91.次の街へ
■ 宝石 ■
ゲーム内においては精霊の力の溜まったものとされる。
ある程度産地は固定されており、一定の鉱脈から手に入る。
大抵はその地域で特に崇められる精霊の力の宿る物が産出される場合が多いが【鉱国】の坑道やダンジョン等複数の種類の宝石が手に入る場所も存在する。
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数日の観光の後、ポッターから冑を受け取る。
「隊長の服装に合わせて作ったけど中々良くできたと思う。まあ冑自体は知り合いの防具職人に頼んだけど、デザインは僕がしたし、頼まれていた通り顔が隠せるように色つきのガラスで顔が見えなくなってる。
はじめはガラスのバイザーにする気だったけど、戦闘時にその部分が殴られてもいけないから、むしろ他の甲殻部分を出っ張らせてはめ込めるようにしておいたから、強度も完璧だ」
完璧かどうかはなんともいえないが、全体的に黒で自分の今の装備とは合う色だが、なんとなく引っかかるデザインだ。
「折角のファンタジーだしもう少し、昔の兵士風とか騎士風にならなかったかな?」
「最近はそれ位が普通だと思うけど? 逆にそういうの追いかけすぎるとコスプレみたいになるし」
まあ、全体的に黒だし目立つことは無いのだろうが、自分から見るとどうしても近未来的と言うか、旧未来的と言うかはっきり言ってしまえば昔の変身ヒーローにしか見えないのだ。
「といっても隊長に合わせて若干昔のヒーローの画像を参考にさせてもらったけど」
「何故そんな気を使うんだか、普通でいいのに。それに今はコート着てるんだから変身ヒーロー風とか言われても」
「まあ、そういわずに装備してみて」
そういうので、被ってみると思った以上に視界が開けている。
目を中心に広い範囲をガラスにしてあるので、視野は抜群だ。変に西洋風冑にしてスリットから見るよりは大分いいのかもしれない。
デザインも自分で被ってしまえば自分の格好なぞ見えないのだから、気にならなくなってきた。
「やっぱり悪くないよ。コート着てても変じゃない」
本当だろうか? 若干笑ってる気がするのだが? まあ、いいか。気にしてもしょうがない。
「さてと、パーンビヘールに向かうとしますかね」
「剣を見てもらうんだっけ? この先はちょっと長くなる。アオイクワットはサンハッカー寄りだったけど、この山を抜けるのに数日かかるからね」
「そうか、まあ結局のところ進むしかないから同じことですよ。お世話になりました」
「いや、こちらこそ難航してたクエストクリアできて助かりました。ありがとう。まあ、道は結局一本道だし、無理せず途中の町で泊まりながら進めば、ちゃんとつきますから」
そうしてポッターと別れ、一路パーンビヘールへ、ポッターの言うとおりずっと一本道だ。出てくる魔物も相変わらず、しかし山の中を抜けるのに数日ってどれだけ大きな山なのだろうか、山と言うよりは山地って感じなのだろう。
アドバイスに従い無理せず、町で宿泊しながら日にちをかけながら進むと外の光が見えるところまで来た。
いつだったかの橋と同じようにまた一旦外に出るのだろう。
やはりそこには橋がかかっていた。
今日は霧がかかっていて、底は見えない。どれだけの高さかも予想がつかない。
しかし、霧の高さは橋の下の方なので、周りは良く見える。
むしろ、霧の上に立っているかのような不思議な心地だ。
ゲームの中では夕方なのかオレンジ色に染まった霧が遠く東に見える妙に尖った山の山裾を隠している。
周囲の光景を眺めながら橋を渡り、一本道を通り抜けて、今日も町にたどり着いたので、そのまま宿泊する。
翌日はまず町のドワーフにこの山の特産を聞いておくことにする。山ごとに違うってポッターが言っていたし、聞いておいて損はないだろう。
「ああ、この山はいい石が取れるな。この山の代表は石工長だ。まあ、通常は家具や床材や建材、壁のタイル、何らかの装飾って所なんだろうが、ここの石は所謂宝石も含むな」
石の山だったか、鍛冶長に会うのはいつになるやら、しかし聞き捨てならないな。宝石が採れるだと?
「宝石が採掘されるって事ですけど、主に何が取れるんでしょうか?」
「そりゃあ色々だ。ただ、希少な貴石はまず手に入らないな。坑道の奥の危険な魔物を倒しながらさらに鍛え上げられた<採掘>スキルが必要なんだから当然だな。大昔の偉大な先人たちが掘ってきた物が少量あるくらいだが、市場に出回るようなものじゃない。よっぽど重要な国家間の案件で出されることがある程度だ」
「それは仕方ないですよね、ちなみに半貴石はどうです?多少は流通もありますか?」
「まあ、多少は有る、物にはよるがな。そんなに好きなら【石工】にでもなればいい。<採掘士>でも取ればいろんな石が掘れる」
何と言う魅力的な提案。魔物狩るより宝石掘るほうが自分の性格には合っているのではないだろうか?
「そういえば、道で拾った石があるんですけど、磨いてもいないので何になるか分からないんですがこういうのってどこにもって行けばいいんですかね?」
「ああ、それなら俺がみよう、一応石の町の住人だし多少の心得はある」
と言うので、拾った石を渡す。
「これは、ずばり石だ!」
「いや、それは分かっているんですけども」
「うむ、一応多少のアゲートが含まれているようだが、装飾品なんかに使うには含まれている量が少なすぎる。取り出そうとしても、粒と言うより粉になるだろうな」
「まあ、道端の拾い物じゃそんなものですかね?」
「やはりちゃんと採れる場所に赴いて取るのが、一番だろう。何でも採れるなんていうのはこの山くらいだがな」
「じゃあ、氷水晶なんかも取れるんですか?」
「ああ、そういうのは無理だ。かなり特殊な物だろうが。むしろその名前を知っていること自体吃驚したがな、よく見たら要人用の通行許可証つけているのか。悪いことは言わないからあまり氷水晶なんて表で言わないことだ。石の町に長いこと住んでる俺でなければ、普通のドワーフやヒュムはまず知らんからな。対邪神装備のことは知っている者もいるかもしれないが、その素材ともなると相応の地位の者しか知らぬはずだ」
「今後は気をつけるようにします」
「そうだな、そうするといい。要人用の通行許可証も持っているのだから、石工長に合えば、少しくらい宝石も融通してもらえるだろう。精霊の宿る武器を作りたいのか、ステータス補強に使いたいのか、はたまた装飾品にしたいのかその辺りは分からんがな」
「ちなみに装飾品にするとどんな効果がありますか?」
「<精霊術>かそれに準ずる力が増すか、逆に耐性を得るか、ステータスを上昇させるか、後は状態異常耐性とかか。これ以外だと<付加術>次第だ。大抵特殊効果ってのは魔物素材から抽出されるものだからな」
「数珠状にして、沢山宝石をつないだら効果が上がったりとかしますかね?」
「無いな、同じ種類の物を沢山くっつけてもどこまで効果を引き出せるかは製作者次第だが、数珠繋ぎにして全てを引き出すなどは無理だな。
まあ、同じ素材の指輪やネックレスのように別々の装飾品としてつければまた変わるだろうが、一つの装飾品を同じ素材でごてごてにしても意味はない。
複数の素材をまとめた場合は作ったものの腕によって複数の効果を生み出せることもあるが、無数って訳じゃないからな」
「なるほど、参考にします。綺麗な石自体が好きなので、石工長に会ってみます」
「そうか、気をつけてな。石工長からうまくいい宝石を引き出すなら酒をもっていけよ」
「大丈夫です。お礼代わりに石工長に渡すお酒を一瓶譲りますよ」
と氷結酒を一瓶譲る。
毎度樽から出していたんじゃ面倒なので、アオイクワットで酒瓶を買っていくらか詰め替えておいたのだ。まあ、全部瓶にするのも大変だったので、途中まで空いている一樽だけだが、それでも40瓶くらいにはなるので、大変だった。
「はは、こりゃあいいものだ! 石工長もそれなりの物を出さざるを得ないだろう。道なりに進めばその内大きな街に出るからな、まあ、この国の街道はひたすら一本道だ迷うことも無いだろうがな」
「ええ、気をつけて行ってきます。色々と親切にありがとうございました」
そう言って、また道を行く。
向かうはこの山の街『 』……名前聞いて置けばよかったな。