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89.【鉱国】山中『甲熊』の攻防

 ■ 甲熊(ビーイーター) ■

 細長い顔を持ち細長い舌で蜂を食べる熊。

 蜂の巣を溜め込む習性があるが、蜂蜜を食べるわけではない。

 主に虫食であるが、人サイズの生き物は威嚇し、攻撃してくる。

 目にも留まらぬスピードで打ち出される舌には毒がある為、要注意。

///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


 どう戦うかって言っても自分のやり方は一つしかないんだけどな。


 ブロックして硬直したところを刺す、以上。


 問題はどこを刺すか……腹側だろうな。よく観察すると手や足も甲殻に覆われている。


 片手に蜂の巣を抱えて2本足で立っているが、でかい。5メーターはあるだろうか? 硬いだけじゃなく、刺せる部分がかなり制限されてくる。


 こうなると4つ足になったところで攻撃しなきゃ無理か、蜂の巣を手放すよう仕向けないといけない訳だ。


 両手持ちの鈍器でも装備していれば強引に脛を叩いてダメージを与えるのだが、そうも行かない。


 戦闘手段がショートソードだけって言うのもやはり考え物だ。今後の課題としよう。


 どうにも戦い方がまとまらない内に甲熊が歩き出す。

 相変わらずたかってくる蜂をなぎ払いながら二足歩行で歩いていくので一定距離を置いて付いて行く。


 どうやら二足歩行では大してスピードが乗らないのか、のろのろと歩いていくので考え事を続行する。


 そもそも、蜂がたかっている状態で横から殴りに行った場合、蜂は自分に攻撃してこないのだろうか?


 なんとなく襲ってくる気がする。そうなると蜂が十分に減ってからが勝負な訳だ。


 仮に甲殻の無い腹側に剣を突き刺したとして、本当に刺さるのだろうか? 結構毛皮が分厚いように見える。

 となれば刺せる所は自ずと減ってくる。目、耳、口の中。

 <氷剣術>を思いっきり使って、感覚器から凍らせるしか無いか。

 先程の三猿に影響されてか、それが一番いい選択のように思えてきた。


 自分の使える<氷剣術>は現状『凍牙』のみ。

 要は剣が冷たくなる術だ。

 ブロックや攻撃時に相手を凍傷にするデバフ系の術だが、ぶっ刺して思い切り剣を冷たくしたらどうなるのだろうか?

 

 大分、蜂も減ってきたしそろそろ頃合かと思ったら、甲熊が蜂の巣を木の洞にねじ込み始めた。

 ぼろぼろと崩れるのもお構いなしに強引にねじ込んでいる。


 どうやらここが甲熊の蜂蜜酒の採取場所って事なのだろう。


 蜂蜜酒と言えば、現実でも本当に大昔からあるお酒だ。基本的には蜂蜜と水を混ぜておけば勝手にアルコールになるらしいけども、最近はドライイーストなんかを入れて作る人もいるらしい、日本では勝手にお酒を造ると違法だったと思ったがな。


 そういえば蜂蜜酒と言えば、北欧神話の詩の蜜酒ってのがあったなそう言えば。賢い神が世界を巡って自分の知識を広めようとしたところ、ドワーフの兄弟に殺されるんだったか確かな。


 その神の血と蜂蜜を混ぜて保管していると蜜酒になって、それを飲むとすばらしい詩が書けるようになるとかそんな感じの話だった。


 ちょうど自分が中学高校の頃やたらと北欧神話が流行してなんとなく自分も本とか読んでいたものだ。


 まあ、一気に考え事が流れに流れたが、蜂の巣を木の洞にねじ込んで両手の開いた甲熊がいきなり襲い掛かってきたので、ちょっと焦ってただけだ。


 後ろをついて歩いてたのは分かっていたのだろう。本当に手が空いたと思ったら、即襲い掛かってきた。


 しかし自分は未だに、焦った気持ちで一人戦闘しようとすると変な方向に気が散ってしまうみたいだ。


 今のところ相手は両腕を一定間隔で振り回してくるだけだし、きっちりブロックして一呼吸入れて気持ちを落ち着ける。


 落ち着いたらもう一発ブロック、そして距離を取り、回復丸薬と癒丸薬を飲んでおく。

 生命力と精神力を持続回復状態にして、甲熊と対峙する。


 中々四足歩行にならない。


 すると両腕を大きく開き、静止する甲熊、何なのだろうか?


 ダメージの無い衝撃が走る。ノックバックすらない。思い出した、士気ダウン系攻撃だ。


 ひとまずは装備のおかげで下がりきることは無かったようだが、何度も食らうとヤヴァイ。<軍術士>をつけてきてない。そもそも集団戦用の術だしソロじゃ使えないか、使えないのか? よく考えたら試した事も無い。


 つらいところだが、攻勢に出て使わせないようにしなければ、有効な攻撃方法すら見つかっていないのにな。腰をすえてじっくり行くつもりだったが、なかなかうまく行かないものだ。


 そもそもが、いつもはちゃんと準備して一体づつボスを攻略するのに、今回は行き当たりばったりで来てしまったのが間違いだったか、やれるだけやって駄目だったらちゃんと準備して出直そう。


 そんな事を考えている内に一太刀浴びせて、相手の攻撃を一回ブロックしている。お互いダメージは微々たる物だ。<分析>をつけていないので相手の生命力量は分からないが、手ごたえが少ない。毛皮を傷つけた程度だ。


 しかし、今はそれを繰り返す他無い。単純作業の繰り返しながら、ふと思う。蜂はどこに行ってしまったのだろうか。

 いくら倒されて数が減ったとはいえ、全部は倒しきれないだろう。あれはつまり蜂の巣が木の洞に入れられるまでの間に甲熊を倒せるかって言うタイムアタックだったのかな?

 で、失敗したから蜂は解散と。となると蜂の巣が破壊される前に手を出しておいた方が良かったのだろうか? 案外蜂と友好関係結べたりとか?


 今更どうにもならないことを考えていたら、甲熊の攻撃パターンが増えてきた。


 両手を振り回すだけではなく、両手を同時に振り上げて地面を叩きつけてくる。さらに両手を広げて、まるで蚊でも叩き潰すかのように手を叩く。


 多分、食らっていれば相応のダメージを貰うのだろうが、攻撃前のモーションが長いので今のところ避けることが出来ている。


 しかし、地面を叩き付ける攻撃の時はチャンスだ。四つ足状態で若干硬直がある。

 自分が地面に叩きつけられないように細心の注意を払いながら間合いを計り、顔の中でも一番尖っている口に剣をつっ込む。


 が、弾かれる。本当に一瞬のことだが、多分舌が伸びてきて剣に当たっていたのだろう。

 なぜなら口を押さえて甲熊が転がりまわっているからだ。

 しかし、不用意には近づけない。でか過ぎて、うっかり触れようものなら吹っ飛ばされそうだからだ。


 いくらか転げまわると落ち着いたのか、また両足で立って腕を振り回してくる。


 さっきまでのリプレイのような状態だ。中々ダメージを重ねられないフラストレーションが溜まるが、準備して無い自分が悪い、ここはじっくり我慢だ。


 すると、甲熊の方が痺れを切らしたのか、四足になって頭から突進してくる。


 正直待ってましたの展開だ。両足を肩幅よりやや広めに開き膝を落とす。剣を構えてブロック。

 きっちり正面から受け止めれば、若干のノックバックはあったものの大きく飛ばされることも無く。耐えられた。


 そして硬直した相手の目に剣を突きたてる。口だとさっきの舌カウンター食らうかもしれないしな。


 【訓練】で教官に習ったように剣に精神力を集めていく。


氷剣術 凍牙


 精神力をこの場で思い切り使い切るつもりで流し込む。


 すると、相手の顔が内側から膨張していく。


 突然左目に殺気を感じたので、反射的に顔を背けると長い棒状の物が自分の頬をかすった。


 怯まずにそのまま精神力を流し続けると甲熊の頭が割れて、落ちると共に光の粒子に変わった。


 そのまま体からも力が抜けて完全に体が地面に崩れ落ちる。


 しかし、自分も体から力が抜ける。何のデバフを食らったのか、多分先程の舌の一撃だろう。


 ほとんど力は入らないが、動けないほどではないので、魔鋼のダガーを突きたてて<採集>する。


 甲熊の甲殻と毛皮と牙だ。


 とりあえず、デバフが抜けるまで座って休憩する。魔物が出てこないことを祈りながら。

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