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4話 入学式

「その、すみませんでした!!」


 寮母さんの乱入のおかげで正気を取り戻したリリーは、私に向かって土下座をしていた。


「なんかこう、ユリーナちゃんを見ていたら気持ちがふわふわしてきて、自制心が効かなくなだちゃったというか……」


「大丈夫だよ、別に怒ってはいないから」


 私のスキルが原因なわけだし、別にリリーに対して怒るところではない。

 怒るとしたら、私を男と勘違いしたあの天使さんに対してだろう。


 それに、突然でびっくりしただけで、嫌かと言われると一概にそうでもなかったしね。


「でも私、寮母さんが居なかったら何していたか」


「それはまあ……後で寮母さんに説明しようね」


 完全に私とリリーがそういう関係だと思ってたっぽいもんな。早いこと誤解は解いておかないと。


「もう起きちゃったことはしょうがない。切り替えてご飯食べに行こう!」


「あ、はい! 分かりました!」



 食堂に行くと、既に結構な人数で埋め尽くされていた。

 この寮の生徒全員がここの食堂で食べるんだから、そりゃそうなるか。


「これ、席取れるかな?」


「席取れなかったら部屋で食べてもいいって資料に書いてありましたよ」


「あ、そうなんだ。じゃあそうする?」


「そうですね、部屋で食べちゃいましょう」


 そう決定すると部屋で食事を済ませた。



 食器を食堂に返した帰り道、寮母さんにあったので誤解を解こうと説明したんだけど、


「はい、分かっていますよ。全部理解していますから」


 と、変な方向への理解をされた。

 もうどんだけ足掻いても無理そうだったので、言いふらさないようにだけお願いしておいた。


 了承してくれたから変に広まることはないだろう。



 その後、シャワーを浴びて、今日はもう寝ることにした。

 明日入学式でそこそこ朝早いからね。


「でも私、ユリーナちゃんみたいな優しい人が同室で良かったです」


 寝る直前、リリーがふとそんなことを言った。


「私もリリーみたいな子が同室でよかったよ」


 もしも同室が高飛車な子だったり、オラオラした子だったら大変だっただろう。

 ちょっとアレなこともあったけど、その辺に関してはリリーが同室で本当によかった。


「それじゃあ明日も早いし、そろそろ寝ようか」


「はい!」


 私はランプの明かりを消すと、布団の中に入った。


「それじゃあおやすみ」


「おやすみなさい」


 ──────


 翌日。


 私たちは入学式に出ていた。

 出席してる新入生の数は大体100人くらいで、思ったよりも少なかった。


「どうも、学園長のエムロールだ。まずは、皆入学おめでとう。ここ、フルール女学園で大いに学んでくれるといい。さて───」


 学園長のお話は特筆する点もなかったから、割愛しよう。

 重要な場所は、部屋番号の3桁目の数字がそのままクラス分けになってるってことくらいだった。私は107号室だから、1組ってことだね。


 その後もスムーズに進行していった入学式は、1時間ほどで終わった。

 もちろん、それで今日はおしまいなんてことにはならず、入学式後は各クラスごとの教室に集まることとなった。


 教室は大学みたいな階段形式のものだった。

 私たちは107号室の札を見つけてその席に座る。


 そうして全員が席に着いたあたりで、教室に自分の背丈よりも大きい杖を持った緑色の髪の幼女が教壇の上に立った。


「うむ、全員揃っておるの。ワシはここ1組の担任をすることになったローリィー・ベッカーじゃ」


 え、担任!?

 身長100センチくらいしかないぞ……。声も顔立ちも完全に幼女なのに……。


「見た目が幼女だからといって、なめておったら許さんぞ。これでもワシはこの学園を首席で卒業しておる。実技に関していえば、学園長にも負けぬわ」


 何気にすごいな。見た目とのギャップが半端ないけど。


「……ん? だれか今ワシのことを幼女と呼んだか? 捻り潰すぞ」


 いや、言ったの先生ですよね!?


「ん、まあよい。貴様らには授業をする前に配るものがある。机の中を見てみろ」


 言われた通り机の中を見てみると、中に杖が一本入っていた。

 先生のやつとは違って、30センチほどの短いやつだ。


「既に自前の杖を持っておる者もいるかもしれぬが、在学中はその杖を使うように。初めから良いものを使っていては実力が伸びんのでな」


 つまり、この杖はあんまりいいものじゃないって事か。でも確かに道具の力に頼ってたら力つかないもんな。

 リリーとかの真面目に強くなりたい人達にとってはいい環境なんだろう。


「そうじゃな、明日は午前から魔法実技もある事じゃし、魔法の仕組みでも説明するとしようかの」


 先生はそう言うと、杖で黒板を軽く叩いた。それだけで黒板に文字が浮かび上がった。

 魔法すごい!


「良いか、勘違いしておる者も多いが、魔法というのは自分の中にあるMPを消費する事で近道をするものなのじゃ。

 例えば『ウォーター』は空気中の水分を水にするのをMPが簡略化してやっておるだけじゃし、『ファイア』もMPが空気中の温度を上げて火を起こしておるだけじゃ。あくまでも人間にできる事の手間をMPで簡略化しておるだけで、万能ではないからの。それをまず念頭に置いておけ。

 ちなみにこの板書の魔法も、書いた分だけのチョークが消費されておるぞ」


 なるほど、じゃあ質量保存とかエネルギー保存の法則はこっちの世界でもあんまり変わらない感じか。MPがいろいろややこしく絡んできているだけで。


「次に杖についてじゃが、この杖の原材料は、魔物のトレントじゃ」


 トレントっていうと、大木とかに足が生えてるあの魔物か。


「トレントは魔物の中でも生命力が高く、枝を切ってもそこには意識のようなものが残留する。杖はその残留した意識を使う事でMPの影響効率を増幅させておるのじゃ。

 じゃから、その意識の量が多い、つまりは高級な杖の方が魔法の効果は強く出やすい。しかしその分扱い辛くもなるのでな、結局は身の丈にあったものを選ばなくてはならん」


 え、つまりこの杖にもそのトレントの意識とやらが宿ってるって事?

 それ、なんかちょっと気持ち悪いな。


「ちなみに、支給した杖は若いメスのトレントのものじゃから、大して意識は残っとらん。実力が試されるからしっかり励むように」


 ちょっとだけだからいいってもんでもないよね。リリーも隣ですごい微妙そうな顔で杖を眺めてるし。


 その後、簡単な魔法のコツなんかをサラサラっと教えてもらって、その日の授業は終了したのだった。

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