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後輩ちゃんと別れてから、まだぽつらぽつらと残っている同級生達に軽く2.3言葉をかわし校門を抜ける。
もう来ることはないであろう学び舎は3年という短い時間にも関わらず記憶に色濃く残っている。
特に後輩ちゃんと出逢ってからの日々は飽きることはなかったな。
振り返って校舎を一瞥し、図書で1人いるであろう後輩ちゃんを想いその場を後にした。
「これが新しい奴です」
そう言って紙袋に入った冊子を渡してから30分ほど経つ。2つ目のケーキを頬張りながら反応を待つ。
卒業式の後、そのままカフェで待ち合わせして打ち合わせ。
「それで? 玲君はどれを選んだの?」
漸く読み終えてコーヒーに手をつけながら訪ねてくる。
第一声がそれですかね、普通。仕事してくださいよ仕事を。
「聞かなくてもわかってるんじゃないですか」
「想像はつく」
「なら愚問では?」
「本人の口から聞かないと。口にしてわからせてあげようかなって年上の優しさ」
「それはお節介って言うんです」
「フったんでしょー。どうせ。チキン」
「今日は言いたい放題ですね。一応祝いの日なんですけど」
卒業日に人生の先輩からボロクソ言われるなんてなかなかないと思う。
「あ、そうだった。卒業おめでとう。それで? なんで断ったの?」
「なんでと言われましても……。人の恋愛に口を挟むのはおばさん感でますよ」
「失礼だなぁ。ていうかなんで今日告白されるとわかったの?」
「わかってませんよ。これはフィクションですからね。小説ですよ小説」
「ふーん。で、なんで断った」
しつこい人だなぁ。そんなんだから結婚できないんですよ?
「付き合うだけが恋愛じゃないですからね」
何故かジト目でこちらを見つめられる。なんか変なこと言った?
「……」
「なんですか」
「いや、いつもそうやってはぐらかすからさ。いいんじゃないの? もう今日で終わりなんでしょ」
「はぁ。なんでそこまでして知ろうとするんですか?」
「私の楽しみだから。玲君と後輩ちゃんの物語はね。私にとっては小説みたいなものよ」
人の人生を娯楽にされても……。
「簡単ですよ。恋愛を経験すると、恋人ができると書けなくなる気するんですよ。俺には純愛は向いてないので」
「書いてるじゃないのここに」
「試しにやってみたんですよ」
「自分ではどう思う?」
「酷いですね。普通の方ですら通せるものじゃない」
あれじゃあ売り物としての小説じゃなくて自己満の小説だ。
「そう思ってんなら持ってこないでよー。仕事増やさないで欲しいよまったく。それで感想だけどね2つ目が1番書けてると思うよ」
「そう……ですか」
「本当に素直じゃないなぁ。これを選べば良かったのに」
ケーキを食べながらこちらの心を揺さぶってくる。
「もう過ぎたことですから……」
「まだ間に合うでしょ。このケーキ美味しい。よくこんなお店知ってるね、男の子なのに」
「あぁ、ここ後輩ちゃんが教えてくれたんですよ。お気に入りだそうですよ?」
「後輩ちゃんに教えてもらった場所に他の女を連れ込む玲君」
「人聞きの悪いこといわないでくださいよ」
「とりあえず、今回は全部ボツね。ラストの展開をもう一度考え直してきて? 他はいいから」
「……わかりました」
案の定ボツになってしまった。
後輩ちゃんはフラれ、自分は書くためにフったにも関わらずボツ出し。
誰も救われない結末になってしまった。まるで自分の小説の登場人物のように。
「いっそのこと書くのなんてやめて、後輩ちゃんを選んであげるべきだったのかな?」
客が引い取り残されたカフェの中でひとり、ぽつりと呟く。
すっかり冷めて冷たくなってしまったコーヒーだけが静かにゆらゆらと波を揺らしていた。




