85.マリーと【商人】の話
前話の表現がちょっと分かりづらかったので補足みたいな話です。
いい装備が欲しければ【鉱国】に行け!
やっと最近そう言われる様になってきた。
相方のカーチとは歳こそ違えど同じ学び舎で育った仲だ。田舎じゃ珍しくない全学年一クラスって言うやつ。
昔から思ったことをそのまま口にする子で、裏表ない性格が私と全然違う。だからこそ気があったんだと思う。
このゲームをはじめたきっかけは一般公開の時のハード購入抽選にカーチと一緒に応募したところネットワークの通信状況と何かの検証とかなんかそんな理由で、当選した。
思ったよりあっさりと二人一緒に当選した上、多少のレポートを提出するだけで、無料になると言うことで、月一でレポートを送っている。
学生のレポートなど役に立つのか不思議だが、アンケート形式の時もあれば、スクリーンショットを撮って送ったり、ゲーム内でのちょっとした実験だったりとその時によってお題が違う。
とりあえず一年で一区切りだったが、その後も協力している。なぜならゲーム内のアイテムを融通してもらえるからだ。
譲渡不可品のため自分で使うしかないし、レアものと言うわけでも無い、だがやはり自分達だけ特別なものを持っているというのは嬉しいものだ。
そんな中私達は【商人】としてゲーム内では活動している。
正直相方のカーチには似合わない気がするけど、当の本人が言い出したことだ。
チュートリアルの時点で、戦闘を投げ出した彼女はゲーム内でお金持ちになると言って【商人】になった。
基本的にこのゲームでは、NPCから買うか、取引に拠点等のNPCを介して行う。
譲渡だけは可能だが<取引>が無いとお金と物品を交換できない。
一方的に渡すだけだ。
もちろん信用が有れば、交互に譲渡しあえばいいが、リスクはあるだろう。
そして譲渡していないものは、仮に相手の手にあっても取り戻せるし、さらに売り飛ばしたり、形を変えたりすることは出来ない。
もし、素材を渡して製作を依頼したければ、NPCの店でNPCかそこに所属するプレイヤーに頼めば、その店が保証してくれる。
店に所属しているプレイヤーが、素材だけ着服するような真似は出来ないし、依頼と全然違うものを作ることは出来ない。依頼の範囲内で形状なんかをいじる程度は可能だ。
つまりNPCをどこかに介在させれば、安全な取引になる。
よって【商人】プレイヤーはそういったロールがしたい趣味プレイヤー扱いを受けている。
そんな中、私達は自分で作ったものを売りに行くのが面倒な職人プレイヤーから製品を買ったり預かったりして、それを売ることで利益を得ている。
実際、材料集めから製作までやって、さらに販売にまで時間を割けるプレイヤーは少ない。
一部のオーダーメイド専門の職人なんかにはそういう人もいるが廃人認定を受けている場合が多い。
普通はどこかを短縮したいだろう。
そして鍛冶生産のメッカ【鉱国】では二つのクランが出来た。一つは生産系プレイヤーの後押しを目的として、初めの頃は方々から集めた素材を生産職に売ることを生業にしていた『ギルド シュミート』
今は生産系プレイヤーの保護と称して囲い込みをしている。
自分達の傘下にのみレアな素材を探してきては与えて研究させる連中。やりたいことは分かるし当初の理念は立派だったけど。今の感じはなんかいやらしい。
もう一つは私達『MoD』生産したものを買い取って需要のある場所まで持って行ったり、預かって売れたら利益の一部を貰う仲買兼小売りと言うか、販売代行業みたいな感じ。後は注文を受け付けて一番その仕事にあっている職人さんに依頼をすることもある。
ただ、クランの名前が物騒すぎて悪役みたいに扱われることが多い。クランの一人から武器商人と言えばコレだからって言われて決めたが、後から意味を知って名前を変えるか本気で相談したものだ。
まあ、悪役と言ってもネタ的ないじりだし、むしろ悪乗りする事もある程度のものだ。なにせやっていることに後ろ暗いところは無い。
一応、相方のカーチは売り子としては程よく押しも強いし悪くないと思っているんだけど、何分駆け引きと言うものをしない性格。
私も別に得意と言うわけではないが、誰かがやらねばならない。そして、今回はあの地味な人だ。
噂通りなんとも言えない格好をしている。
そして、あの押しの強いカーチが、あしらわれている。
仕方が無いので、いつものお姉さんキャラを出しながら近寄って声をかける。
「あまり、からかわないであげて?」
明らかに怯んでいる。別に悪いことをしたわけでもないのに随分と正直な反応だ。
そして、捕まえて肝心な事を聞くことにする。相手の反応を探りながら相手の欲する情報やそれに変わる物なり代金なりを見出さなければ。
しらっとどこかに行かれたとしても止め立て出来るような弱みを握っているわけでもない。
最低限の誠意を持ってまずはこちらの欲する情報が何かを伝える。
「なんで、離さないのか疑問に思ってるみたいね?あなたアレでしょ?大量に物資を持ち込んだ輸送隊のメンバーでしょ?一人だけプレイヤーが混じってたって噂になってるわ。
特に【商人】の中ではすでに有名よ。全身タイツの上に装甲を貼ってる。変身ヒーローのなり損ないみたいなプレイヤーが大荷物を一気に運ぶ手段を手に入れたんじゃないかって、そして自分たちを出し抜いて一攫千金を狙っているんじゃないかって」
ちょっと脅しのようになってしまった。こういうのもうちのクランが悪役風に言われる一つかもしれない。気をつけないと。
しかし、よく平気でしゃべる人だな。情報の対価とか条件とか出したいけど、そんな事言うきっかけすらない。わざと吹っかける様に更なる情報を聞いても澱みなく答える。
挙句に武器見せてって言えば素直に見せるし、初めて見る品質の良さにお店を聞けば、それも気負いなく答える。
いっそ全部嘘だったらと思うけど、私のスキル<看破>には全く引っかからない。
私以上の隠蔽系のスキル使いか、本当のことを言っているかだ。
一応酒屋の場所を聞いてきたからカーチが教えてあげてたけど、対価には全然見合わないものね。
一番早いのは本当に輸送されて来た物が【組合】で捌かれるか確認して、後は【帝国】のお店を確認って所かな?もしかしたら新たな仕入先が見つかるかもしれないし。
いきなり借りが出来てしまった。あの人もカーチも別に気にしていない風だけど、私には気になる。行く行く借りを返す機会を探して、このプレイヤーをマークしておこう。
MoDは マーチャントオブデス ですね