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「おはようございます。遅かったですか?」
お昼過ぎから人と待ち合わせをしていた。
早く来たつもりだったのだが相手はもう先に着いていたようだ。
「大丈夫ですよ。仕事が早く片付いたので早く来ただけですから」
「そうですか」
「立ち話はこれくらいにしてとりあえず中に入りましょうか」
そう言って待ち合わせ場所のファミレスへと入り、席に着く。
「何か食べます?」
「大丈夫です」
「遠慮しないでくださいよ。どうせ経費なんですから」
それはそれで遠慮しちゃうんですが。
「というか玲君が頼まないと私も食べれないんですよ」
「気にせず食べればいいじゃないですか。経費なんでしょう?」
「私だけ食べるとただの自腹になります」
「なら同じものでいいんで頼んじゃってくださいよ」
「ありがとうー。すいません〜! これとコーヒーを2つずつ貰えますか?」
嬉しそうに注文をする女性。
この人は出版社の編集さんだ。簡単に言うと自分の担当。
「さて、おやつも頼んだことですしそろそろ本題に入りますか」
「おやつなんですね」
「頭を使うことはやっぱり糖分がないといけませんからね」
「今日そんな話でしたっけ?」
「ただの報告と軽い話し合いして終わりですけどね」
楽で助かるなんて言ってる。涼しいファミレスで甘いもの食べながら打ち合わせなんて確かにゆとりな気がする。
「まぁゆっくり雑談しましょうよ。スキンシップも大事よ」
「そうですね。とは言っても特に話すことは無いんですけど……」
「印税でなんか高いもの買った?」
「最初から汚い話ですね」
「若い人がどんなことに使うのかすごく気になるのよ」
「自分だって若いくせに何を」
「10代と20代は天と地ほどの差があるのです」
「まぁその発言がすでにおばさんですよね。お金はなんも触れてませんよ。口座に眠ってます」
「使わないの?」
「特に今の所は」
「彼女にいいものでも買ってあげたら?」
「いませんよ」
「後輩ちゃんは?」
「彼女じゃ無いですって何度言ったら……」
「つまんないのー。若いんだからもっと恋しなさいよ」
「苦手なもので」
「それでよくあんな恋愛小説かけるわね」
「男子高校生の妄想ですからねただの」
「ただの妄想であんなの私にゃ書けないけどね」
そりゃもう年のおばさんですから。なんて言ったら殺されそうだから胸の中にしまっておこう。
「そう言えば昨日後輩ちゃんに本の存在が知られまして」
「ついにばれた?」
「いや、ばれてはいないんですよ。ただ凄い気に入ってるみたいで大ファンとか言ってました……」
「よかったじゃない。僕が作者ですって言ってみたら? 面白いことになるんじゃない?」
「絶対にめんどくさいことになるのが目に見えてるので嫌ですよ……」
「ばれたら教えてね」
ちょうど届いたパフェにスプーンを刺しながら気楽に言ってくる。
「そうそう今日のメインはこれね。忘れないうちに渡しとく」
鞄から本を取り出して目の前に置く。
「新作。発売日はまだ早いけど先にサンプルね」
「売れるといいですねー」
「他人事みたいに……。自分の作品でしょうが」
「未だに実感がないんですよね」
「2冊目出しときながら?」
「いつまで続くやら」
「ネットの方だって別なやつ書き続けてるじゃない」
「ネットは売り上げも締め切りもないですからね」
「締め切りも余裕で守るくせに……」
「まぁ、書くには書き続けますけど」
「それじゃ3作目はいつにする?」
「まだこれすら発売してないんですけど?」
売れなきゃだせないでしょうに。気が早すぎる。
「大丈夫大丈夫。どうせ売れるし、もしダメでもネットにあげるんでしょ?」
「そうですけど……。次のことなんてなんも考えてないですよ?」
「決めたらメールしてね」
「気長に待っててくださいよ」
「たまにはハッピーエンドも書いてみたら?」
「難しいんですもん。考えてはみますけど」
「これ。後輩ちゃんがモチーフでしょ?」
机に置かれた本をつつきながら当然のことのように言ってくる。
「どうでしょうね」
「別に私に隠さなくてもいいでしょ。なのになんで悲愛なの? 玲君と後輩ちゃんが結ばれてハッピーエンドでいいじゃないの」
「ハッピーエンドってどんなのか全然浮かばないんですよ」
パフェとコーヒーを食べ終えて席を立つ。
「それじゃこれ読んだらメール入れときますね。パフェごちそうさまでした」
「次の楽しみにしてますからね〜。tear.先生!」
楽しみにされても新作出したばっかじゃないか。ブラック企業ですか?