8.外の世界へ
■ 天大橋 ■
【古都】北門よりほぼ真北に丘を登りきったところにかかる大橋
そこには、遠い昔から亀裂のような谷間が広がっている為【古都】を預かる為政者は資源を求め 物流可能な橋を建設した
何度と無く改修された橋だが 資源搬入の重要拠点であると同時に
魔物の【古都】への侵入を阻む防衛拠点にもなっている
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
北門を出るとすぐに門の内側とは比べられないほどの寒さだ。
木が、鬱蒼と言うほどでもないが、それなりに多く生えており、雪も積もっている。
門を出て左を見ると少し行った所に大きな倉庫が、正面には一直線に丘の上に向かって伸びる道がある。
雪の中でも道が分かるという事は、それなりに行き来のある道なのだろう。
「ここの木は【古都】の燃料として使われている。切り倒すにも許可が必要だから、そのつもりで、勝手な伐採等は行わないように」
教官がわざわざ解説をするということは、自分と同じように門の外に出たことの無い者もいるのだろうか。
「さて、目的地に行くには真北に進めば良いのだが、荷馬車でこの雪の中、丘を一直線に登りきるなど無理もいいところだ。全員で押すこともできるが、いつもそういうわけには行かないだろう。まず、左手に見える木材置き場を目指す。そこから回り込むように丘を登って行く」
なるほど、あの大きな倉庫は、木材置き場だったか。要は薪にする木を乾かす場所なんだろうな
つい、きょろきょろと辺りを見てしまうが、魔物は、見つからない。
木と雪しかない場所なのに、おのぼりさんみたいだな自分。
まあ、仕方なし、初めての場所なら誰でも不安にもなるし興味も湧くってもんだ。
木材置き場に続く道は、真北に向かう道よりさらに、雪が少ないところを見ると、重い荷物は皆こちら側の道で運搬しているわけか。
当たり前のことをつい自分の中で、反芻して確認してしまう。相当緊張しているようだ。
その後も、きょろきょろしながら、列に付いていくといつの間にか丘を登りきっていた。
そこには馬車が通れるほどの一本の大きな橋がかかっている。
流石に行き交うことは無理であろうが、安心感のある堅牢な雰囲気が漂っている。
下は見えぬ程と言えば極端だが、ビル何階分かはちょっと自分には分からない深さの谷になっていた。
その橋を馬車が一台づつ順番に渡って行く。
耐加重は分からないが、馬車一台につき5人がくっついて渡るようだ。
幅は広いが距離は短い橋だから、この方式が良いのかもしれない。
自分も橋を渡り終えると、橋の上に重装兵数人が橋のこちら側と向こう側を塞ぐように立った。
寒い中お疲れ様です。
一応火は焚いているが、丘の上の吹きっさらしじゃ寒いだろうに。いくら橋の両側に壁があるって言っても、しんどいぞコレは。
かつて、社長の親族が亡くなったときのことを思い出す。
ちょうど前日の晩雪が降って、異常なほど寒い日に駐車場で弔問客の案内をしたんだ。
見たこともない社長の親族の通夜と葬式で、な。
いくら冠婚葬祭が大事な行事でも今はいくらでも業者いるでしょうに。
お金もしょっちゅうリフォームだ家具買い替えだ車の洗車だ、買い替えだってやってるんだから、無いわけ無いでしょうに!まず、残業代払おうぜ!
おっと荒んだ心でこんな折角の銀世界を染めては、いけないな。
町の中もリアルだったが、外はもっと綺麗だ。真冬の雪山に行った時のことを思い出すな。
いや、人工物が少ない分こっちの方が綺麗か?いや、こっちは全てが人工物か。
混乱してきた、まあ、いいや。
その後も、できるだけなだらかな道を弧を描くように進んでいくと。結構な大きさの砦があった。
ほとんど断崖みたいなところに建っているが大丈夫なんだろうか?
多分橋を渡り終えてそのまま真北側が、低くなっていたからあっちの道がここの断崖の下につながっているのかもしれない。
さあ、あと一息そんな時にいつも事件って起きるもんだ。
車列の右手側からやたらと騒がしい鳥の鳴き声が聞こえるかと思ったら、
あっという間にこちらにその鳴き声が迫ってくる。
「総員、抜剣!戦闘準備!」
教官の掛け声とともに武器を構え車列の右側を見つめる。
現れたのは、恐竜?何だっけ小さいティラノサウルスみたいな。
ちなみに自分の恐竜知識は・・・そんな状況じゃない!
車列右側に並んでいた連中が一斉に飛び掛かる!!
いや、興奮しすぎじゃない?いくら何でも自分らより大きい恐竜に飛び掛かるとか大丈夫かよ!
自分と同じ車列左側の連中も車列の隙間を抜けていこうとする。
いや、敵一匹だからね!同士討ちのが怖いよ!この状況!
何とか宥めなきゃ。
「ダメだ!左列!突っ込むな!馬車の周りを固めろ!」
それだけ言うのが精一杯だ、皆興奮して全然聞こえてない。
かく言う自分も興奮してるって言うか熱に浮かされてる。
さっきの掣肘もちゃんと言えてたか分からない。
ダメだ、落ち着こう。敵を見るからいけないんだ、馬車を背にして左の林の中を見るんだ。
皆右側を見てるんだし自分が左見てても問題ないだろう。
そんな事をしていると謂れ無き評価をされたときのことを思い出す。
「皆で一つのことをやっているときに自分だけ勝手なことやりやがって!」って社長に怒られたときのことだ。
誰も電話に出ないから自分がいつものお客様から頼まれた仕事を片付けていたら言われたことだ。
その前も、後も社長が率先して通常業務放り投げさせるから自分と直属の上司で休みに出てきて、片付けたんだ。
散々振り回しておいて何の実績も上げられなかった事の八つ当たりしやがって!誰も何も言ってないのに、勝手な被害妄想で当り散らしやがって!!むしろ社長が勝手放題やって、いつものお客様の仕事を忘れ腐ったことで、お怒りの電話をもらってるんだからな!!!常連客を何もしないでもお金落としてくれるどころか、こっちのが専門知識持ってるんだとばかりに見下してるからそうなるんだ!!!!
その時、雪の中で、何かがもぞもぞ動いてるように見えた。
一気に体温が冷え込む、と同時に抑えきれない気持ちが湧き上がる。
『来い!』
現れたのは、白い百足 1メートルはありそうだ。
普段だったら気持ち悪くてしょうがないだろうが、この時はもう、治まらなかった。
足場の悪い雪の中を強引に突っ切る。
百足が飛び掛ってきたところに両手で剣を叩きつける。バットのスイングのようにぶん回しただけだ。
まあ、野球のボールよりは遅いし顔面にきっちり当たったはずだが、口から何かの液を垂らしながら、雪の上に倒れこむ百足。
口から垂らしてる液がやばい感じがしてしょうがない。
戦闘になったにも拘らず背負いっぱなしだったリュックを急いで外し、その勢いのまま頭に叩きつけ、足で押さえ込む。
見えてる体の節の部分に体重をかけて両手で剣を突きこむ。
蠢いて、頭はリュックから逃げようとするし、尻尾も体にガンガン当たってる。
だが、百足の体勢が悪い所為か、吹っ飛ばされるような勢いも痛みも感じない。
とにかく全体重をかけて、節に剣を捻じ込む。
どれだけ経ったか分からないが、急にストンと手ごたえが無くなり、雪に剣が埋もれたと思ったら。
百足の体が切断されていた。
馬車のほうを振り返ると、とっくにそっちの戦闘は終わり、なんか自分の方を見ているようだ。
いや、空気に流されて一人で戦っちゃったけど、先に暴走したのそっちだからね。
なんとも気まずい空気の中リュックを拾い、一応百足に触れていたであろう部分を適当に周りの雪でぬぐってから、背負いなおす。
雪に埋もれた剣を拾いコレも一応雪でぬぐってから、コートの裾で水気を取って鞘に戻す。
隊列に戻ろうとすると教官が、
「雪百足の討伐部位は、尾脚だぞ。もしくは、<解体>持ってる奴で百足捌ける奴はいるか?」
と周りに声をかけたので、止まってた空気が動き出したかのように、同僚たちも動き出した。
一人小柄な少年?が、ナイフを突き立てると、百足は光の粒子になってふわっと舞い上がって消えた。
「これ、雪百足のドロップ品です」
といって渡してきたのが、〔尾脚〕〔顎肢〕〔甲殻〕×15〔毒腺〕だ。
「いや、〔尾脚〕だけでいいよ。」
「ダメですよ!単独で倒したんだから!どうしてもって事であれば、この〔毒腺〕を下さい」
ちゃっかり欲しいもの要求してるじゃないか。まあ<解体>して貰わないと手に入らなかったんだしかまわないさ。
なにより、自分が何を欲しているか言わずにただ不満を溜め込まれるよりよっぽど健康的だ。
「じゃあ、それで」
〔毒腺〕以外を受け取る。そう言えば最初の恐竜どうしたんだかな?あの人数いたんだから問題ないか。
ドロップ品とは言え、百足素材は気持ち悪いな。ちなみにドロップ品は、最初のチュートリアルでもらった鞄に入れている。
ベルトに通して腰につるすタイプの鞄だ。RPGっぽくて気に入ってる。容量は5×5スタックだ。多いのか少ないのか全然分からん。
初期チュートリアルでもらった初心者ポーションと今の百足ドロップしか入ってない。〔甲殻〕は、1スタックに纏まる様だ。
鞄の中身は鞄に触って中身をイメージすると何が入ってるか分かる仕様だ。半透明のウインドウとかじゃない。
人の鞄に触れても中身は分からないが【盗賊】とかそんなジョブがいたらどうなるんだろうな。
とりあえず皆落ち着いて、隊列をちゃんと戻したようだし、脱落者も出なかったようだ。
砦にみんなで入るときふと思うのだった。
盾支給してもらうの忘れてたよ。
戦闘描写で、思ったより長くなってしまいました。
どこで切ればいいのか分からず、読みにくいことがあれば、申し訳ないです。