2話 出会い
入学手続きが終わっているというのは、何から何までだったらしく、あの食事の会話から一週間後には出発と相成った。
というわけで現在私はロール家所有の馬車に揺られている。
運転は我が家の自慢のメイドさん。家事もできて馬車も扱えるってかなりかっこいい。
初めての馬車ってちょっと怖かったけど、思ったより揺れはないし、椅子とかもふわふわしてて結構快適だ。
「それにしても寮かぁ」
今まで身内だけでのほほんと過ごしてきたわけだし、いきなり寮に放り込まれるのってなかなかハードル高いよね。
とりあえず10歳児への扱いではないと思う。
……まあ前世から数えて精神年齢30歳になるんだけどさ。
「あ、口調とかどうしよう」
一応、ロール家って伯爵な訳だし、ちょっと高貴な感じにした方がいいんだろうか?
でも、それっていつかボロが出そうだしなぁ。
「まあ自然体が一番かな」
自然体でというと、前世の時の話し方になる。
一応、お父様とお母様には丁寧な言葉にしてるけど、せいぜい話し出して7.8年だからね。
前世の口調が優位にあるに決まってる。
と、そんなあれこれを考えているうちに学校に到着した。
「申し訳ありませんお嬢様、校則の関係上私はここまでしかお見送り出来ません……」
校門の前で、メイドさんは悔しそうにしていた。
「いえ、ここまで来てもらえただけありがたいですよ」
馬車を動かしたり、荷物を持って来てくれたんだから、本当にありがたかった。
家と学校は徒歩で30分くらいの距離だから歩けなくもなかったけど、荷物がそれなりにあったからね。あんまり歩きたくはなかった。
「それではお嬢様、どうぞお元気で」
「はい、メイドさんもお元気で。気をつけて帰ってくださいね」
「はい……! もったいないお言葉ありがとうございます!」
昔からメイドさん平身低頭なんだよね。
一応、ロール家が雇ってるわけだから上下関係はあるんだけど、不思議な気分になる。
ともあれ、そんなメイドさんと別れると私はお父様にもらった学校の地図を片手に寮を目指した。
入学式は明日だから、今日は寮に入るだけなのだ。
同室の子たちとの顔合わせもあるからね。
別に方向音痴ってわけでもないので迷う事なく寮に到着した。
寮は全校生徒が暮らしているだけあって結構な大きさだ。
「こんにちは〜」
挨拶をしながら寮に入ると、寮母さんらしい女性が立っていた。年齢は20代後半くらいで、ザ・OLって感じの雰囲気をまとっている。
……ちょっと厳しそうな人だな。
「どうもこんにちは、あなたは……ユリーナ・ロールさんですね」
「あ、はい……って、え? なんで私の名前」
私まだ名乗ってないぞ。なんで名前知ってるんだ?
「この寮に住む生徒たちの顔と名前は入学手続きの書類を見て既に覚えています。それが寮母としての役目ですから」
すごっ! ……でもちょっと怖いな。
「じゃあ、鍵いただいてもいいですか?」
手元の書類には、寮母さんから鍵を受け取ると書いてある。部屋番号もここで教えられるらしい。
だから私のお願いは当たり前のことだったはずなんだけど、寮母さんはなんか固まってしまった。
「えっと、どうかしました?」
「い、いえ! なんでもありませんよ! ち、ちょっと待っていてください」
寮母さんは少し焦った様子で右手にあった部屋に駆け込むと、しばらくして帰ってきた。
「ユリーナ・ロールさんの部屋は107でした。これが鍵です」
「ありがとうございます」
「いえ、寮母として当たり前のことですから。決して顔と名前は覚えたけど部屋番号を覚えていなかったなんてことはありませんからね! 寮母ですから!」
「あ、はい」
聞いてもないのにものすごい早口で言い訳する寮母さん。
それ、自分で答え言っちゃってるようなものですよ。
でも、第一印象ほど厳しい人じゃなさそうでよかった。
むしろちょっとドジっ子で可愛さすら感じる。
部屋は八畳程で、ベッドと勉強机が二つにクローゼットが一つという簡素なものだった。
まあ寮なんて大体こんなものだよね。
とりあえず服を収納して勉強机に筆記用具類を置いておく。
それ以外にも細々とした用意をして、それもちょうど終わった頃、部屋の扉がノックされた。
「はーい」
多分同室の子だろうから、何の疑いもなく扉を開けた。
そこにいたのは、銀髪ロングにうっすらピンク色が入った美少女だった。
「あの私、リリアーナ・アズリア、10歳です! リリーって呼んでください! どうぞよろしくお願いします!」
リリアーナと名乗った子は、いかにも緊張した感じで頭を下げた。
ファーストコンタクトって大切だもんな。よし、ここは気さくな感じで。
「リリーか。私はユリーナ・ロール、年齢はリリーと同じく10歳だよ。ユリーナって呼んでね」
ああっ! 気さくな感じってわかんない!
いたって普通の挨拶になっちゃったぞ……!
でもリリーはそれがよかったのか目を輝かせながらこっちを見つめていた。
「はいっ! ユリーナちゃん!」
すっごい嬉しそうだ。
なんなら今ものすごい握手されてるからね。
こうして、私はルームメートのリリーと出会ったのだった。




