───」
「違う! そういう事じゃないから!」
ほんと何言ってるんだこの2人は! キスにどんだけこだわり持ってるの!?
「とりあえずキス云々は忘れて、状況を整理しよう」
「分かりましたわ……」
「はーい……」
なんで残念そうなんだ……。
「まず、ロットは私の杖なんだよね?」
「はい、ユリーナ様の杖ですわ」
うん、なんで強調したのかな?
「それで、私の魔法が暴走したのはロットが原因なんだよね?」
「それは本当に申し訳ございませんわ……」
うつむき気味で申し訳なさそうにするロット。
一応主人ってことになる私の気を失わせちゃったわけだし、責任も感じてるのかな。
「でも、今後はうまく調節出来そう?」
「それはもう頑張りますわ! どれだけ昂ぶっても気持ちを落ち着けます!」
昂ぶるってなんだ、昂ぶるって。
でもまあ大丈夫って事かな?
「うん、ありがと。よろしくね」
「はい!」
よし、これなら今後今日みたいな事故は起きないか。
「ふぅ、今日は色々あって疲れたしお腹空いてきたね。ちょっと早いけどご飯行こっか」
「はい、行きましょう!」
時間は6時20分。ご飯というには少し早い気もするけど、晩御飯は6時10分〜7時40分までだからもう用意はできてるはずだ。
「あれ、そういえばロットってご飯食べるの?」
杖である事は確かだけど、見た目は完全に人なわけだし、ご飯を食べるとしても違和感はないよね。
「いえ、別に食べずとも生死には何と関係致しませんわ。でも、ユリーナ様とであれば少し食べてみたくはあります!」
「よし、じゃあ一緒に食べに行こうか」
「はい!」
食堂はお代わりし放題だし、ロットが1人増えても迷惑はかからないよね。
「え、2人っきりのご飯が2日目にして……」
リリーがなんかボソボソ言ってる……。
食堂に着くと、すでに何人かの生徒がご飯を食べていた。
何人かパジャマ姿の子もいて、ロットのパジャマ姿も違和感なく溶け込めている。
「よし、じゃあここで食べようか」
私たちは端っこの4人席に陣取った。
「これが人のご飯なのですね」
なんかロットがご飯を見ながら感動していた。
見た目は完全に人なのでなんかすごい違和感だ。
「そういえば、ロットさんってこれまでの記憶あるんですか?」
そういえばどうなんだろ?
聞いてる限り、私がキスするよりも前からあるっぽいけど。
「そ、そうですわね……はっきりと残っているのはユリーナ様にキスをされてからですわ。それ以前はおぼろげというか、ふわふわした微妙な感じなのですよ」
ローリィー先生はトレントを素材にしてたって言ってたし、それ以前って魔物としての記憶なのかな?
「まあ、とりあえず食べようか」
「はい、そうですね」
「楽しみですわ」
「それじゃあいただきます」
「「「いただきます」」」
……ん? 今3人分の声聞こえなかった?
「ってうわっ!」
「担任の教師に対してうわっ、とはなんじゃ」
「あ、すみません……」
いつの間にやらローリィー先生が4人目の席に座っていた。
いつからいたんだ……?
「それにしても、見た事ない顔がおるのぅ。それに、会話も少し面白そうな感じじゃし」
ローリィー先生はロットの顔を見ながらニヤニヤしていた。
あ、これはバレてるな。できれば隠した方がいいと思ってたけど……。
「い、いや! これは違うんですよ先生! その、この子は私の親戚というか……!」
リリー、そのごまかしは流石に通用しないと思うな……!
「いや、誤魔化さんでも良い。今の会話で大体察しはついとるしな。お主、ユリーナの杖じゃろ?」
「そ、そうですわ」
完全にバレてる……。
「それにしても、杖の擬人化とは……。ユリーナに渡した杖がたまたま凄かったのか、ユリーナに渡したからこうなったのか、どちらにせよ研究のしがいはありそうじゃの」
ローリィー先生は今日一楽しそうな笑顔を浮かべていた。
研究ってやっぱり先生というよりかは教授に近い感じなのか。
「まぁ、とりあえず似たような事象がないか文献を調べておいてやる。代わりにたまにワシの研究に付き合ってもらえるかの?」
「わたくしはユリーナ様がよろしければ構いませんわ」
「あ、私もロットが平気なら大丈夫ですよ」
むしろ、調べてもらえるというならありがたいくらいだ。
「うむ、ではまた明日。ユリーナは反省文の提出を忘れないようにするのじゃぞ」
「はい」
私が頷くと、ローリィー先生は瞬きの一瞬で姿を消した。
「え、今の世界でも数人しか使えない空間転移魔法じゃないですか!?」
「え、そんなにすごいの使ったの!?」
ローリィー先生って一体何者なんだ……!
時間ギリギリ間に合いました……! よかった!