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玲先輩が居なくなったこの場所で1人ポツリと佇む。
くれたものはなんだったんだろう。そう思って中身を取り出してみると大量の紙を紐で閉じた冊子になっていた。
「論文? いや小説かな? 後は小さい箱も入ってる」
開けてみると綺麗な紅い万年筆が入っていた。
「これって卒業生が貰うべきものじゃん」
読んでばっかりの私に万年筆なんていい皮肉が込められているのが分かった。
私があげた栞のようなものだろう。考えることは一緒なんだね。
「昔、小説書くって言ったからとかも、ありえるけど」
一切、手をつけてないけど。これ機に書くのもありかも。わざわざ今の時代に手書きもおかしいけど。
紙の冊子をパラパラと軽く中身を流し見するとどうやら小説の様だ。
先輩が書いたのかな?
最初のページを開くと作者名が浮かぶ。
「え? これって……」
控え室を飛び出して玲先輩を探す。
「玲先輩⁉︎」
もちろんもう玲先輩の姿はない。なのにいつまでも目で追ってしまう。
玲先輩が書いていたのか。あの本もあの本もそしてこれも。いつもパソコンでやっていたのはこれだったんだ。
「てことはあの勝負絶対勝てないじゃん」
流石に卑怯だ。ノーカンですノーカン。
玲先輩。私は文学少女ですから読んじゃいますよ?
でもこれバットエンド確定かぁ。今の私にぴったりだけど……。
玲先輩との最後の繋がりをゆっくりと確かめるようにページを捲っていく。
泣いて赤くした目でしっかりと読み進める。
学校で片思いをする女の子とその先輩。女の子が頑張ってアピールするストーリー。恋は実らず時間だけが過ぎていく。
「どう考えてもこれ私と玲先輩じゃん。こことかカフェに行った時のだし」
凄いデジャヴというか懐かしい感じに包まれて少しほっこりする。
ただこの小説は先輩側の目線もあってあの時やこの時はこんな風に思っていたんだ、と。
「でも小説だし都合のいい捉え方にしてるところもあるんだろうけどね。私こんなこと考えてないし」
そして最後はもちろんバッドエンド。だと思う……。意を決して女の子が告白するがフラれてしまう。
それでおしまい。なんか他のと比べて終わり方がぱっとしない。フラれて終わりって……。フラれた理由も書いてない。
「っても、今の私と同じ状況か。てことはこの続きは今のこの時間そのものだ」
読み終えてもどかしい気持ちのまま冊子を紙袋に戻そうとすると、中にもう1つ数枚の冊子が入っていた。
「なんだろ。先輩からの手紙だったり?」
笑いながら冊子を手に取り中身を見てみる。さっきの小説の後半のところっぽい。なんでここだけ?
読み進めると少しずつ変化が起きている。先輩のセリフや描写が違う。それに気づいて夢中になって読み続ける。
先輩の女の子への気持ちの変化や私達が行ってないお祭りの話。意識してしまってからの女の子の言動に敏感になってしまうけど今まで通り、あしらい続ける。
女の子の方は特に変わりなく、愚直に純粋に先輩へとアピールしていた。私ってこんな感じだったの?
こんな押されたら私でも好きじゃなくてもちょっと揺らぎそうなのに。
「めっちゃ良い子じゃん? なんでこれで手を出さないのかな〜」
頰を膨らませてわざとらしく不満を表す。そんなことしても見てくれる人などいないのに。
物語は進み女の子の告白シーン。2人は付き合うことになりパッピーエンド。幸せなエンドなはずなのになんかイマイチだ。本当にハッピーエンド苦手なんですね玲先輩。
「ん? 最後に書いてる3ってなんだろう」
タイプミスかな? 玲先輩、最後の最後で抜けてるなぁ。
読み終わるとそのまま机にうずくまる。
この結末の最初を玲先輩は選んだのだ。私はフラれてしまった。ならなんでもう1つの方も一緒に付けたんだろうか。同情かなぁ? こんなの余計に虚しくなるだけなのに。
1度止まったはずの涙が溢れだす。
誰もいない控え室でひとり、声を殺して泣き続けた。
開かれたままの冊子だけが静かに見守っていた。
『後輩ちゃんと私と。 著:tear.』




