88.そして完全にハイキングである
■ 魚魔物 ■
<解体>すると形そのままドロップ品となる。
大型のものであればパーツごとに分かれるものもあるが、基本的に自分で捌くところから料理する事になる。
釣り等で陸地に出せば、あっさりと倒すことが可能。
ただし、時折水陸両用生物もいるので要注意。
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ポッターに連れられて、山の外側に向かう。
外に出る為の通路はどこの街にもあるらしい、ちなみにサンハッカーの場合はあの入り口にあたる。
アオイクワットの場合は門が四つある。まずサンハッカーからの街道、奥に行く街道、そして外に出る門、最後に謎の門だ。ポッター曰く『僕も許可が無いから謎の門の奥のことは分からない』だそうだ。
後は坑道に続く道だが、これはやや下方向に向かっている。どこに出るわけでもないそうだが、要はダンジョンみたいなものなのだろうか。機会があったら入ってみたいものだ。
山の外側はちょっとだけ拓けた広場だが、そこから獣道がいくらか走っているだけにしか見えない。
「一応ここがセーフゾーンだね。よく見るとところどころに煙が立っているところがあると思うけど、その煙の下がセーフゾーンになっているからね、迷ったら煙を目指して歩いてみて」
とポッターが言うのでなんとなく空を見上げると確かに煙が立っている。セーフゾーンの焚き火から上がっているようだ。
「甲熊がいる場所だけどここから少し上っていったところだから」
「え? すごいアバウト。確かに若干傾斜があるから上りは分かるけども」
「うん、僕も話で聞いているだけで直接行ったことはないんだよね。ただ、上っていくと小川があるみたい、その小川沿いに蜂の巣が作られ易いらしくて、甲熊も現れるんだって」
「まあ、煙を見れば帰ってくることは出来るし、行ってみますかね」
ちなみに今回は単独なので<軍術士>や<行軍>を外して<登攀>と<採集>を入れている。
一応出来るだけ色々なスキルを育てられるように入れ替えはマメに行っているのだ。
ポッターはセーフゾーンで待っているとのことなので、早速山を登っていくことにする。
かなり鬱蒼とした木々の間に獣道が続いている。
正直なところ獣道をそれたらまともに歩けそうも無い。無理やり踏み込めば、低木に引っかかって動けなくなるのが関の山だろう。
枯れた小枝や葉っぱを踏み踏み歩いているとまるで山の中で自分の存在だけが浮いている。自分だけが異物のようなそんな感覚にとらわれる。
ガチャガチャとうるさい足音、ゲームにも拘らず聞こえてくる自分の鼓動。
そんな自分自身にわずらわしさを感じながら山を歩いているとどこからか川のせせらぎが聞こえる。
自分以外の音が恋しくなる程の山の静寂。気持ちは逸るが獣道しか進むべき道は無い。黙々と歩き続ける。
ふと、視界が開けたと思ったら、小川に出ていた。
その小川沿いは先ほどの広場のようにいくらか開けており、少し気持ちが楽になる。
見渡せる範囲には蜂の巣は無いようなので、小川に沿って歩くことにする。
とりあえずは上流に向かうとしよう。
小川の両側は落ち葉が敷き詰められている。ふわふわの感触と落ち葉を踏むかさかさと言う音、小川のせせらぎを聞きながら歩いていると、先ほどまでの狭い獣道を歩いていた時のような、わずらわしい気持ちは無くなり、自然と上を向いて歩いてしまう。
呼吸もいつの間にか深くゆっくりとするようになっている。
ふと、視線を感じる。
殺気の様なハッキリしたものではない、本当になんとなく木々の生える方を見やると鹿が一匹こちらを見ている。
立派な角が生えているところを見るとオスだろう。
口をもごもごさせること5回。
体を完全にこちらに向けると頭を下げて角を前に出して、突撃してくる。
距離もあったので余裕を持って身構えるつもりが、胸に衝撃を感じた瞬間小川まで吹っ飛ばされる。
息が詰まるが、動けないほどではない。すぐに立ち上がり腰のグラディウスを抜く。
よく見ると鹿の角が光っている。角から何か発射されていたのか? はたまた角自体が伸びたのか?
見切ることは出来なかったが、鹿とにらみ合いながら次の動きを警戒していると
小川に浸かっている左足に激痛が走る。すぐさま川から出るように移動すると足に30cm位の魚が噛み付いている。
銀地に青緑色のグラデーションの光が浮いた川魚だ。噛み付いていなかったら風情のある川魚なのだが、今はグラディウスで切り捨てる。
一瞬魚に気を取られている内にまた鹿が突撃してくるが今度は<防衛域>に反応があるとすぐに身構えたので、突撃を受け止める。
硬直すると同時に左に回りこんで首に腕を絡めて喉からグラディウスを突きこむ。
1.2.3.4.5回と突きこむと横倒しに倒れた。
先ほどの川魚と鹿に魔鋼剣のプギオを突き刺し<採集>すると魚はそのまま食用アイテムとしてそれと別にエラが手に入る
鹿は角と肉と耳をドロップする。
本職の<解体>なら皮なんかも手に入るのだろうが、討伐部位だけの頃よりはよっぽど良い。
当たり所が良かったのかそこまで大きなダメージは無かったので、膏薬とテーピングで簡単に回復しておく。
ふと足元の影が動いたと思ったら、また殺気を感じる。今度は頭上からだ。
一気に殺気が膨らみ、来ると思った瞬間には体が勝手に動いて横に転がっていた。
ドスッ!ドスッ!ドスッ!
と三回何かが降ってくる音が聞こえたと思ったら、手で顔を隠した猿が三匹いる。
一匹は目、一匹は耳、一匹は口を隠している。
どう見ても見ざる、言わざる、聞かざるだ。
手で顔を覆っている所為か、ぴょんと高く飛んでキックしてくる。
しかし微妙に3体タイミングをずらしてくるので、いやらしい。
意を決して、一匹目見ざるのキックをブロック、硬直してそのまま落ちる。
と横合いから言わざるがキックしてくるので諦めて肩で受ける。
3匹目は<氷剣術>を発動して受けようとするが、ブロックしか決まらない。
術を使う時の感覚というか精神力が反応しない。
(くそっ)声も出ない。
ダメージはたいしたこと無いが、術封印系のデバフをかけられたということだろう。
このまま行くと見ざるで視界をふさがれ、聞かざるで音が聞こえなくなるのか、
焦らずにまず、聞かざるを串刺しにする。
見ざるはすぐに復帰して距離を取る。言わざると見ざるがこちらを威嚇するように飛び跳ねているが、まず一匹止めを刺す。
すると、残った2匹の体が一回り大きくなる。
先ほどまでよりも機敏に動き、周りを飛び跳ねながら、不意を突く様にキックしてくる。風圧を感じる程に勢いを増している。
しかし、ブロックしなければ始まらない、もう一度意を決して見ざるのキックをブロック。硬直して地面に落ちる。
そして言わざるのキックを今度は背中を丸めて背中で受ける。
ちょっとだけたたらを踏んだが、すぐに見ざるを串刺しにする。3回突き刺すと動かなくなる。
最後に言わざると相対すると毛が逆立ち、先ほどまでの灰茶色から灰赤色に変化しさらに体が一回り大きくなる。そして背中から一対の手が生える。
すばやさは変わらないが、今度は背中から生えた手で攻撃してくる。
かと思えば、背中の手を使いながらバク転したり、側転したり、アクロバティックに飛び跳ね回りながら攻撃してくる。
中々動きを捉えられずにいると目の前にいるはずなのに後頭部に殺気を感じたので、すぐさまそこにグラディウスをまわすと、ブロックできた。
いつだかの嵐の岬の【闘士】が使ってたのと似た技か、今回は蹴られた確信がある。
そして言わざるは中途半端な体勢で硬直したまま地面に落ちる。
そして串刺しだ。
止めを刺すと三匹を<採集>する。
毛皮でも落ちると思ったが、それぞれの牙と丸薬だ。
試しに言わざるの丸薬を飲むと声が出せるようになった……だけじゃない自分の生命力のバーの横にバフのマークがついている。
人の頭を横から見た図を簡略化したようなマークだから精神系のバフのはずだ。精神力系かはたまた術の威力系か術防御系か。<分析>つけていれば分かったんだが仕方ない。
色でバフとデバフの違いは分かる。少なくともバフなのだから素直に喜んで進むとしよう。
気がつくと目の前に蜂がいる。5cm位か? かなりでかく感じる。
目が合ってしまい、動けずにいるとそっぽを向いてどこかに飛び去ってしまう。
慌てて追いかけると獣の唸り声が聞こえる。
無数の蜂にたかられながら、腕の一振りで数十匹を潰し、顔の周りを飛ぶ蜂は口から飛び出す細い舌で絡め取って食べている。
アリクイの顔をした熊が、蜂の巣を抱えて暴れている。
多分こいつが甲熊だろう。頭から背中にかけて随分と硬そうだ。どう戦うか。