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いやそれ気のせいなんかじゃないよ!

作者: イツネ

 俺の名前は佐藤(さとう)太郎(たろう)

 ごく普通の会社員だ。

 

 大学を卒業し社会の歯車になったのももう6ヶ月。

 今日も毎日繰り返される一日を終え、一人暮らしの部屋に帰った。


 あれ?


 鍵を回したが、ロックが解ける音がしない。

 どうやら今朝、鍵を閉めるのを忘れてしまったようだ。

 何故か最近はこのようなことが頻繁に起こるような気がするが、まあ気のせいだろう。


 シャワーを浴びた後、ビールを飲みながらテレビを見る。

 ふと腕時計を見たら、いつの間にか針は23時を指していた。

 そろそろ寝るとするか。

 明日も早く出勤しなきゃだしな。

 

 あ、でもその前、ちゃんと歯を磨かないと。

 

 浴室に入り、歯ブラシを手に取る。

 丈夫だと聞いて買ったやつで、もう6ヶ月間使っている。

 確かに優れた耐久性だ。

 優れすぎて毎晩使う度に新品のように感じる。

 

 部屋に戻りベッドに身を横たえる。

 

 うん?

 

 何故か布団と枕から僅かに香りがするような気がする。

 でも俺は香水など使わないから、まあ気のせいだろう。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 せっかくの休日だったため、久々に部屋を掃除することにした。

 掃除機でベッドの下を掃除しようとしたら、何かが引っかかった。

 確認してみたら、ボタン型電池だった。

 

 俺、こんなもの買ったっけ?


 他の場所も探してみると、下駄箱の中にも電池があった。

 まあ、最近は2個入りで売っているから、1個あったらそりゃどっかにもう1個あるもんだろう。

 

 俺は納得し、いずれ腕時計の電池交換に使うため、引き出しの中に保管することにした。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 仕事を終えマンションに帰ったら、隣の部屋から若い女の人が出た。

 隣に住んでいた人はいい年のお婆さんだったため怪訝な顔をしていたら、最近引っ越ししてきたという。

 そう言えば数日前、隣の部屋が若干騒がしかった。

 どうやらそれが引っ越しの音だったようだ。

 音がしたのは夜明けだったから、相当荷物が多かったのだろう。

 

 お隣の女は大きなトランクを持っていた。

 もう夜中なのに、これから旅行にでも行くのだろうか。

 トランクを見ていると、彼女は焦りの表情を浮かべた。

 どうやら日程に追われているようだ。

 

 邪魔するのも悪いと思い、簡単な挨拶をしてから部屋に戻った。

 そう言えばトランクから何か生臭い匂いがしたような気がするが、まあ気のせいだろう。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 マンションに帰ってきたら部屋の前にお隣さんがいた。

 どうやら旅行から戻ってきたようだ。

 「これからよろしくお願いします」という言葉とともに、お弁当を貰った。

 なんと、手作りという。

 

 手作り弁当を貰ったのは初めてだったため、残さず全部食べた。

 何か変な味が混ざっていたような気がしたが、まあ気のせいだろう。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 今日、ベッドの隣の壁に穴が開いていることに気づいた。

 新築した建物なので丈夫だと思っていたが、意外と老朽化が進んでいるようだ。

 好奇心で穴を覗いてみたが、その中は真っ黒で、何も見えなかった。

 

 俺はひとまず安心したが、外観上あまり良くなかったため、一応紙を貼っておいた。

 次の日、壁を見たら紙が無くなっていた。

 どうやら寝癖が悪かったようだ。

 後で不動産会社に連絡することにし、出勤のため部屋を出かけた。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 不動産会社に連絡をしてから数日が経ったある日。

 いつもと同じ一日を終え、帰路についた。

 何故かマンションの周りが騒がしかったが、疲れていたためスルーし、部屋に戻った。

 テレビをつけると、老婆をバラバラ殺人し、死体を山に埋めた女性が逮捕されたというニュースが流れていた。

 彼女は一人暮らしの男性を狙い、そのような犯行を行ったという。

 全く、恐ろしい世の中になったものだ。

 

 テレビの電源を切って腕時計を見たら、いつの間にか針は23時を指していた。

 そろそろ寝るとするか。

 明日も早く出勤しなきゃだしな。

 

 あ、でもその前、ちゃんと歯を磨かないと。

 

 浴室に入り歯ブラシを手に取った瞬間。

 ふと、歯ブラシの毛先が若干広がっていることに気づいた。

 近いうちに新しいやつを買う必要がありそうだ。

 

 まあ7ヶ月間使ってきたし、しょうがないか。

 

 壁に紙を貼り付け穴を隠し、眠りについた。

 そして次の日。

 壁を確認してみたら、紙はそのままだった。

 どうやら、今度は寝相がよかったようだ。

 

 シャワーを浴び朝食を済ませた後、出勤のため家を出かけた。

 何一つ変わることなく繰り返される日々の営み。

 今日も周りは平和だ。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 エピローグ

 

 俺は1ヶ月間使ってきた歯ブラシを捨て、新しいやつに替えた。

 最近は歯ブラシの毛先がよく広がってしまう。

 この前使っていたやつと同じ製品なのに、不思議なものだ。

 そろそろ他のメーカーを試してみた方が良いかもしれない。

 

 歯磨きを終えた後。

 部屋に戻ってきたら、腕時計が止まっていた。

 この間見つけたボタン型電池のことを思い出し、俺は早速交換してみた。

 しかし、腕時計は止まったままだった。

 

 電池切れじゃなかったのか?

 どうやら明日、時計屋さんを訪れる必要がありそうだ。

 

 次の日


 腕時計が止まった原因は、やはり電池切れだったらしい。

 それで持っていったボタン型電池を見せたら、時計屋さん曰く「これはボタン型電池じゃない」とのことだったので、捨ててもらうことにした。

 結局、あれは何だったのだろう。

 

 まあ、考えてもしょうがないか。

 

 俺は考えるのを止め、家路をたどった。

 

 END


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