80.イグラントにて
■ 上級士官 ■
連隊、大隊の隊長もしくは参謀となる階級
通常は【帝都】軍学校卒から幹部となる為の経験得て勉強をしつつ昇進し、この階級に上がることになるが、あまりにも武功を積み重ねて、ここに至る可能性もある。
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身だしなみを整えて『イグラント』へ
当然武器等は装備しない。アイテムバックに全てつっ込んで持っていく。多分現地で預けることになるだろう。
上級区に入ると前回は気がつかなかったが、いかにも綺麗な身なりの人が多い。
よくよくさらに見ていくと、軍の制服らしきものを着ている人もいる。自分の礼服とは違うが、中央の内勤って事なのだろう。
仲間だと思われて声をかけられても何を話したらいいか分からないし、ここは適度な距離を保ちつつ、知らぬ顔をしよう。
別に悪いことをしたわけではないのだが、あまりにもなれない環境に、立ち入り禁止区域に入ったようなやましさを感じる。
何とか無事に誰にも声をかけられずに目的地に着いた。
入り口の【兵士】さんのいかにも支給品な格好に癒される。【古都】の装備よりは綺麗だし高そうだけど。
今回は顔パスで通されたので、自分で受付に行く。
すると一人の係りの人が案内してくれるとのことなので、ついて行く。
階段を上がったり下がったり、もういくつめか分からない角を曲がり、完全に自分のいる位置が分からなくなってきた頃、ようやっと一つの部屋にたどり着く。案内の人は外までらしいので一人で入ることにするが、一呼吸入れる。
さっきの複雑な道はきっと敵に攻められた時の事を想定しているのだろうが、いくらなんでも複雑すぎて、迷いそうだ。もし仮に偉くなってもここでは働かない。
余計なことを考えながら扉をノックすると「どうぞ」と声がかかるので入ることにする。
この声は幕僚総監だ。何度か会っている人だし何とかなるだろう。
中には数名の人がすでに掛けて待っていた。
自分から見て左は幕僚総監だ。右手は式典で見た気がするが誰か分からない。
中央に座っている人は、礼服だがマントを羽織っている。服の形こそ似ているが細部の装飾が断然凝っているし、金綺羅金だ。
そしてその人の背後に控える二人。一人はそこそこ若い女性で、オレンジのショートカットに軍服だけどなんていうか物凄く出来る人の空気が漂っている。
もう一人は男性だが細身で身長もそこまで大きくは感じないが、しかし俊敏そうと言うか、しなやかな雰囲気だ。猫科のような雰囲気とでも言うのだろうか。多分中央の人の護衛だろうな。
しかし、まずいなこういう場合の対応は聞いてないぞ。ルークかでなけりゃボエニーでもいい、誰か助けてプリーズ。
そう思っていると天の助けが、幕僚総監の方から話を振ってくれた。
「ふふ、そう緊張しなくて良い。公にすることの無い、内示だ。そもそも本来は私と軍務尚書だけで行う予定だったのに、全く」
と嘯いている。なんとなくいつもの雰囲気のままで大丈夫なんだろうか?
「まあ、そう言うなクーラよ。余も話してみたいでは無いか【ニューター】の中では現状最高の指揮能力を持つとされる者をな。あの祭りの時の決勝戦はなかなかの見ものだったぞ。
まさか、支給品のショートソードで【王国】の【ニューター】を代表する騎士とあそこまでやりあうとは思いもしなかった。
何より黒い騎士を倒した時には、剣鬼の狂気が乗り移ったかのように見えたがな」
中央の人が楽しげに自分の事を語っているが、多分この人、
皇帝陛下だよな?何て応えればいいんだ?いや、まじで。下手な事言ったら、後ろの護衛の人に一瞬で殺られるんじゃ無かろうか。
「ああ、本当にいつも通りで大丈夫だ。内々のことだし、ざっくばらんに話してもらっても気にするような方じゃない。
まあ、とりあえず今回の件の概要のおさらいとこれからの行動について説明した後、君に今回の件に限った階級を与えるから」
と、幕僚総監。ざっくばらんて言われてもめっちゃ困るわ。そして名前と所属を本来言わなくちゃならないんだろうけど、完全にタイミング逸したわ。まあ、向こうは分かって呼び出してるわけだし今更か?
「では、その件は私から。とは言え、公ではないので簡単に説明する」
あれ?前の式典の時は物凄く難しくて意味が分からない話しをする人だったのにな軍務尚書。
「氷宝樹がスライムに侵食されたが、ヒュージスライムをお主が倒したおかげで氷宝樹については事なきを得た。しかしその際他の宝樹の様子を見てきて欲しいと依頼を受けている。
すでにそのことは宝樹のある国には通達済みであり、お主に限っては宝樹に会う事を許可されている。なので宝樹を巡り様子を見てくる旅に出て貰いたい。
そこで問題となるのがもし他の宝樹にも異変があった場合の対応である。
他国と摩擦を起こさない程度に介入するならば、特に許可を求める必要は無い。
基本はその宝樹のある国が対応することである為それ以上の介入は好ましくない。
ただ、まずいことになりそうな場合は連絡だけは入れること」
すごいまとめてきた。式典の時もそうしてくれれば良かったのに。
「まあ、そういうことだ。余としてはそなたに解決してもらいたい。なぜならばそうすれば【帝国】から英雄が生まれるからだ。英雄の物語ってすばらしいと思うのだ。
宝剣を持ち、世界の管理者の一柱である宝樹を救う英雄。その宝剣は宝樹から出来ている。そして・・・」
「陛下それ位にしておきましょう。
さて、君も今回の件を断るつもりでわざわざここまで来た訳ではあるまい?まあ、すでに諸々準備が整っていると言う報告も受けているがね。何か質問はあるかい?」
「じゃあ、一つだけ、よく他の国が許可出しましたね?一介の【士官】とはいえ【帝国】の息のかかった武装勢力が重要な戦略物資でもある宝樹に面会するなんて事」
「なにせ宝樹から直接の依頼だからね、神の代理人であり、世界の管理者の一柱の意思を邪魔できるものはそうそういないよ。がんばって逝ってきたまえ」
「よし!では、余じきじきにそなたに授ける階級は【特務上級士官】だ。今回の宝樹にまつわる異変については【上級士官】同等の権利を持つ。つまり【士官】に命令をしても良い立場となる。
これは、わが国と相手国の面子を考えた上で絶対必要な措置なのだ」
「陛下のおっしゃるとおりに大事なことだから。こちらとしてもただの【士官】を送り込んだとなれば、足元を見られる可能性もあるし、相手の心象も悪くなる可能性もある。だから相応の地位の者を送り込む必要があるんだ」
「分かりました。とは言え他国で階級振りかざしてもしょうがないですから、あくまで体面上の物と心得ておきます。ちなみにどの国から回ったほうが良いとかそういうことは?」
「うむ、わが国にとって一番近く縁のある国で、さらに宝樹が存在するとなれば【鉱国】だ。
大河沿いにひたすら上流に向かえばその内入り口が見つかるだろう。
【運び屋】の【営業所】と相談して向かうが良い。ただ宝樹を巡るだけではつまらなかろう。君には色々と期待している。陛下も私もそれから軍務尚書もね」
「期待に応えられるかどうかは分かりませんが、出来ることをやってきます」
「それで良い。どうやらその方は剣鬼とは違って程よく力が抜けているようだな。ある意味逆の性格ゆえに見えるものがあったのか。しかしどこと無く持っている狂気は似ている気もする。
コーシカ、その方はどう思う?」
皇帝陛下が後ろの護衛の人に尋ねる。
「剣鬼殿とは残念ながら剣を合わせたことがございませんが、彼の立ち姿を見る限り一筋縄ではいかないでしょう。陛下のおっしゃる狂気と言うのは自分には分かりかねますが、あらゆる攻撃を受けきる雰囲気を感じます。捌くことや避けること先の先を行くことも覚えれば、手がつけられないかも知れませぬ」
「ふむ、今のところはコーシカ殿のほうが上か。精進すると良い、まだ伸びる可能性は有るとのことだ」
と軍務尚書がフォローを入れてくるが別に気にしているわけではないのだが。
「旅先でも機会があれば、力を得られるよう努力します。それではまずは【鉱国】へ向かい宝樹の様子を確認してまいります」
と敬礼をして部屋を立ち去る。
帰り道をどうしようかと思ったら、係りの人が待機してくれていたので後ろについていく。
最初の目的地は【鉱国】となると確か鍛冶が有名な国だったし、プギオを見てもらうか。正直それ位しか金属については思い当たることが無い。なにせクラーヴンに頼めば装備もフライパンも更新できるのだ。
上級士官だと少し長くて語呂が悪い気がしたので、長官にしようとも思ったのですが、現代において長官だと一番偉いヒトになってしまうので、上級士官に落ち着きました。
我ながら階級の多いゲームだなって思います。
何故こうなったかはよく分かりません。