【番外編1】 【悲報】ココナッツが誘拐されました。
もうそろそろ十月になろうとしている。
今日も吉野先輩の家で企画会議をしようと集まったのだがーーーー
「遅くないですか? 遅刻にしても連絡ひとつないって。 これじゃあ遅刻をネタにした動画も撮りづらいですよ」
心絆さんが集合時間になってもなかなか来ないのだ。 あの心絆さんがだよ。
心絆さんは自分に厳しく人に優しいと今まで思っていたから連絡もなしに遅刻するなんて考えられない。
こっちから連絡を取っても全然反応がないし、寝てるのかな?
一時間近くたっても来る気配がないので心絆さんの家に行くことにした。
心絆さんの家は吉野先輩の家からは一番遠く、自転車で二十分はかかる。 僕も吉野先輩の自転車がロードバイクだったため少しは早く到着することはできたが、坂が多くてもう大変。 毎週通うのにこの道を心絆さんが通ってるのかと思うと・・・・。 いや、特にないな。 しかし、部活もやっていたり運動を結構しているのになんであんなに太ももが細いのか。 そこだけは気になってしまう。 白くて細くて多分つやつやなあのふ・と・も・も。 触ってーーーー
「妄想はそこまで。 それにしてもどうしたんだろうね。 これ」
心絆さんの家はアパートのため普段はアパートの前に車なんか止まっていないのだが何かあったのだろうか? ただ単にこのアパートに住んでいる人の知り合いが止めているのならいいのだが。
「以前にもここに車が止まってた時ありましたよね」
「うん。 その時は一階に住む夫婦の痴情の縺れで警察沙汰になってた時だよね。 そういえば、管理人さん曰く警察以外はアパートの前に車を止めさせないって言っていたよね」
警察以外は止めさせないってことはこの車の警察の車なのかな? よく刑事ドラマで見るようなパトカーではない車に似てるけどパトカーじゃないから警察なのかはわかりにくいけど。
「変な問題を起こして問題になっていなければいいんだけどね」
変な問題って。 心絆さんに限って問題は起こさないでしょ。
「まあ、顔は童顔で可愛いと思うし身長低いからある性癖の人たちには人気たかそうだし・・・・」
体を売っているっていうんですか? 心絆さんはそんなことしませんよ。
「体を売っている人たちが悪いとは言いませんが、まさか心絆さんがねえ」
そんなことはないだろうと思いながら、アパート二階。 心絆さんの実家である二〇一号室のチャイムを鳴らした。
出てきたのは知らない四十代くらいのおじさんだった。
「あなたは誰ですか?」
吉野先輩は心絆さんのお父さんには一度お会いしたことがあったのでこの人がお父さんではないとわかったらしい。
「人に名を聞くのであれは自分から名乗るのが普通じゃないかね?」
一気に張り詰めた空気に変わった。
「って一度行ってみたかったんだよね。 ごめんごめん。 ここに住んでいる心絆ちゃんのいとこで久しぶりに遊びにきていたんだ。 それで君たちは?」
いとこさんだったんだ。 安心した。
いとこだとわかったので、僕たちも自己紹介をした。
自己紹介をしていると部屋の中から心絆さんのお母さんと思われる方が出てきた。
お母さんは今にも泣き出しそうな声で上がってと僕たちを招き入れてくれた。 泣き出しそうだけど、何かドラマでもみていたのだろうか。
心絆さんのお母さんに招いてもらって家の中に入るとそこにはたくさんの大人達がいた。 心絆さんの知り合いでもお母さんの知り合いでも無さそうなスーツを着た大人達。 テーブルの上には何かわからない四角く電話のような機会と家の電話の子機が置かれていた。
「あ、あの。 今日心絆さんと動画の撮影をする約束をしていたのですが、心絆さんはいらっ----」
ここまで言いかけて言うのをやめた。
家の前に止まっていた車の持ち主がわかった気がしたからだ あの車に乗っていたのは警察の方々でここの家にきていたのかな。 もしも、警察だとしたら、心絆さんに何かあったのか。
お母さんがお茶を用意してくださっているあいだにいとこさんが僕達に質問をしてきた。
「さっき、お二人は動画を撮るって言っていたけど心絆さんとはどういう関係なの?」
ん? 心絆さん? さっき心絆ちゃんって言ってなかったけ?
「高校の同期で、同じ部活の仲間だった。 今は同じ大学にも通ってます。 休日は三人でYouTubeにあげる動画を撮影しています」
「僕は、心絆さんの一個したの後輩です。 部活も同じでしたが、大学はキャンパス違いの同じ大学に通う予定です」
いとこさんは少し悩んだあとに思い口を開いた。
「お母様。 お母様がこのお二人を家にあげたということは話してよろしいのですね。 分かりました。 僕の口から説明させていただきます」
何のことだかさっぱり分からないがこの家の空気が重いことだけは分かる。
「ごめんね。 君たちに一つ嘘をついていることがあるんだ。 僕は、心絆さんのいとこではなくてーーーー」
「警察の方なんですよね?」
吉野先輩は何で警察だと思ったのかなどを話すと君なら近い将来警察官になれる位の観察力があると褒められていた。
まあ、そんなことはどうでも良くて、なぜ心絆さんの家に警察が来ているのかだよね。
「単刀直入でいうと、心絆さんは誘拐されました」
ゆうかいって物理学で固体が液体に変化することの融解。 のことだよね?
「現実を受け止められないのはわかります。 こちら側も全力で操作に取り組みます。 犯人を刺激しないためにもこのことはご内密にお願いいたします」
本当に融解じゃなくて誘拐なんだね。 ってか、心絆さんが融解ってどういう状態だよ。 なんて自分に突っ込む余裕もなく僕はただただ黙って警察の方の話を聞くことしかできなかった。
「僕たち警察がここにきてから数分後にある封筒が届いたんだ。 その封筒の中には四枚の紙が入っていて、その紙には暗号のようなものが書いてあったんだ」
警察の方は僕たちに送られてきた封筒の中身を見せてくれた。
一枚目には『√3う』と、『□□□□□□□□□う』と答えが入りそうな四角が並んでいた。
二枚目は『9月の栗は何になるか?』となぞなぞが入っていた。
□□
. 3
と答えを入れるであろう四角とその下には『.3』と書いてるがなんの数字なんだろう。
三枚目には 『にむ
ろ』 と三文字の平仮名が書かれている。
しかも『に』の右側(『こ』のような部分)には縦の線が下を突き抜けない程度に刺さっていた。
□□□ とこの紙にも四角の下に数字が書いてあった。
120
四枚目には
雨 本
↓ ↓
下→□→□←学
↑ ↑
井 入
□□□
857
二〜四枚目にはどれも答えを書くだろう枠の下に数字が書かれている。
「多分、この四角の下の数字は一枚目で使うんですかね?」
そのやり方であっているのであれば二枚目の『9月の栗は何になるか?』から解いていくってことだよね。
「九月。 September。 栗。 chestnut。 英語は関係ないのか」
インターネットで栗の進化を調べたが全く出てこない。 二枚目からこんなにも難しいなんて四枚目なんて解けるのかな?
「く・が・つ・の・く・り・はーーーー」
吉野先輩も飽きたわけではないと思うが、ロボットのように一文字づつ読み始めた。 ん?
「二枚目。 わかったかも」
ここにいた誰もが僕のことをみる。 もしもこの謎解きが犯人につながるヒントだとすれば大きな一歩になるから。
「まず、この9月を『く』が『つ』って言うように言葉を変換します。 多分くをつに変えろってことを言いたいんだと思うので、この文章の中にある『く』を探すと『栗』しかないんです。 なのでこの『くり』の『く』を『つ』に変えて読むと『釣り』になるんです。 この問題の下にある四角も二つだし、二枚目の答えは『釣り』なんじゃないでしょうか?」
クイズ番組と違って正解がすぐにわかるわけではないので本当に正解なのかはわからないが、この場にいた全員がこの問題の答えに納得してくれた。 おでこに手を当て考えすぎたわ。 などと言っている姿を見ると、自分が作ったわけではないがとても嬉しい気分になった。 多分今すごくドヤ顔しているんだろうな。
心絆さんのためにも一秒でも早く謎を解決するためすぐに三枚目の問題を解き始めた。
『にむ
ろ』
□□□
120
※『に』の右側(『こ』のような部分)には縦の線が下を突き抜けない程度に刺さっています。
にむろ? むろに? 日本語にもならないな。 この配置も大切なのかな?
この問題を解き始めてから何分が経っただろうか。 時計の長い針は半周でもしているのではないか。
「この縦の線はなんなんだろう?」
久しぶりに口を開いた警察の方が重要なことを言った気がした。 いや、多分見ないふりをしていたがとても大切な線だよね。
問題文にあるのに見ないふりをしていたら一生解けないよねこれ。
もしかして、『に』を半分にするってことなのかな?
だとしたら、ひらがなを数字に置き換えると『26
6』
それで、二が半分だから『16
6』
意味がわからない。
でもさっきの答えは数字じゃなかったし、一枚目の四角に数字が入りそうもない気がするしこうじゃないのかな?
そうすると本当にこの線は何を意味しているのだろうか。
「数字に変換ても意味がないのか」
ボソッと呟くと、吉野先輩はひらめいたとペンをとって何かを書き始めた。
ム
ロ
「このカタカナの『ム』と『ロ』を見ていると何かの漢字に見えてこないか?」
ムとロ? あ。 離れていたから分かりにくかったが、台っていう字に見える。 ということは『に』もカタカナにして、『ニ』に上は突き出て下は突き出ていないいうに線を引くと『土』という感じが見えてきた。
「ということは、この答えは『土台』ですね。 四角が三つってことはひらがなの『どだい』が答えですね」
これで二枚目と三枚目の問題の答えができた。
二枚目は 三枚目は
つり どだい
. 3 120
やっぱり二問だけでは数字の意味まではわからないな。 でも、ここまで順調に解けると四枚目もいけそうな気がしてくる。
四枚目の
雨 本
↓ ↓
下→□→□←学
↑ ↑
井 入
□□□
857
この形式の問題は学校のテストでもよく出てくる系の問題だから四角の中には漢字がはいると思うけど数字の上の四角は三つあるから答えはひらがななんだろうな。
四枚目の問題を見てまだ一分も経っていないが、吉野先輩が左側はわかった気がするとニヤニヤしている。 別に脱出ゲームで謎解きをしているわけではないので答えがわかったのならすぐに教えて欲しいのだけど。
「多分左側は『戸』じゃないかな? 『あまど』、『いど』まではわかるんだけど『げど』ってなんだろう?」
さっきも言ったが、これは脱出ゲームで謎解きをしているわけではないのでインターネットで調べればなんて読むのかくらい簡単に出てくると思うんだけどな。
「吉野先輩。 これ『げど』じゃなくて『げこ』らしいですよ。 お酒が弱くてあまり飲めない人のことを言うらしいですよ」
これで、左側は『戸』で確定だよね?
次は右側。
人って本気で考えている時って静かになるよね。 もう誰一人として言葉を発していない。 これが脱出ゲームで謎解きをしているのであればもっと逆に騒げと思うが、今回は心絆さんの命がかかっているのかもしれないと思うと騒げるような雰囲気でもなければ余裕もない。
どうしよう。 余裕がなさすぎて考えることもできなくなってきた気がする。 心絆さんのお母さんが入れてくれたお茶を一口飲み大きく深呼吸をして、もう一度四枚目の問題を見た。
まずは『学』から見つけて行こうかな。 『学』は学校など学ぶことについて使うことが多い感じだよね。 そう思うと『学力』、『学童』、『学習』が思いつくが他の漢字とのマッチングが良くなささうなのでどれも違いそうだな。
『入』は入る系の感じだよね。 『入学』、『入園』、『入場』とか。
『本』って難しいな。 パッと思いつくのも『本屋』くらいだし。
「え?」
パッと部屋の電気が消えた。 そして、がちゃんとコップが倒れる音がした。
「停電?」
停電かと思ったが、他の警察の方がたまたま動いたときに電気のスイッチに触れたらしくただ電気が消えただけだった。 すぐに電気はつけることができてみんな一安心した。
停電によって僕たちは大きなヒントを得ることができた。 この紙には細工が施されていたのだ。
「もしかしてこれってヒントですかね?」
この紙は水に濡れると文字が浮かび上がる細工がされていた。 先ほどの停電の時に誰かがコップを倒し、それがたまたま問題が書かれた紙にかかり文字が浮かび上がって来たのだ。
浮かび上がって来た文字はこう書いてあった。
・『学』は学生が持つ。
・『入』は男は18歳以上から。
・『本』はよくわからない。
と書いてあった。 『本』はよくわからないって問題出すなら調べとけよ。 と犯人にツッコミたくなる。 しかし、この字どっかで見たことあるような気がするな。
『本』は置いておいても二つの重要なヒントは得ることができた。
「男は18歳以上からって、結婚に関係していそうだよね」
結婚かあ。 まだ遠い未来の話だな。
「学生が持つものって『学力』『学歴』『学年』『学籍』とかですかね?」
結婚することって他に何か言い方あるのか『結婚する 同類語』で調べてみるとこれだと思う単語が出て来た。
「この文字が真ん中に入ったとしたら『本』も当てはまりますね」
たまたま電気のスイッチが切れ、たまたま水が紙にかかってくれたおかげで『籍』と言う単語が入ることに気がつけた。 本当に神ってたな。
四枚目の問題も解決しこれでようやく一枚目の問題を解けるようになった。
「とりあえず今までの答えをまとめるか」
二枚目は 三枚目は 四枚目は
つり どだい こせき
. 3 120 857
そして一枚目は
『√3う』
『□□□□□□□□□う』
吉野先輩はこの問題を見返してすぐに解けたらしく、これはすごいなど問題を称賛し始めた。 問題を解けたのであれば答えを教えてくれればいいのに全然教えてくれない。 人の命がかかっているかもしれないのに。 もういいです。 自分一人で解いて心絆さんを助けてみせます。 √3の近似値を調べようとすると吉野先輩にスマホを取り上げられてしまった。 もうなんなんですか?
√3って一夜一夜に人見頃だっけ? もう何が何だかわからないです。 ここまで一緒に解いて来たのに最後の最後で裏切られた気分です。 なんで人の命がかかっているのに。 意味がわかりません。 ってか、一夜一夜に人見頃って覚え方は覚えていても数字は全く思い出せないや。 もっと勉強しておけばよかった。
わからないまま時間だけが過ぎていく。 そういえば、四枚目の問題は水に濡らすと文字が浮かび上がっていたけどこれはどうだろうか。
心絆さんのお母さんからいただいたお茶を少し紙に垂らした。 すると、四角の下に『人並みにおごれや』の文字が浮かび上がって来た。
答えの下にあった数字を『人並みにおごれや』に合うように並べてみるとある一文ができた。
「どういうことですか?」
「そういうことなんじゃない?」
訳がわかりませんよ。
できた一文に『う』を足して読むと『どつきりだいせいこう』すなわち『ドッキリ大成功』という文ができていた。
バン。 と大きな音を立て玄関の扉を開け心絆さんがドッキリ大成功のプラカードを掲げ入って来た。
「ジャーン。 ドッキリ大成功でしたー。 どう? 心配してくれた?」
え? 本当にドッキリだったの? ってことは心絆さんは・・・・よかった。
「何? ミズタク泣いてるの?」
そりゃあこんなドッキリされたら泣きたくなくても涙が出て来ちゃいますよ。
カメラも何台も設置されていたらしく本当にドッキリだったらしい。 お母さんもまさかグルだったなんて。
はじめいとこと名乗っていた警察の方は本当のいとこのお兄さんらしく、その他のスーツを着た男性はバイト先の知り合いの男性らしい。 その男性が電気を消したのは心絆さんの指示だったらしく、幸運だったわけではなかったらしい。 もうこんな手の混みすぎたドッキリはこりごりだ。