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しおり。  作者: tear.
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6

「お待たせ致しました。タルトと珈琲のセットのお客様」


 メモをまとめているうちにケーキが届いてしまった。


「あ、はい」


「失礼致します。それではこちらモンブランと紅茶の方ですね」


 そう言って後輩ちゃんのところにも配膳を済ませ一礼し去っていく。


「届いたよ」


「はい。食べましょうか」


 なんかいつもと雰囲気違うなぁ。まだ読書のスイッチ入ってるのかな?


「どう?」


「何がですか? まだ食べてませんよ」


「ケーキじゃなくて本だよ」


 自分の本の感想を聞くのもなんだかこっぱずかしいけど、後輩ちゃんの感想は聞きいてみたい。


「まだ全然読み終わってませんよ」


「読んだところだけでいいから」


「好きですよ。やっぱりヒロインの心理描写が凄くて感情が持ってかれます」


「良かったね。ハズレじゃなくて」


「外れるはずないじゃないですかー。私が選ぶんですよ?」


「1作目が凄いからといって2作目も優れているとは限らないでしょ」


「玲先輩はこの作者嫌いなんです?」


「いや嫌いとかじゃないけど……」


「先輩も読んだ方がいいですよ。夜の小川のシーンなんてもうページ戻って見直しちゃいました」


 そのシーンってだいぶ中盤だけどもうそこまでいってるの? 早くない?

 そう言いかけて寸前で止める。危ないまだ読んでないのに内容を言うと怪しまれちゃう。


「結末はどうだろうね」


「結ばれて欲しいですけどね」


「ところでさ」


「はい」


「キャラ全然違うけどどっちが素なの?」


「どっちだと思います?」


 歯を見せニッコリと笑う。揺れたポニーテールが軽く跳ねた。


「別にどっちでもいいけど、今の後輩ちゃんは文学少女って感じする」


「本読んでるとこうなっちゃうんですよねー。特にこう言う内容だと」


「面白いね」


「スイッチは自分で切れますけどね! 気づいたらですけど」


「別に戻さなくてもいいのに」


「うるさいのは嫌いですか〜?」


「どっちもどっち」


「相変わらず私の扱い酷いですねー。ケーキ食べましょ」


「後輩ちゃんオススメのお店のケーキは美味しいのかな」


「美味しいですよ? 作ってる人が海外行ってちゃんと修行したみたいですよ。なのに凄く若いんですよ」


「へぇ〜。天才って奴? いただきます」


 新作らしい桜のタルトをフォークで口に運ぶ。

 凄い桜が主張してくるのにさっぱりしてて食べやすい。


「どうですか?」


「凄い美味しいよ。生地にも桜の葉が入ってるし桜尽くし」


「私も食べたいです」


「食べていいよ」


 お皿を後輩ちゃんの方へ近づける。


「……」


 すると何故かこちらを目を細めてじっとりと見つめてくる。なに?


「いらないの?」


「そこは普通、口移し……違った。あーんってやるところじゃないですか?」


 凄い間違いが聞こえた気がしたけど。


「ほんと子供だなぁ」


「子供だったらいいませんよ!」


 フォークでひとくち掬って後輩ちゃんへ。


「ほら」


「いただきます!」


 体を乗り出してフォークを大きな口で咥える。隙間のかけらまで残さず吸い取るようフォークを吸い抜く。


「なんだその食べ方」


「玲先輩の唾液とケーキを残さず食べる方法です」


「あほらし」


「そしてそのフォークには私の唾液がたっぷりなのです」


 フォークをお手拭きで拭き取り何事もなかったようにタルトを食べ始める。


「うん。美味しいね。これは珈琲じゃなくて紅茶のが合うかもなぁ」


「流石に拭き取られるのは女の子として傷つくんですけど玲先輩……」


「モンブラン食べないの? 後輩ちゃんが食べたくて来たんでしょ」


「食べますよーだ!」


 拗ねた。こっちの後輩ちゃんも後輩ちゃんでいいキャラだよなぁ。


「美味しい?」


「もちろんですよ。このモンブランが大好きなんです」


「へぇ。そんなに美味しいんだ」


「食べます?」


「また今度来た時にでも」


「そんなに私の唾液を摂りたくないですか!」


「その言い方をされると摂りたくないって答えると思うよだれでも」


 だって普通に恥ずかしいし。自分のを食べられるのはいいけどあっちのを食べるのはちょっと抵抗が。


「玲先輩はもう少しラブコメの主人公みたいにちょろくなるべきだと思います」


「そんなもう別人みたいなのでもいいのかよ」


「世の中妥協も大事なんですよ?」


「なら妥協して諦めて。後輩ちゃんは大人しく文学少女してればいいと思うよ」


「やっぱうるさくない方がいいんじゃないですか〜!」


 どっちでもいいよ。結局は後輩ちゃんなんだし。

 他愛もない会話でひとときのティータイムを過ごす。


「先輩って本読むんですか?」


「どうしたの唐突に」


「図書に入った時から玲先輩のこと見てますけど本読んでるところを見たこと無いので」


「基本的には読まないかな」


「いつもパソコンしてますもんねー」


「悪かったね」


 携帯のメモ帳で書くよりワードとかを使って書くほうが楽なんだもん。


「玲先輩も本読んで私と語りましょうよ!」


「その本読むから勘弁してよ」


 後輩ちゃんの手元を覗きながら呟く。


「私も早く読みたいです」


 本の表紙を撫でながら優しく微笑む。

 そんなに楽しみにしてもらえるのは嬉しいけど最後はバットエンドですよ。


「今読んでもいいよ? あと少しでしょ」


「先輩を放置プレイでいいんです?」


「言い方。別にいいよそんなかからないでしょ」


「そうですけど」


「けーきもう1つ頼むから遠慮しないで」


「なら私もガトーショコラで」


「食べるのね……」


「勿論ですっ」


 そう言って本を手に取り続きを読み始める。

 一瞬で本の世界に入り込んでいってしまった。


「すいません。ガトーショコラとキャンディを2つずつ」


「かしこまりました」


 店員さんに追加のオーダーを伝えて、届いたケーキを食べながら後輩ちゃんを眺める。

 本のページも残り数枚で、もう読み終わりそう。読むの早いなぁ……速読ってやつですかね?

 最後のページを読み終えてそっと本を閉じて大きく伸びをする後輩ちゃん。こころなしか目が潤んでいる。

 ちゃんとあとがきまで読むんだ。あれ読んでる人いるんだね。


「どう?」


「泣けますね、いい話でした。けど」


「けど?」


「またバットエンド……」


「バットエンドだから泣けるんじゃないの」


「そうですけど……。早く次の本でないかなぁ。あ、ケーキきてるー!」


「今日発売なんでしょ? まだまだでないでしょ」


「3ヶ月毎とかの人もいますからわからないですよ?」


「今年度は出ないと思う」


「賭けます?」


「いいよ」


 絶対負けないし。


「玲先輩が勝ったらなんでも言うこときいてあげますよ!」


 その自信はどこからくるの……?


「なら負けたら後輩ちゃんが絶対に欲しいものあげるよ」


「いいましたね?」


「言った言った」


「楽しみにしててくださいね?」


 ガトーショコラを刺したフォークをこちらに向けて不敵に笑う。

 すごい自信だけどまだその新作とやらを書き始めてすらいないんですよ。


「そっちこそ言う事きいてね」


「体でもなんでもばっちこいですっ!」


「誰得」


「玲先輩ってほんと無欲ですよね……。つまんないですよ」


「悪かったね」


 後輩ちゃんが欲にまみれてるだけです。


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