十二月はじめの土曜日
十二月はじめの土曜日。
いつもなら吉野先輩の家で企画会議をして一週間分の動画を撮っているのだが、今日は違う。
ある声優さんのイベントにサプライズゲスト出演する予定なのだ。
サプライズゲストなので僕たち青星声の三人は声優さんに存在をバレちゃいけない。
「初めてこう言うところに出るから緊張しちゃうわ」
緊張のせいかナッツさんはいつも以上によく話す。
そしてソラトさんはいつも以上に喋らなくなってしまった。
僕はこう言うのは慣れているので全然大丈夫。
「・・・・。 拓真落ち着きがない」
ソラトさんが三十分ぶりに喋った言葉がまさかの僕への指摘とは。
さっきは強がったが、こう言う人前に出るのは久しぶりすぎて緊張しちゃうよね。
控え室に置いてあるテレビにはもう始まっているイベントが流れている。 本当だったら僕も客席で盛り上がっていたはずなんだけどな。
もう気づいているかもしれないがこのイベントは水輝伊乃さんの九月に僕がチケット買えなかったイベントなんだ。
こう言う形でもイベントを見ることができたのは本当に嬉しい。
そういえば、このイベントのグッズ販売についてネットの情報だけど「四時間並んだが欲しいものが買えなかった」や、「徹夜組への対応は素晴らしかったが、転売への対応がマジでゴミすぎる。 そのせいで欲しいものが全然買えない」など色々叩かれていた。
運営も転売に気づいたのか後日販売を行うと販売開始してから五時間後に発表をしていた。
そのため、グッズ販売だけでも並ぼうかと思っていたがそのためだけに行かなくてよかったと思った。
「そろそろ準備の方をよろしくお願いします」
イベントスタッフの方に呼ばれたので水輝伊乃さんに気づかれないように舞台袖でも隠れた。
このイベントは水輝伊乃さんと作家さんのゴメスこと後藤さんが出演している。
後藤さ・・・・いや、ゴメスさんは司会進行役として出演している。
「はい。 ここまでゲームコーナーなどやって来ましたが、どうでしたか?」
「いやーもう、楽しかったですね。 特に普通これ大人数でやるから楽しいんじゃないの? って思うゲームをたくさんやりましたけど結構楽しかったですね。 でも今度はみんなでやりたいですね」
はい。 僕が参加します。
ナッツさんに頭を叩かれ、バレたらどうするのと叱られてしまった。
最近心の中で叫んでいるつもりの声が心絆さんにダダ漏れなきがする。
ナッツさんは超能力者かなんなのか? それとも本当に僕が言葉を発してしまっているのか? どちらにしても注意しなくては。
「それでは水輝さん。 ライブ前の最後のコーナーに参りたいと思います」
台本(水輝さんだけに配った偽の台本)にはゲームコーナーをやった後にライブスペシャルビデオが流れ、その後にライブのはずだった。
声優歴の長い水輝さんならこの状況がなんなのかわからないでもないと思うが、これって毎年大変ですよね。
誕生日が近かったりするとやっぱりサプライズがあるのではないかって感ずく中、知らなかった感を出して驚かなくてはいけないなんて過酷だよね。
「まずはこの方達に登場していただきましょう。 どうぞ」
水輝さんは手を口の前で合わせ驚いた表情とにやけている表情をしている。
「しゃぁ〜! どうも皆さんこんにちは青星声のココナッツと」「ソラトと」「ミズタクです」
僕はケーキを持っているので手を振ることはできないが僕の代わりにナッツさんとソラトさんが目一杯手を振っている。
側から見ると二人とも小学生みたい。 なんて思っているとナッツさんに睨まれた。 やっぱり僕の心読んでるよね。
「というわけで、人気YouTuberである青星声の三人にお越しいただきました」
「改めましてこんにちは青星声です。 今日は十二月はじめの土曜日。 そう。 水輝伊乃さんの誕生日ということでミズタク」
ナッツさんの合図の後に水輝さんに僕の持っていたケーキを渡した。
すると即座に水輝さんの前に土台が下から出て来た。 すげー。 芸能人・・・・ってか、このステージやべーな。
水輝さんはありがとうございますと涙ぐみながら受け取ってくれた。
その後、なんで僕たちが呼ばれたのかゴメスさんが話し、僕たちは自分の宣伝をしてまた舞台袖に戻った。
もう隠れる必要がないので堂々とライブステージを見させてもらえる。
何曲かメロデーで歌った後、一回会場が静かになった。
「今日まさか来てくださるとは思ってもいませんでしたが、この曲も練習していました」
来てくださるとは思ってもいませんでしたがってことは僕たちに関係する曲なのかな? なんの曲だろう。
「聞いてください。 『片思い』」
心絆さんが作曲してくれたイントロが流れる。
そっか、自分で曲作ったんだった。 別にCDとか作ったわけでもなかったし、忘れてたわ。
今日は生演奏ってわけではないので迫力はかけてしまっているがこの温かみのあるメロディーは興奮していた僕の心を落ち着かせてくれる。
なんて無理だ。
自分たちが作った曲を好きなアーティストに歌ってもらっているんだよ。 もう。 イントロ聞いただけで死にそう。 血圧やばそうです。
イントロが終わり僕の書いた詩が聞こえる。
この詩を聞いていると高校生活・・・・いや、雛さんのことを思い出す。
そして、吉野先輩の力強くでもどこか儚い歌声とはまたちがう女性目線の片思いのような今にでも震えそうな歌声が会場いっぱいに響き渡る。
挨拶以外は何も言わなかったソラトさんが久しぶりに口を開いた。
「綺麗な歌声」
自分の歌声よりも他人に訴えかけられていると感じているのか、唇を噛んだ。
ナッツさんは目を閉じて聞いている。
ふと、観客席の方を見ると一番前に雛さんらしき人が涙をこらえながら水色に輝くサイリュウムをススキが風に揺られているように滑らかに振っている。 あれは雛さんなのだろうか?
この歌は半分、雛さんへのラブレターのようなものでもあるからこの詩が届いているのならこの曲は最高傑作になったと自画自賛できる。
水色のススキが秋のそよ風に揺られているところを見ながら水輝さんの今にも震えそうな歌声を聴いているとなんだか急に目頭が熱くなって来た。
「おつかれさまでしたー」
イベントが終わり水輝さんはスタッフやゴメスさんと挨拶を交わしていた。
今まで何度か水輝さんのイベントに足を運んで入るが今日のイベントは過去最高に良かった。
自分が出演できたから、作詞いた曲を歌ってもらえたからかはわからないがこう心の中から・・・・
「おーい。 拓真。 浸っているところ申し訳ないんだけど」
せっかくこのイベントに浸っていたのにっておい。 あ、先輩においって心の中でも突っ込んでしまった。 って、そんなことはどうでもよくて僕の前で水輝伊乃さんは苦笑いをしていた。
「すみません。 うちの拓真が」
「いえ。 こう良かったといってもらえて嬉しいですから」
遅れておつかれさまですと挨拶をするがもう遅いよね。
すると、水輝さんはぷぷっと吹き出して笑った。 そんなに僕の顔おかしいかな。
「ごめんなさい。 私、一三〇ラジオのリスナーで毎週欠かさず聞いていて、ミズタクさんってどう言う人なのかなって想像していたんですよ。 よく芸能人の方とか表と裏の顔があるって言うじゃないですか。 だからミズタクさんの裏ってどんな感じかなって思っていたんですけどいい意味で裏がなさそうだなっと思って。 ごめんなさい。 失礼でしたよね」
そんなことはないですけど、僕のラジオのリスナーだったなんてもうなんだか最近驚いたりしすぎてもう驚けない。
「僕も毎週聴いてますよ」
ガチガチに固まってしまってうまく話すことができない。
さっき登壇した時のようにもっと堂々とできればいいのに、なんでこう言う時だけ人見知りが出ちゃうかな。
ってこれは人見知りなのかな? ただ好きな人の前で緊張しているだけでは? まあいいか。
「拓真なんか、第四十九回にminiのラジオの話してくれた時は本当に嬉しかったらしく一週間ずっとアーカイブ配信聴きまくってましたよ」
余計なこと言わないでくださいよ。
「片思い歌ってくださってありがとうございました。 綺麗な歌声でソラトさんも嫉妬しちゃってるんじゃないですか?」
「拓真は泣いてた」
余計なこと言わないでくださいよ。 ってお互い様ですね。 ごめんなさい。 でもそのくらい素敵な歌声だったのは事実だし。
「こちらこそ歌わさせていただけで嬉しかったです。 この曲毎日私聴いてますし、動画もメインもminiも見ています。 だから出演させてください」
しゃぁ〜! どうも皆さんこんにちは作者のわ→たく。です。
好きな声優さんに迫られる。 最高じゃないですか。
私にはこのようなイベントなんて程遠いと思うと書いていて心が、、、。何でもないです。
それではまた明日も読んでください!




