90.蜂蜜酒と窯場長
■ 蜂蜜酒 ■
滋養強壮にも良いとされ、様々な地域で飲まれている。
プレイヤーが飲んでもバフ効果が得られる。
地域によって味や効果が変わるが、お酒のため『酩酊』のデバフもかかる。
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運の良いことに甲熊を狩り終えた後の休憩中は何とか他の魔物に絡まれずに済んだ。
体が動くようになるに連れて、膏薬とテーピングで地味に回復をする。
よくよく自分の状態を観察すると自然回復が止まっている。
麻痺や凍傷とは違った体の動きの鈍重さと自然回復停止のデバフか?
誰かに聞けば分かるかもしれない。
後は、デバフが抜けたら木登りをして、洞にポッターから預かった徳利のような焼き物をつっ込めば、蜂蜜酒が手に入るって寸法だ。
魔物がいないことを良い事にそこらを見回ると草むらに採取ポイントがあったので<採集>すると『ハーブ』が何種類か手に入る。
食材や薬品の調合に使えるアイテムなので、適当に毟って持って帰る。
調合は出来ないが薬屋さんに売れるはずだ。もしくは自分で食べてしまっても構わないだろう。
帰り道にまた鹿に出会ったが、今度は角の代わりに皮を手に入れた。
角攻撃はタイミングを掴んでいるので容易くブロックして、さしたるダメージも無くさっくりだ。
やはり強い魔物が出る地域となれば、通常の魔物でも今までとは違った行動が出てくるので気をつけねばならないようだ。
帰り道になってようやく気がつくが、今回は無事だったわけだし今後の糧としよう。
セーフゾーンでポッターと再会し、そのまま蜂蜜酒を届けに行くことにする。
「しかし、よく一人で倒せたもんだね。僕は生産専門だしあまり戦闘は詳しくないけど、それなりに苦戦するって聞いたんだけどね。パワーが強くて吹っ飛ばされたり逆に踏ん張れるタイプだと何か超スピードのもので突き刺されてデバフを食らうとか」
「いや、そういうのは先に言っておいてよ。まあ、体幹強化とか耐性の多いスキル構成だから耐えられたけど、舌で突き刺してくるのはちょっと危なかったですかね」
「へ~舌で攻撃してくるのか、細長い顔の熊だとは聞いてたけどね。掴まれたりはしなかったんだ? 掴まれると体を固定されて、頭に風穴空けられるらしいよ」
「いや、だから先言おうよ。多分手を叩くような行動してたから、それに当たると掴まれるんだろうけど、事前モーションが長いから普通に避けられますよ。後見た目はでっかいアリクイですね。士気ダウン攻撃すらアリクイの威嚇ポーズみたいだったし」
「へ~アリクイの威嚇ポーズだったら可愛いじゃないか! 僕も見てみたかったな」
「5メートルはある巨体でやられても、可愛さのかけらもなかったけど。ところで蜂蜜酒ってどこにとどけるの?」
「ああ、それはこの街で一番偉い窯場長のところだね。そこに持っていけば、ゴーレムを倒せるドワーフを紹介してもらえるんだよね」
「しかし、何で蜂蜜酒なんだか、ドワーフならもっと度数の高い酒飲んでそうなのに」
「確かに店で買えるのは蒸留酒だし、あえて蜂蜜酒ってのも不思議だね。まあ、ゲームのクエストだしそんなものじゃない?」
そんな事を駄弁りながら街に戻り、ひときわ大きな窯のある家を訪ねると優しげなおばさんドワーフが迎えてくれる。
「あらあらいらっしゃい、前々から坑道の奥へ行く許可を申請してたポッターさんね、それともう一人はお友達かしら?」
「こんにちは後無沙汰してます。道中行き会った方ですけど今回例の蜂蜜酒を手に入れるのに協力してくれたんですよ」
「あらあら、じゃあ蜂蜜酒は手に入ったのね。良かったわねコレでもっと良い焼き物が作れるじゃない。すぐに主人を呼んでくるわね」
と言って、さっさと奥へ向かってしまう奥さん。
入れ替わりで現れるのはそれなりの高齢に見えるドワーフ、全身泥で汚れているが全然気にしていないようだ。
「例の物を手に入れたってな。ちょっと見せてみろ!」
歳の割りにと言うか年齢どおりと言うか気が短いようだ。
アイテムバックから蜂蜜酒を取り出して渡す。
「うんうん、どうやら本物のようだな。人の手じゃ作れない素朴で原始的な香りがするな。約束どおり護衛をつけてやるから、坑道に行くときはこの許可証を持って衛兵に声をかけるといい」
と言ってくるくると丸めた紙をポッターに渡す。
そして、すぐにまた奥に引っ込もうとするのでちょっとだけ話を聞いてみることにする。
「あの、ちょっとお尋ねしたいんですが」
「ん?なんだ?蜂蜜酒を手に入れるのに協力したとは聞いてたが、その首から提げてるのは要人用の通行許可証じゃないか、お前さんは一体何者だ?」
「一応【帝国】から伺ったものですが、偉い人には話が通ってるとの事なんですけどね」
一応ポッターがいるので宝樹のことは伏せておく、国家間の重要案件だって言われているしな
「ああ、そういうことか、それで何の用だ?」
ん~気難しいな。酒でも出した方がいいのだろうか?
「とりあえず一杯どうです?」
と言って氷結酒を取り出すと……
迅雷の如き速さで現れた奥さんがグラスを二つ出してきたので、それぞれに注ぐ。
「むぅ」
「ああ、これはいい物ねぇ。甘い香りとフルーティな飲み口とは裏腹におなかに入った瞬間に焼け付く感覚と冷やされる感覚が同時に襲ってきて、ずっしり来るわ。お酒を飲んでるっておなかの底から思えるわ」
何とか満足いただけたようだ。本当に氷結酒買っておいて助かった。
「いい酒を振舞ってもらったんだ。聞きたいことがあれば何でも聞くといい。コレだけの酒の前に口を閉ざせるもんじゃない」
「大したことじゃないんですけど、いくつか教えて頂きたいんですけどね。一つ目は蜂蜜酒について」
「ああ、何で俺たちのようなドワーフが蜂蜜酒なんて弱い酒を飲むのかって事か」
「ええ、まさか子供に飲ませるわけでもないでしょうし」
「それはね、結婚の祝いで新郎新婦が飲む習慣があるからよ。
昔から新郎新婦が甲熊の蜂蜜酒を飲むと子宝に恵まれるって言われているのよ。
でも、私達ドワーフは木登りが苦手だから、なかなか手に入らないのよ。甲熊を倒すだけなら両手鈍器で甲殻の上から叩いちゃえばいいのだけどね。
木を切り倒して手に入れると、洞のある木って中々無いから、蜂蜜酒の手に入る木をまた探さなきゃならないし。
だから結婚祝いで贈るとすごく喜ばれるのよ」
「伝統的な習慣だったわけですか、謎が一個解けました。もう一つも大したことじゃないんですが、結局この国で一番偉い人ってどなたなんですかね?」
「一番偉いやつってのはいないな。街や都ごとに代表がいて、相談しながら何とかやってるってなもんだ。
俺にしても大抵の奴らにしても、自分のやりたいことに専念したいんだがな。まとめ役が必要ってのは分かるし、いい歳になったら人の面倒も見なきゃならないからな。
若いころは好きにやってたし、今の若い連中にも好きに自分の腕を磨いてもらいたいからな」
「つまり、窯場長が一番偉い人の一人って訳ですよね。自分の方の許可が欲しいのですけど」
「商業長にはちょっと待つように言われてるんじゃないか? 別に嫌がらせで言ってるわけじゃない。色々と都合の合わない事があるんだ。すまないが、もうちょっと国を巡っていてくれ」
ふむ、商業長にはうまいこと話をそらされた気がしたので、無愛想な職人風の窯場長を当たってみたが、悪気があるわけでは無さそうか。
「分かりました。まあ、装備の更新もしなければならないですし、もうちょっと観光しながら待つとします」
「悪いな」
とりあえず窯場長との話はこんなものだ。
ポッターと一緒にお暇する。
そしてポッターに甲熊の甲殻を預け、新たな冑を作ってもらう約束をする。
お代は今回の蜂蜜酒と交換って事で良いそうだ。
冑が出来上がるまでの数日アオイクワット内を観光する。
まずは薬屋さんに行くとデバフ『衰弱』に対応する薬類があったので膏薬を購入しておく。
スキルを確認しに教会に行くと新たな術がいつの間にか増えていた。
<術>を取得しました
氷剣術 紅氷華
相変わらずあっさりと取得している。
どうやら相手に剣をつきたてた状態で発動しなければならないようだが、 相手に剣を突き立ててさらにその剣を自分が握っている状態を数秒維持しなければならないようだ。
使いどころが一寸難しいかもしれないけど、今回みたいなごり押しで行かなければ危ない場面もあるだろうし、つけておくか。
しかし『くれないひょうか』ねぇ。
どれだけ、会社のために提案しても私に逆らうのか!って社長に怒られたり
現場仕事が終わってから事務所の仕事をしてもお互い助け合うのが当然だ!って言われたり
必要があって何時間残業しようが、残業代なんてものは存在しなかったり
当然休日出勤なんて物もつかない、全てサービスと言う名の強制だ
ただでさえ若い人がいつかない会社だから、高齢で普通なら退職している年齢の人に無理させて、この前脳出血で倒れたのに文句しか言わない社長。
なんかそんな現実を思い出させる名前の術を今後使っていけるのか、少しブルーな気分になってきたわ。
今日はもう、買ったお酒でも飲んで飯食って寝よう