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98.『パーンビヘール』

 ■ パーンビヘール ■

 鉱石の採掘と鍛冶の街

 【鉱国】の代名詞的都市

 各長たちの中でも『鍛冶長』は相応の発言権を持つのだが、なぜか無口で政治的なことにはあまり口を出さない職人気質の者が、つくことが多い。


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 無事と言うにはちょっと邪魔も入ったがガイヤの任務も終わり、二人は依頼主に報告と手に入れた品のお届けが残っていると言うことなので、とりあえず分かれた。


 別れ際マ・ソーニにチャロアイトを預けると加工が終わったら『サンハッカー』の【営業所】に送っておいてくれるということで話がついたので一安心。


 ちなみに地面が白くなる術は『霜界』と言う名だった。

 効果はやはり範囲内の敵の移動速度、行動速度の低減。

 コレで今後速度のある敵との戦闘は少し有利になるかもしれない。

 速度のある相手でブロックできないほどの相手となるとかなり限られてくるけども。


 折角だからこの街にもう少し滞在していろんな石でも見ようかとログインしてはふらふら店を見て歩き、ちょっと晩酌するなんていう生活を何日か続けていると


 町の道端で唐突に背中の辺りを軽く叩かれたので、誰かに呼び止められたのかと振り向くと

 

 石工長がいる。そして


  「うむ、石好きに悪い奴はいないがな『鍛冶長』に会わないで良いのか?」


 と一言って、そのまま立ち去ってしまう。


 任務をいつまでも進めないので注意が入ったのかもしれない。

 忘れていたわけではないが特に期限を切られていたわけでもなかったのでちょっとのんびりし過ぎたな。


 石好きには夢のような街だったし、職業を【石工】に変えようかとも何度か迷ったが、今は任務の途中だ。

 一旦忘れて先に進もう。


 進む先は相変わらずのトンネル、よく考えたら線路はあれども、列車が走っているところを見たこと無いわけだが、何動力で走るんだろうか?


 石炭で走る汽車か、はたまた根性動力のトロッコか?


 逞しいドワーフ二人組みで、シーソーみたいなのを二人でせっせとこいでいる姿を想像するが流石にそれは無いか。


 そんな事を想像しつつ、街道沿いの雑魚魔物を蹴散らしつつ、道なりを行けば三度目の石橋だ。

 

 何となくだが、肌寒い気がする。

 右を見ても左を見ても相変わらず山脈が続いている風景にしか見えないが、右手の妙に尖った山は前にも見た気がする。

 そして形も変わらない気がする。見る角度は変わっているはずなのに?

 もしかしたらあの尖った山を中心にした山脈をくり貫いてドワーフの国にしてるのかも知れない。


 よくよく考えると不自然なほど尖っているように見えるのだが、まあゲームの世界だし何か理由があってあんなデザインにしたのだろう。


 そして、次の山へ

 まあ、土の山、石の山と来たら金属の山かね?所謂鉱山とか

 

 外から一番近い最初の町に着くと、何となく聞いたことがある金属を叩く音が聞こえる。

 クラーヴンのところで聞いたものや【整備】任務のときの音


 どうやら鉱山で間違いないなと目星をつけつつ、町の人に話を聞いてみると


 「ここは鍛冶の山だ。鋳物もやるがな。取れるものといえば鉄と石炭、後は特徴の違う諸々の金属だな。ただ貴金属は取れないぞ」


 「諸々ってどんなものなんでしょう?」


 「ああ、腐食に強いものや軽いもの重いもの、硬いもの柔らかいもの熱に強いもの刃をつけやすいもの等々だ。混ぜないと使い物にならないものもあるし、結構種類が多くてな」


 なんていうか変なところにこだわるよなこのゲーム。【兵士】の階級なんかも妙に多いし。

 まあ、それが嫌かって言うとむしろ面白いんだけど。

 もう一つ聞いておくかね。 


 「特殊金属なんかもやっているんですかね?」


 「いや、それは別だな。『サンハッカー』寄りの方だぞ。大分遠いが大丈夫か?」


 「ああ、いえ、興味本位に聞いただけです。目的は『鍛冶長』にお会いしたいんですよ」


 「じゃあ、道なりに進んでいくつか町を抜ければ、いずれ『パーンビヘール』だ」


 「そうでしたか、ありがとうございます」


 と言って町の人と別れるが、やっとこついに『鍛冶長』に会えそうだ。


 いつも通り適当な町の宿でログアウトしたり洞窟を歩いて進み、やっとついた『パーンビヘール』は町のど真ん中に今までの街の中では最大の建物がある以外は何か普通の鍛冶屋街だ。


 クラーヴンの店に行くときの雰囲気そのまま

 石炭の燃える匂い鉄を打つ音、鍛冶屋の匂いと音そのままだ。


 とりあえず街の真ん中の大きな建物を目指す。

 偉い人なら多分でかい建物にいるだろうと思ったのだが・・・・


 「『鍛冶長』は現在こちらに居られません。この建物を回りこむように裏手に回ってそのまま奥に進めば、大きな炉のある家で仕事中です」


 とのことなのでぐるっと大きな建物を迂回して、道を進めば確かに炉のある家がある。


 と言うのも他の鍛冶屋は家の中に炉があるのか、外からは煙突しか見えないのだが、そこの家は明らかに庭に家の屋根よりも背の高い炉が置いてある。


 そしてその炉の前に一人作業しているドワーフがいるのだが、小さい人間と大きすぎる炉で、何かもう縮尺がめちゃくちゃだ。

 自分の感覚が、慣れるまでちょっとその光景を眺めている。


 何とか大丈夫そうと自分の中で折り合いがついてから、


 まずは鞄から氷結酒を一瓶出して、声をかける。


 「あの、作業中すみません『鍛冶長』ですか?」


 「うむ、ちょっと待て」


 作業中に声をかけているのはこちらなので、素直に作業を眺めて待つことにする。


 素人の自分には何を以て手を止めたか分からないが、一段落したのかそれまで打っていた鉄の塊を一旦砂だか土だかの上に載せると『鍛冶長』がこちらを見るので、話しかけようとすると


 「何も言わんで良いからまずその腰の物を見せろ」


 と言うので、酒をしまって剣を抜こうとすると


 「先にその手の瓶を渡してから剣を抜けばよい」


 とのことなので、先に氷結酒を渡し、氷鋼剣を抜いて渡そうとすると


 すでに氷結酒をラッパ飲みである。


 仕方ないので空いている手でもう一瓶氷結酒を出すと


 剣を受け取るか酒を受け取るか『鍛冶長』の手がうろうろ迷った挙句、すでに手に持っている氷結酒を一気飲みで空けて、両方受け取る。


 「うむ、これはいい物だ」


 剣の事だろうか酒のことだろうか?


 「ゴドレンは今どこにいるんだ?」


 なんの話だかさっぱり分からんぞ?


 「この剣の作製技術や作法はゴドレンの物だ。間違いない」


 いや、クラーヴンですけど?


 「いや、それにしては少し腕が落ちるか、弟子か何かだろうな」


 「一応【帝国】のクラーヴンって言うニューターが作った筈なんですけど」


 「なるほどな、ゴドレンはドワーフの割に暑がりだからな、鍛冶が終わったらそのまま雪に埋もれたいって若い頃から言っていたからな。まあ、あいつは鉄を打つ技術と鉄に対する思い入れは尋常じゃないから、良質の鉄が出る【帝国】なら理想の場所なのだろう。

 で、何の用だ?」


 「『商業長』の紹介で・・・・」


 「ああ、あれかダガーが限界なのか。

 じゃあ、問題のダガーと効果を移す武器を渡せ。極力同種の武器か形の近い物の方が成功率は高いぞ。

 それでも失敗する時は失敗するが、お前さんがどれだけ大事に使ってきたか、それだけの話だ」


 なんか、話ぶっ飛ばしまくるなこの人は。

 まあ、会話にあまり重きを置かない職人も世の中にいるし、現物見て決めたほうが早いってタイプなのだろう。

 工場勤めをする自分にしてみればそこまで嫌なタイプではない。


 『軍狼の牙』・・・・軍狼討伐特典のプギオ

 プギオ型ダガー・・・・魔鋼ダガー


 の二つを差し出すと


 「うむ、これは完全に寿命だ。だが、使い方は悪くないし、いつも装備していたようだな、悪くない」


 まあ、確かにここぞと言う時のサブウエポンだし、装備してれば士気が上がるしそりゃあずっと左腰に下げてましたとも


 「さらに、こっちはほぼ同型で元の物より丈夫だ。移す先としては非常に良い」


 クラーヴンのダガーって特典武器より良い物だったんだな。

 それとも特典武器はくっついてる特殊効果がいいものであって武器スペック自体は熟練工が作った物の方がいいのか? 


 「よしじゃあ、祈れ!うまくいくことを」


 え?いきなりかよ!他のNPCは結構ちゃんと説明してくれるもんなのにいきなりかよ! 


 金床でいきなり『軍狼の牙』を叩き折ると小さなシャボン玉が、フワッと一個舞い上がる。


 間髪いれずにそのシャボン玉に魔鋼ダガーを突きたてるとシャボン玉が吸い込まれていく。


 「よし!成功だ。魔狼(マゴス・リュコス)の牙とでも呼ぶと言い。じゃあな」


 と言って元の鍛冶作業に戻ってしまう。


 「詳しい話を聞きたいんですけど、後お代は?」


 「鉄工所に行って俺の弟子に聞くと良い。この街で一番大きな建物だ。代金は酒で支払ってもらった。しかも例の樹の件で来た大事なお客さんを待たせてるわけだし、別に構わない」


 「分かりました。お世話になりました」


 なんとも最初から最後まで無愛想なドワーフだった。話は分かる人みたいだけど。

 まあ、気難しいとは聞いてたし、無事武器の効果を移すのにも成功したみたいだし、

 文句を言うものではない。むしろ手早く完璧な仕事なんて職人の鑑だ。


 先ほどの大きな建物『鍛冶長』が言うには鉄工所の入り口に再度たどり着くと


 「無事『鍛冶長』に会って用事を済ませられたようですね?」


 「その聞き方だとやっぱりいつもあんな感じなんですかね?」


 「誰に対してもどんな時でもあんな感じですよ。時折誤解されることもありますよ。腕は確かなんですけどね」


 「いや、自分は悪い印象は無いですよ。ただいくつか聞きたいことがありまして」


 「ええ、構いませんよ。鉄工所のほうは今は大きな仕事も入ってませんし」


 「あれ?ここで製鉄してインゴットとかにして、鍛冶屋に配るとか売るとかするんじゃ?」


 「いいえ、ここで製鉄するのは線路とか大量生産が必要な時だけですよ。普通の武器防具生活用品なら、鍛冶屋の炉で製鉄します。

 要は不純物を抜いて、何を添加するのかと言うことなんですけど、その辺りの知識は各職人の財産なので、それぞれの家の炉で行ってますよ。

 不純物ひとつ抜くにしても、石灰石を使うのか蛍石を使うのかこの鉄工所を動かす時には色々と作法の違いから喧嘩になることもあるくらいですから」


 「なるほどねぇ、ところで自分は今任務で世界を周らなければならないのですけど、その辺のことは?」


 「ああ、例の樹の件ですね。まだ準備が整っていないようですので、このまま次の街へ進んでいただけると助かります。次の街は我々にとってとても大事な街『マンダーリカー』です。

 まあ、醸造街ですね。

 醸造自体は全ての街で行っているんですけども、流通量を調整したり保管したりする場所ですよ。

 そうしないとあればあるだけ飲むのが我々ドワーフですから、むしろ目の前にある酒を飲まずにいられる鉄の意思を持ったドワーフにしか勤まらない場所ですよ」


 「まあ、何となくそういう流れみたいなので素直に従って次に行きます。

 ところで『鍛冶長』の剣の効果を移したあれは、どういうことだったのか差し支えなければ聞きたいんですけど」


 「ああ<付加術>の応用ですね。そもそも<付加術>は魔物の素材からその特性を引き出して武器や防具に付加する訳ですが、武器から抽出するにはさらに別の術が必要になります。

 ただしその詳しい内容についてはちゃんと修行された方にしか開示していません」


 「ほーなるほど。まあ、詳しく聞いても素人の自分には分からないので概要だけ構わない範囲で教えてもらうことは出来ますか?」


 「構いませんよ。

 そもそも世界のあらゆる生き物も道具もすべては霊子で出来ています。しかしなぜエネルギーである霊子が物質を形作るか?

 多分目には見えない次元の違う何かが核にあるのではないか?

 それを我々は『魂』と仮に表現しています。

 そして、動物なれば死と共に魂は消え討伐証明を残して霊子となりますが、スキルを使用することでさらに一部を素材として残すことが可能になります。

 それを魂の残滓や記憶の一部と表現しますが、それは鉱石も同じです。

 何のスキルも持たない者が土壁を崩しても、崩れた場所が霊子になりいずれ再生するだけですが、

 スキルを持つものが掘れば、色々な素材が手元に残ります。

 では、大地の魂はどこにあるか等の疑問も湧きますが、そもそも目に見えない次元の違う何かを仮定しているだけですので、答えは出ておりません。

 そして残った素材を変形させるのにもスキルが必要です。

 そして形の無い性質だけを取り出し、付与することができるのが<付加術>となります。

 とは言え形の無いものですので、取り出した物を保管するすべは現状ございません、取り出して付与するまでを流れるような動きで一瞬で行う必要があります・・・・」


 うん、めっちゃ長い


 「あ、じゃあ、あのシャボン玉みたいなのがその取り出した性質だったわけですね?」


 「ああ、今回はシャボン玉パターンだったわけですか、運がいいですね。

 生卵のようにねばっと落ちるパターンや煙が噴出すパターン

 一瞬で空高く飛び、ゆっくりふらふらと風に乗って落っこちてくるパターン

 いくつか同時に別方向に飛んで行ってしまうパターン等様々です。

 効果を移すのにベストな方法でそれらを捉える為には相応の経験が必要です」


 師匠と違ってよくしゃべるなぁ。まあ、ありがたいけど。

 ただ、少々しんどくなってきた。

 本当はここで採れる金属の事も聞こうと思っていたが、よくよく考えたら武器は間に合ってるし、防具は金属とか無理だし、貴金属が出ないなら装飾も関係ないし、鍋とかフライパンとかはクラーヴンに頼むのがいいだろうし、

 また、必要な時に聞こう。とにかくいろんな種類の金属鉱石が採れることは間違いないわけだし。


 「色々と教えていただいてありがとうございます。とりあえず例の樹の任務もあることだし、先に進みます。助かりました」


 「いえいえ、またいつでもお越しください。無愛想な師匠も別に人が嫌いなわけでも、特別わざとつっけんどんな態度をとっているわけでもないですので、気兼ねなくどうぞ」


 そう言って見送られながら次を目指す。

 お酒の街を

たまに、やたらしゃべるキャラを出したくなります。

ルークと別行動なのが悔やまれる。

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