87.もはやただの観光である
■ 陶芸家 ■
陶磁器を扱うジョブ
名前の割に芸術家と言うより生産職。日用品に始まり戦闘用品まで作製可能。
土器、炻器、陶器、磁器、ガラス等々窯業全般をこなす。
陶磁器は修理不能だが、その分耐久値が高くノーメンテナンスで使用し続けることが出来る為、消耗品と割り切れば使い勝手は悪くない。
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「ところでポッターさん、本当にまじめに一本道なんだけど、普通ならわき道に坑道とかがあって採掘とかしてるんじゃないの? 線路もあるし」
「ああ、そう来たか。首からかけてるそれで他の国から来たのは気がついていたんですけどね。
ここは街道だからね。まあ山の中をくり貫いただけの道じゃ坑道と差は無いんだけども。
あくまで通り道なわけですよ。線路は荷物運搬用のトロッコが通る道ですので、線路上は立ち入らない方がいい。轢かれたら自己責任です」
「えぇぇぇ、聞いてない」
「あれ? 普通なら門衛さんが教えてくれるんですけどね?
まあ、それなら僕が簡単に説明するとこの国は山脈の山をくり貫いて街やら都やら作っているんだけど、その山によって採れる物が変わってくるから、その採取物によって街の特産品が変わってきますよ。
ちなみにサンハッカーは大河沿いの窓口的な場所であって特産品はありません。他の地域から物を集めて外部の人に売る場所」
「へ~なんでわざわざ山をくり貫くんですかね?」
「それは、ドワーフ的な事情なんだろうね。なんだかんだこの国の中心はドワーフだからね。他の種族に排他的とかって事は無いんですけどね」
「ドワーフ的な事情か~それなら仕方ないか。じゃあ今から向かうアオイクワットは粘土でも採れるんですかね?」
「ご名答! それも陶器用から磁器用と種類の違う物が取れるし、釉薬の材料も手に入る。なんだかんだ金属の国だから、陶磁器とは違うけどホーローなんかも作れたりする。ガラス細工も実はセラミックに入るんだけど【砂国】に譲る部分も有るかなこれだけは」
「で、セラミックアーマーは?」
「まあ、それは現実の話だから残念ながらね。でもなんだかんだ存在だけはするんだけど、ファンタジーセラミック。
隊長さんは革装備みたいだから防具には使えそうも無いけど、盾とか使うならセラミックシールドとかどう? 耐火性抜群だよ。重量も金属よりは軽いから大盾でもそこそこの使い勝手だし、そもそも盾は消耗品だ」
「ゲーム内では消耗品としては扱わないでしょ。盾は結構長いことお世話になってたし本当は使いたいんですけど、旅の最中持ち歩くのにもちょっと邪魔になるからなしの方向でお願いします」
「そっか残念。ところであれ見えるかい?」
だらだらと歩きながらのんびりしゃべっていると、唐突に先のほうを指差すポッターさん。
先のほうに小さな光が見える。出口って事だろうか? しかし街道内も街同様の明かりがあって極端に暗いというものでもない。しかし明らかに明るさが違う。外の光のようだ。
徐々に近づけば近づくほど確信する。どうやら出口のようだ。山をくり貫いた国なのに外に出てしまってもいいのだろうか?
そのまま、その出口から出ると上は抜けるような青空、下は深い谷底が見える、落ちたらただじゃすまないだろう。正面には道と線路、どうやら石橋になっているようだ。
そのまま正面ずっと辿って見ていくと山とトンネルの入り口だ。
「この橋を通って隣の山に入りますね」
「山の外側歩いちゃ駄目なんですかね?」
「出る方法はあるけど、内部とは比べ物にならないくらい強力な魔物に会うからお勧めしないね。
多分強力な魔物を避けて山の中に街を造ったとかそう言う設定があるんじゃないのかと思ってますけど」
「ほ~そうなると最初の話に戻りますけどどこから粘土とか調達するんです?」
「街から専用の坑道があるね。国に所属している者なら立ち入り可能な場所だけど当然許可が必要です。国の管理している坑道で素材を集めて生産活動に使用するって言うのがこの国の一般的なプレイスタイルってわけですね。
中には魔物の出てくる坑道もあるけど、得てしてそういうところの方がより良い素材が手に入るもので、護衛の戦闘職を伴って採掘活動にいそしんだりとかですかね」
そうこうしているうちに辿り着いたアオイクワット。
確かに窯らしき物が家に併設されているところが多いようだが……。
「煙とかどうしてるんです? 窯は有れど煙が無い」
「ああ、それはドワーフ的な排気装置で洞窟内に煙が充満することは無いみたいですよ。ちなみに窯は自分で作ることは出来ないので、専門の窯職人NPCに設置してもらうしかないです」
「嗚呼、ドワーフ的なやつですね」
「そして、ここが僕の工房。知っているかもしれないけど、この前の運営企画の集団戦イベントで超大穴の人が優勝したもんで、たまたま手に入れたあぶく銭で建てた工房なんだ。
彼はすごいよねぇ。ある意味集団戦ならこのゲーム最強って事を証明したわけだし、中には『雇用したNPCが強かっただけだ』なんて口さがないこと言ってる人もいるみたいだけど、【王国】の黒騎士を倒している以上実力は本物だと思うんですよね」
集団戦イベントって事は自分だろうか? 確かに黒いの倒したし、でもゲーム最強ってのはよく分からない。適当に笑って誤魔化しておく。
「さて、陶磁器ですよねぇ。何に使ったらいいか未だに思い当たらないですけどね」
「ん~もし料理とかするならコレなんかどうだろう。なんとこの壷に食材を入れてアイテムバッグに入れると食材保存機能が……」
「すみません自分のアイテムバッグ食材保存機能ついてます」
「そっかー家を持っているプレイヤーだったら、瓦や壁材トイレにお風呂も良いんだけど……」
「基本【兵舎】住まいです。最近は宿か野宿ですかね」
「う~ん、料理するなら食器とか調理器具を良い物にするとバフ効果がつきやすくなるらしいけどね」
「それだ!!自分は旅先で料理するんで、その方向で見せてください」
やっぱり陶磁器といえば王道の食器と調理器具。出るわ出るわだ。逆に種類が多すぎて何を選べばいいのか分からなくなってきた。こういう時はあれだ。
「お勧めは?」
「う~ん、何作るかにもよるけど、隊長さんは見た目立派な料理作るタイプに見えないし、土鍋とかどうです? あとはホーロー鍋かな? 現実とは違って傷つきにくく耐久性もいいし」
「それでお願いします」
土鍋とホーロー鍋を手に入れた。コレで料理の幅が広がる。現実とは違って丈夫って言うのも気に入った。酒も順調に手に入っているしコレで晩酌し放題だ。
なんなら、金属系の街に行ったら網も買って網焼きとかも良いかもしれない。
串だ! 串を忘れていた。それさえあれば串焼きも出来るじゃないか。
後悔があるとすれば、【帝国】で炭を沢山買い溜めておけばよかった。何せ雪と木の文化だ。炭はどこにでも売っていた。石炭も売っていたけど木炭も同じように売っていた。
「まさか、日用品が売れるとは。NPCが買って行ってくれるから一応置いてあったけどプレイヤーに売れるとは思っていませんでしたね。でもやっぱり装備を買ってくれると嬉しかった。なんだかんだそっちの方が儲けが出るって言うのもありますけど【陶芸家】のジョブについてはいても自分はセラミック製品の良さを伝えたいのであって、芸術家じゃないですからねぇ」
と言って工房の棚の一角を見つめるのでついそっちを見てみると、話に聞いていた盾や防具が置いてある。見た目はアーティストっぽいのに何言っているんだろうかこの人は
棚を見るともなしに眺めていると一個だけ気になるものがある。
眼鏡だ。一棚いろんな形の眼鏡が置いてある
「あのこの眼鏡は?」
「ああ、それか目を保護する機能のあるゴーグルだね。冑の形によっては干渉するから人気無いんだけど、ファッション装備としてはそこそこ売れるね。ガラス系は【砂国】の方が強いって言ったけどそれはガラス細工のことだからね、こういう機能追求型のガラス製品は【鉱国】の方がいいかもね」
「諸事情で顔を隠したいんですけど何かいいのありますかね?」
「そうなるとフルフェイスタイプの冑か。隊長さんはフルセラミックスじゃ装備できないだろうから、何か甲殻を持ってきてくれたら、バイザー型のゴーグルをつけた冑を作るよ」
「そうか~甲殻は道中倒した黒い悪魔の甲殻しか持ってないですね。流石に顔に被る気にはなれない」
「ん~実はそろそろもう一段上の粘土が欲しいんだけど、ボス魔物がたおせないんだよねぇ」
「どんな魔物ですか?」
「ゴーレム? みたいな土の魔物なんだけど」
「甲殻無いじゃないですか」
「しかも、剣じゃ相性が悪すぎるからね、両手持ちの鈍器じゃないと倒せないね」
「じゃあ、何故ゴーレムの話をしたんですか?」
「NPCを雇用することで倒せるんだけど、そのための条件として甲熊の蜂蜜酒が必要なんだ」
「最初からそう言えばいいのに」
「強力な魔物の跋扈する山の外側に出向いて甲熊が蜂蜜を溜め込んでいる木を探して、そこから蜂蜜酒をぱくって来る訳だけど、これが結構難易度が高くて自分を含めて結構難儀している人が多いんだ」
「理由は?」
「甲熊は大きくてね蜂蜜を溜めている場所も高いところにあるんだ。木登りができないと手に入らない」
「自分は<登攀>持っているし試してみますか?」
「頼んでもいいかな? サイズ的にはパーティボス程度らしい。討伐報告はあれど蜂蜜酒は中々手に入らないんだ。出現する場所は特定できている」
甲熊を倒して蜂蜜酒を手に入れることでポッターは次のステージに進む、自分は甲熊と言うくらいだから甲殻を持っているだろう熊を倒して素材を手に入れて新たな冑を手に入れる。
まさにウィンウィンって訳だ。
しかしもし自分が<登攀>を持っていなかったらどうする気だったのだろうか?