11話 無双!
「確かにそれは怖いですが、ユリーナちゃんといちゃつくチャンスは常に狙っておかないと!」
「そうですわ! わたくし達はユリーナ様の心を狙う盗賊ですもの!」
それ、なんも上手くないからね!!!
そんな馬鹿をやってから10分ほど歩くと、ふとローリィー先生が立ち止まった。
『そろそろ来そうじゃの。お主らちゃんと構えておくのじゃぞ』
ローリィー先生から魔法でそう伝達が来た。
これは対象の鼓膜を震わせて声を伝える魔法らしい。魔法ってほんとなんでもありだよね。
ともあれ、ローリィー先生の予想通り、奥の方から二人組の男が現れた。
見た目は薄汚れた冒険者って感じだ。
考えてみれば、冒険者と盗賊って襲うのが人が魔物がってだけで、やってる事自体はさほど差がないのか。
それなら装備が似通ってくるのも納得だ。
「侵入者が来たと思ったら、幼女にガキが3人だぜ。しかも全員女だ」
「こりゃ儲けもんだな。やる事やったら売り飛ばすか」
下卑た笑いを浮かべる二人組。
この人たちはちょっと生理的に受け付けないなぁ……。
リリーとロットも気持ち悪そうに顔をしかめている。そりゃそうだよね。
でも、私たちの中で一番怒っていたのは、ローリィー先生だった。
「お主ら、今ワシのことを幼女と呼んだか……? 後ろの3人はガキでワシは幼女か……? ふざけおって、捻り潰すぞ」
怒るとこ、そこ!?
「ん? だって君どう見ても幼女だろ? 親とはぐれたんなら俺らが新しい親に売り飛ば───」
───ズドオォォン!!!
ナメた態度でローリィー先生に近づいた男が、肩に手が触れる瞬間に横に吹き飛ばされて、壁に叩きつけられた。
うわぁ、めっちゃ痛そう。まあ自業自得なんだけどね。
「なっ、なんだ今のは! まさか貴様が───」
───ボカァァァァン!!!
驚いた様子の男も、上に飛んで天井に頭が突き刺さった。
……あれ、生きてるのかな?
「フッフッフ、決めたのじゃ。軽く痛めつけてやるだけのつもりじゃったが、死なない程度に捻り潰してやる事にしよう……。こっちには大義名分もあるわけじゃし」
ローリィー先生は闇のオーラを放ちながら怪しげに笑っていた。
怖い! 怖すぎる!
というか発言が完全に悪の帝王のそれになってる!
それからのローリィー先生は、それはそれはすごいものだった。
盗賊を少しも寄せ付けず、終始一方的に蹂躙していく。
何も知らない人が見たら、確実にローリィー先生が悪者だって言いそう。そんな感じだった。
そして、5分も経たずして、盗賊はリーダーっぽい人1人になっていた。
「お、お前達は何者なんだ! なんで俺達がこんなようじ───」
「黙れ」
ローリィー先生が杖の先から電気を放って盗賊を気絶させた。
「ワシは幼女ではないわ」
どんだけ幼女って言われたくないんだ……。
まあ気持ちは分からないではないけどもさ。
「ん? あ、そういえばこれユリーナ達への罰則じゃったな」
思い出したように我に帰るローリィー先生。
完全に目的見失ってたな……。
「どう報告したものか……。ま、言わなけりゃバレんじゃろ」
なんて適当な……。
「よし、それじゃあ痛めつけるのも終わった事じゃし、こやつらを軍隊にでも預けて帰ることとするのじゃ」
「「「はーい」」」
もはや後ろで見ているだけだった私たちは、揃って返事をする。
こうして、私たち(実質ローリィー先生単独)の盗賊退治は幕を閉じたのだった。
……と、なると思ったいたんだけど。
「ガキに負けてたまるかぁ!!」
影に潜んでいた盗賊が飛び出して来た。
ナイフを持って私に襲いかかって来る。
やばい、刺される……!
思わず目をつぶったけど、いつまでたっても痛みはやってこなかった。
「ユリーナ様、大丈夫ですか?」
目を開けると、目の前にはロットがいた。
盗賊は壁に叩きつけられている。
刺される直前にロットが助けてくれたのか。
「うん、大丈夫、ありがとね」
「いえ、ユリーナ様を守るのは当たり前ですわ!」
ポンっと胸を叩くロット。心強いな。
「それにしても、この盗賊、ユリーナ様を襲うなんて許せませんわ!」
ロットは盗賊に向けて小さなファイアボールを投げまくりだした。
「ちょっ、ストップ! 死んじゃうから! 流石に殺すのはまずいから!」
「むぅ……でも許せませんわ!」
「いいの! 助かっただけで充分だから!」
その後も、必死の説得でなんとかロットはファイアボールをおさめてくれた。
ちなみに盗賊は生きていました。頭は漫画みたいなアフロになっていたけどね。
こうして、本当の本当に盗賊の討伐は終了したのだった。
─────────
というわけで、軍隊に盗賊を引き渡した私たちは、学園長室に報告に来ていた。
「───以上が、討伐の報告じゃ」
ローリィー先生がしれっと討伐を私たちの手柄に変えた報告をした。
「……いや、この速度なのに全滅って、確実にローリィーの手が加わっているだろう。それもかなりの割合で」
あ、バレてる〜。
「まあどちらでもいいじゃろ。結果は変わらんわけじゃし」
「そうだが、一応これは罰則の意味があるのだぞ」
「相変わらず堅いのぅ。もっと柔軟にいくのじゃよ」
「ローリィーのは柔軟ではなくて適当なだけだろう!」
ごもっともだと思うけど、今回は学園長を応援するわけにもいかないもんなぁ。
「はぁ……まあ、結果が重要という意見も分からないではない。それにとやかく言ってもどうしようもないものな」
学園長はため息混じりだった。
その後、幼女の悪魔が出るとの噂が盗賊の間に広まり、この辺りの治安が良くなったらしいけど、私たちには関係ない話だ。




