【企画会議】ラーメン屋で
吉野先輩の家に戻って来たのは夜の九時過ぎ。
悠城先輩はコンビニから帰るとすぐにお風呂かしてといい了承も得ないまま入っていった。
「先輩。 これって覗けってことですよね? 別に覗いても大丈夫ですよね?」
「俺は知らないけど・・・・いってらっしゃい」
「一緒に行かないんですか?」
吉野先輩は彼女いるからお前に任せたd(・`ω・) と言ってスタスタと自室に帰って行った。
ゴクリ。
生唾を飲み込んだ音が聞こえる。
先輩に荷物は預けているので手ぶら・・・・いやスマフォはある。
恐る恐るお風呂場へ忍び込む。
差し足、向け足、忍び足。
お風呂場まであと一メートル。
三十センチ。
脱衣所のドアノブに手をかける。
静かに戸を開けると、シャワーのせせらぎに悠城先輩の鼻歌。
ここにいるだけでお腹いっぱいではあるが、ここまで来たからには引き返すわけには行けない!
と自己暗示をかけいざ楽園へ。
「あれ? お風呂場にいたはずなのに」
楽園へ行こうとしたところまでは覚えているがそれ以降の記憶がない。
「やっと起きたんだ。 悠城に気づかれて失敗したんだね」
吉野先輩は缶ジュースを飲みながらかわいそうな子を見るような目で僕を見ている。
悠城先輩は僕が来たことに一目散に気づき、戸を開けた瞬間に顔面キックで僕を気絶させたらしい。
「本当にありえない。 ほんと男子ってケダモノなんだから」
普段人のことを罵る以前に怒らない悠城先輩が不器用に怒る姿はこれまた最高なのだが、こんなことを言ったら火に油を注いでいるようなものなので心の中にしまっておこう。
「ほんと最低。 私の体を見ようとしたんだからそれなりの罰を受けてもらうからね」
悠城先輩は自分で言ったセリフが恥ずかしかったのか顔を赤く染める。
「み、未遂ですし・・・・ね?」
吉野先輩に助けを求めるが遠く離れたところでけらけらと笑っている。
「未遂でもやろうとしたんだから罰を受けるのは当然だよね」
悠城先輩の顔を怖くて見れないです。
「・・・・・・はい」
「私のこと悠城先輩じゃなくて心絆って呼んで」
さっきよりも顔を赤く染めらせ、もごもごと話していたためよく聞こえない。
「なんて言ったんですか?」
「あーもー。 だ・か・ら、私のことを悠城先輩じゃなくて心絆って呼んでって言ったの」
湯タコよりも赤く染まった先輩は隣の部屋からやって来た吉野先輩のお父さんに近所迷惑になるだろうかあと怒られました。
吉野先輩はその横で僕のせいだとシュンと丸くなっている僕と怒られている最中の悠城先輩の写真をこっそり撮っていた。
「もう、誰かさんのせいで私、怒られたんですけど」
機嫌がすこぶる悪くなった先輩にジュースを捧げる。
「悠城先輩すみませんでした」
「悠城先輩じゃないでしょ」
ものすごく鋭く睨まれた。
「せ、せめてこ、心絆さんでもいいですか?」
異性の名前を呼ぶだけなのになぜか赤くなってしまう。 心絆さんもつられたからか顔が赤い。
「よろしい。 心絆さんか。 ふふっ」
吉野先輩は俺もいるのだが・・・・二人の空間を作らないで。
ここ”吉野家”だし。
という目で僕たち二人に訴えてるが気づかないふりをした。
月曜日の部活では僕がこ、心絆さんのことを名前で読んだことによりこの休日に何があったのだの引退間近の先輩方に囲まれるハメになった。
ろくに練習もやらず、最終下校時間まで僕と心絆さんは尋問のように質問され続けた。
何度どっちから告白したのだと聞かれたことか。
そりゃあ心絆さんと付き合うことができるのであれば最高に嬉しいがそんなことが現実に起こるわけがない。
何せ、僕と心絆さんじゃ吊り合わないし、今は声優の水輝伊乃さんに絶賛片思い中だ。
絶対に届かぬ恋と思っていたがYouTuberになったのでもしかしたら望みはあるかもしれないなんて最近では思っているのだがまだ気がはやいよな。
次の日、茶化されることはあったが練習もしっかりやり帰ろうとしたとき入部希望者が現れた。
今日の練習を見て入ると決めたと言っていたので昨日の様子を見られなくてよかったと二年生は胸をなでおろした。
入部してくれた次の日からぞろぞろと一年生が入部してくれて十人も集まった。
誰も入らなくて廃部になるのではないかという心配からこんなに入って二年生四人だけでまとめられるだろうかという心配に変わった。
そんな日の帰り道に先輩二人とラーメン屋に寄ることになった。
動画の企画会議というていだが、いつものように食べてお腹いっぱいじゃあ帰ろうかってなりそうな予感がしていたので僕から話を仕掛けた。
「次の動画どうするんですか? 王道続きじゃ視聴者は増えないですからね」
全くその通りだという顔を二人はしている。 顔はね。
「拓真は注文決まった? すみませーん。 まぜそば一つ大盛りで」
「鶏白湯大盛りで」
ほらもう二人とも話聞いてない。 本当に今日は企画会議やるのかな?
「お客さんは?」
先輩二人に呆れていたら店員さんに注文の催促をされたので担々麺普通でと注文した。
「ほっほ〜。 辛い物苦手な拓真さんが担々麺なんてどうしたんすか?」
失敗した。 店員さんに催促されたので目に入ったのでいいやと注文したら担々麺を注文してしまった。 担々麺を食べきるにはかなりの時間が必要となりそうだか企画会議をするにはよかったのかもしれない。
「企画会議かぁ。 まあ企画会議やらなくても次の動画の内容はもう決まってるんだよね」
あれ? もしかしてやること決まってるから企画会議はやらないの? まあ久しぶりにラーメン食べたかったからいいんだけど。
「何やるの?」
「拓真は『無人島きゅうり』好きだよね?」
無人島きゅうりとは登録者数百八十万人越えの超人気YouTuberなのだ。
男二人で始めはキュウリを切る動画から始めどんどん登録者数を増やして言った怪物級の超人気YouTuber。
僕がYouTubeを見るきっかけとなったのはこの二人の動画を見てYouTuberなんてただの自己満なだけで面白くないだろうと決めつけていた固定概念を変えてくれた神的YouTuberなのだ。
「んで、無人島きゅうりがやっていた『スイカバーで完璧な丸いスイカを作る』って動画を何年か前にあげていたんだけどそれをパクろうと思って」
いきなりパクるんかい。
なんて心の中でツッコミを入れた。
「パクる言っても丸パクリというかリメーク版を作ろうかなって思って」
「具体的にどうするんだよ」
吉野先輩の質問に待ってましたその質問と言わんばかりのドヤ顔が少しムカつく。
「スイカバー十八本使って完璧なスイカ作ったらしいんだけどあれは完璧ではないね。 スイカっていうのは丸だよ。 球体だよ。 でもあれは球体ではなかった。 すなわち完璧ではないってことだよ。 だから何本必要かわからないけど完璧なる外は緑で中は赤のスイカをスイカバーで作って見たをやりたいの」
今の力説を店員さんも聞いていたのに気づき心絆さんは顔を赤くして丸くなった。
ヒーヒー言いながら担々麺を食べ終わると早くこの企画のためにコンビニに行きたがっていた心絆さんは飛び跳ねたような笑顔で早く行くよと、お代を払いに行った。
心絆さんごちです。
なんて笑顔ましまし冗談で言ったら今日だけだからねと顔を赤らめ自転車に乗って早々と一人でコンビニへ行ってしまった。
さっきの行動が恥ずかしかったのかな? 恥ずかしがるっようなことしてたかな?
なんて思ったが吉野先輩は鈍感だねと言い残して自転車に乗って心絆さんを追いかけた。
何が何だかよくわからない。
当たり前だが一番にコンビニについた心絆は待ちきれなくアイスのショーケースの前にやってきていた。
そこである事実を知った。
「お待たせしましたってどうしたんですか?」
心絆さんは燃え尽きていた。
「なんでだよ。 なんでスイカバー売ってないんだよー」
それからスイカバー探しの旅は始まった。
ご機嫌だった心絆さんだったが自転車の漕ぎ方から見てもイライラし始めたのがわかった。
結局どこの店に行ってもなかったので今のところはお蔵入りの計画にはなったが、夏場などよく見かけるようになったら買い占めて絶対成功させてやると炎をメラメラ燃やしていた。
卓球部の引退試合(市総体)も終わり吉野先輩以外の先輩は引退した。
吉野先輩は引退試合(市総体)を勝ち進み県大会に出場した。
県大会は六月の頭にあるのでそれまではまだ一緒に闘えるのが選手一同嬉しかった。
まだ心配することではないが毎週土、日曜日は企画会議&撮影を毎週やっていたが心絆さんは引退して受験モードになってしまったら撮影はどうなるのだろうか?