テンション ↘︎↗︎↘︎↗︎
九月二日。
「僕のためにすみません。 後一分で始まりますのでよろしくお願いします」
水輝伊乃さんのイベントのチケット販売が午前十時から始まる。
なんで今回はチケット申し込みではなくチケット販売なのか。
僕と心絆さんの二席が取れればいいんだけど。
吉野先輩は興味がないから行かないと言っていたが、チケットの申し込みには参加してくれた。
「五秒前。 四、三、二、一、〇。 うりょおおおおおおおお」
十時になった瞬間に三人一斉にボタンを押したのだが、
「・・・・ごめん。 落ちた」
吉野先輩脱落。
「なんでー。 なんでこのタイミングでバグるの?」
心絆さんも脱落。 僕は・・・・
「拓真はどう?」
心絆さん。 興奮状態になっているところ申し訳ないんですけど近いです。
ゆるゆるの襟のTシャツでそんなに近づいてきたら見えちゃいますって。
「どうしたの? そんなに顔赤くして? それよりも画面見してよ」
わざとですか? わざとなんですか? 誘ってるんですか? あーもー。 理性がおかしくなりそうです。
「どうだった?」
吉野先輩に無理やりスマフォを取られた。
そのスマフォを追って心絆さんも吉野先輩の方へ行ってしまった。
ん? しまったなのかな? まあいいや。
僕もまだ結果を見ていないので吉野先輩の後ろに回ると心絆さんの胸元が・・・・あ、そうでもなかった。
「今変なこと考えてたよね?」
なんでこういう時だけ感が鋭いの?
今のはダメで、さっきのはいいなんて境界線がわからないですよ心絆さん。
「それでどうだったんですか?」
吉野先輩からスマフォを返してもらうとそこには『ただいま大変混み合っている状況ですので、少し時間を置いてからもう一度お探しくださいませ』の文字だった。
「うっそー。 いけないのー」
悪あがきに更新ボタンを押してみると売り切れの文字が出てきた。
拓真にはその文字が滲んで見えていた。
「まあこういう時もあるよ。 どんまい。 絶対チャンスはくるよ」
心絆さんからの慰めの言葉を聞いた僕は子供のように心絆さんの胸に抱きついていた。
え? あ、ちょっと。 と初めは戸惑っていたが、最後は頭を優しく撫でてくれた。
抱きついていると相手の鼓動の音がよく聞こえる。
心絆さんの鼓動の音がやけに早く感じるが・・・・まあいっか。
それよりも今この状況を冷静に考えると心絆さんの胸の感触を頬で感じられているんだよね?
あ、このままだと天に召されそうだ。
早く離れなくてはと頭の中では思っているのだが、体が言うことを聞かない。
あ、やっぱり硬くなってきちゃいますよね。
しょうがない。 健全な童貞男子だし。 しょうがないこと。
もうちょっとだけ堪能させてください。
心絆さんって着痩せするタイプなのかな?
ドカ。 バン。 あほ。
突然頭を叩かれた。 もしかして心の声聞こえちゃったのかな?
「みなさん、こんばんは水輝伊乃です。 第四十九回目です。 来週で五十回ですよ? 五十回。 何かお祝いしましょうよ。 え? ケーキ食べる? それは誕生日の時にもらいましたし、ケーキはサプライズでもらえた方が嬉しいじゃないですか? ほら私、歩くの好きじゃないですか。 知らねーよってこのラジオでも結構言ってますよ。 だから散歩しながらとるとか。 あ、でも雨だったらテンション落ちるからやっぱこの案無しで(笑)。 でも何かはやりたいですね。 それでは今日もやっていきましょう。 水輝伊乃に任せなさい。 今夜もあなたに任されたい」
今日は久しぶりに水輝伊乃さんのラジオをリアルタイムで聞いている。
最近はバイトと被ってしまいリアルタイムでは聞くことができなかった。
ラジオのアプリに一週間限定で聞き逃し配信をしてくれていたのを最近知って今では毎回聞き逃すことなく聞いてはいるがやっぱりリアルタイムで聞く方が楽しい。
OPトークから本編に入るまでのCMもいつもなら飛ばしているのに飛ばせないムズムズ感がまたたまらない。
なんて思ってたらCMが開けてはじまった。
「改めましてこんばんは。 水輝伊乃です。 はい、それではふつおたを読んでいきまーす。 ラジオネーム『:D』さんからいただきました。 これなんて読むのかな? 『ディー』でよかったのかな? ん? 見てこれローマ字のDの横に点々が二つ、ついてるじゃん。 これコロンだっけ? それでこれを横にしてみると見て! 人の顔になるの。 かわいいなこれ。 と言うことで、って閉めようとしちゃったけどまだ本文の方読んでなかったね。 それじゃあ読みますよ。 助けてちゃんいの。 お? どうしたの? 以前ちゃんいのがお気に入りと言っていたYouTuberの青声星miniがちゃんいのを差し置いて結城吉乃さんと名香野小春さんのラジオ番組『吉乃と小春のレディーオ!』とコラボしていましたよ。 ちゃんいのはここまで一度もゲストを呼んでいませんが、コラボとかしないんですか? それではお身体に・・・・」
今完全に僕の話をしてたよね? してたよね? え? なに? お気に入りのYouTuberなの僕って。 めっさ嬉しいんすけど。 もう今日興奮しすぎて寝れないわ。 グヘヘへへ。
興奮が収まらない中ラジオは終わった。
最高のラジオでした。
など余韻に浸っていると僕のスマフォがなった。
SNSアプリのツッタカターの通知音ではなく、電話の着信音だった。 誰だよこんな夜遅くにと思ってちょっと不機嫌そうにもしもしと出た。
「ごめんね。 夜遅くに。 しかも今すごく興奮してる中だと思うけど」
僕に電話をかけてきたのは心絆さんだった。
「ほんとですよ。 興奮が冷めないうちに済ませてくださいね」
「まあ興奮してるってことはラジオ聞いてたと思うんだけど、そこで青声星miniがお気に入りって言ってたじゃん。 しかも、コラボも出来たらやりたいっても言ってたじゃん。 もしかするとコラボできるかもしれないよこれ」
コラボも出来たらやりたいってあれ、そんなことも言ってたっけ?
もしかしてグヘヘ言ってた時に聞き漏らしてしまったのか?
もう一度、いや何度もこの一週間聞き直そう。
「拓真って元俳優じゃん。 その時のマネージャーに頼めばどうにかなるんじゃない?」
「他の事務所の声優さんだから無理だと思いますけど」
当たって砕けて見てと他人事のように言い残し電話が切れた。
自分勝手やなと思いながら夜中じゅう同じラジオを内容覚えるまで聞き続けた。
次の日から近所では気持ち悪い声が夜中じゅうどこからか聞こえてきたと言う話が広まり、のちに怪談話にまでなってしまっていた。
連絡するのを忘れていてあれから一ヶ月後に連絡した。
まあ結果はわかっていたし連絡はしなくてもよかったのだけど。
予想通り、元マネージャーさんに連絡したところ他事務所はできないと言われた。
まあ当たり前だよな。
そのことを伝えるために心絆さんに電話すると、当たり前だよなと言われたのが少しムカついたがそんな些細なことは気にしない。
まあ、そんなことは置いておいてさっきの電話の時に直接会って相談したいことがあると言われたので吉野先輩の家に向かった。
「相談ってどうしたんですか? 動画のネタが行き詰ったとかですか?」
「いや、それはそれでまた相談はしたいんだけど今回は違うの」
そこには真剣な顔をした心絆さんがいた。
ネタについてはまた相談したいと言っていたし解散ってことではなさそうだがなんの話なんだろう?
「二つ相談したいことがあるんだけど。 一つ目はそろそろチャンネル登録者数が十万人突破しそうなので事務所に入ってみようかなって思って」
「事務所・・・・。 よくわからないけど何かやらかした時とかの保険も込めて入っていた方がいいとは思うから別に反対はしないかな」
まあここまでチャンネル登録者数が増えてくるとやっぱりもっともっと面白いことをやろうとすると事務所に入っているか入っていないかでできる葉にも違ってくると思うし、事務所に入ること自体は賛成なんだけど。
「入るとしたら有名なあそこですよね? 別にあそこが嫌いとかそう言うわけではないんですが、僕はそこの所属タレントにはなれません。 どうしてかは・・・・。 実は僕、復帰しないかと言うお話をいただいているんです」
「復帰って・・・・」
「俳優にならないかってお話をいっぱいもらっていまして」
時間が止まった。
そんな気がしたのは僕だけじゃない。
自分自身この話をするかしないかはすごく迷ってた。
僕は芸能界にまだ未練もあったしチャンスがあるならと思っていたこともあったが、今はYouTuberの活動を捨ててまでやろうとは思ってもいなかった。
もともと俳優でその俳優がYouTuberになって本を出して地上波のラジオに出てしかもどこの事務所にも未所属だなんて美味しい話はない。
それで最近色々な事務所からスカウトの連絡が来ていた。
今の僕はYouTuberの活動がしたいので俳優に戻る気は無い。
なので、どこも断っていた。 そんな中ある一つの事務所は違かった。
「YouTubeの活動に関してはこちらも無い知識を使ってサポートする。 今までのように青星声の活動をして欲しいのだが、miniの活動・・・・今はラジオをメインでーーーー」
と、社長自ら僕に連絡をくれた。
しかもその社長は三浦さんだった。
最近事務所を作ったらしいがこれと言ったタレントがいないらしく、美味しい話に食いついて来たとも正直に教えてくれた。
まだ育成中の若手ばっかりを集めた事務所らしい。
しかもその事務所は声優の事務所なのだが特例でYouTuberをしながら声優の仕事もやっていいと言っていた。
他の事務所はYouTuberをやめてと言っていたので好感度は上がってはいたが、所属できるのはやっぱり青声星の全員ではなく僕だけなのが引っかかっていたので保留とさせていただいていた。
この話を二人は真剣に聞いてくれた。
「それで拓真はそっちの事務所に入るってこと?」
青星声のメンバーの事務所が別なのはややこしくなったりするから同じところに所属していた方がいいかもしれないけど、心のどこかに三浦さんの事務所に入りたいと言う感情があったから断れなかったわけだし・・・・。
結局事務所の件に関してはもうちょっと先延ばしになった。
少し時間をもらって心絆さんたちが入ろうとしている事務所に入るか三浦さんの作った事務所に入るか決めることにした。
後でこのことを思い返すと、もうこのころから心は決まっていたのかもしれない。
「もう一つの相談ってなんなの?」
吉野先輩がこの暗い雰囲気を変えるべく話を切り出してくれた。
「そうだったね。 もう一つはこのメッセージなんだけど見て」
心絆さんはスマフォのメール画面を見せてくれた。
送信者は後藤さん? 後藤さんってゴメスさん? いつメアドを交換したんだろう? まあそれはいいとして、ん? んんん?
「ウォォォォオおおおおお」
吉野先輩のお父さんにまた怒られてしまうかと思ってドアの方を見たが動くことはなかった。
よかったと胸を撫で下ろした。
「これ本当に僕たちに依頼が来たんですか?」
もう何? 僕は死ぬのかな?
なんでここ最近いいことばっかりなの。 本当に怖いよ。 でも嬉しくてたまらないです。
しゃぁ〜! どうも皆さんこんにちは作者のわ→たく。です。
今回の冒頭はチケットの抽選から始まりました。拓真はチケットを外していましたが作者は2018年一回も抽選を外す事なく行きたいイベント全てに参加しました!ただこれが言いたくてこのような冒頭にしました。(笑)
それではまた明日も読んでください。




