79.【帝都】にて
■ 上級区 ■
【帝国】の政治的中心地
それぞれの施設はどこも警備が厳重である。
貴族の居住区もあり、高級店も存在するが店舗と言った風情ではない為、見知らぬ者がふらっと立ち寄るようなものではない。
そう言った堅苦しさを嫌い、あえて一般区で買い物をする貴族も多い。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
呼び出しがあったので、急いで運びの仕事を切り上げて、ポータルを使い【帝都】へ
前回は何気にルークの指示に従って動いたが、今回はどうしたものか。そもそも大本営の場所が分からない。
仕方なしにポータルの【兵士】さんに訊ねたが、土地勘の無い自分にはいまいち説明が分からない。
どうにか【兵舎】の場所だけは分かりそうだったので、そちらに向かう。一応ちゃんと言われたとおり礼服は着ている。
なんかちらちらと階級章と勲章を見られている気がするが、別に普通の【士官】で勲章も魔物から手に入れた二つだけだ。何も珍しいことは無いだろう。
【兵舎】の受付に行くといかにも歴戦の【兵士】と分かるごっついマッチョのスポーツ刈りのおっさんがいたので、大本営の場所を訊ねる。
しかし、なんでまた【兵舎】の受付はごっついおっさんばかりなのだろうか?
「はじめまして、こんにちは。大本営から呼び出しを貰ったのですけど、場所が分からないので教えてください」
「む?ここらじゃ見ない顔だな。服を見る限り東部輜重隊の【士官】か、しかも下賜品ではない勲章が二つとはなかなかやるようだ。『イグラント』だと上級区の方だな。ここからも見える城が『帝城』だ。帝城から放射状に都は広がっているが、都を南北に分断する壁の帝城側が上級区だ。別に入るのにコレと言って審査がいる物ではないが、用も無いのに近寄る場所でもない。
帝城を北端として壁際を東側に進むと堅牢な施設がある。黒い石を積み上げた施設だ。
そこがイグラントだ。中のことはそこで聞くといい。結構広いからな、そこで案内してもらうのが一番間違いが無いぞ」
「ありがとうございます。行ってみます」
と言ってとりあえず、城の方向を目指していく。首都だけあって活気があり、ごみごみしてたりもするが、城だけは見失わない。
すると壁があるので、手近な入り口から入り、今度は東に進む。
すると黒い壁に突き当たる。かなりの距離をその壁が続いている。城ほどの高さこそ無いが、どこまでも続く壁は重厚感があり、軍事拠点としても国防の要としても相応しい外観だ。
入り口の【兵士】さんに来訪の旨を伝えると受付に案内されて、正式なアポイントを取る事になる。
次回ログイン時に再度ここを訪ねればいいらしい。
まあ、そりゃそうだ。いくら呼び出されてすぐ来たとは言えお偉いさんの手がそんなに早く空くわけも無い。
自分としては普通に兵長から辞令を貰うだけで良いんだが、今回の件はそれだけ重要な案件なんだろう。スライムが出ただけで、大騒ぎだったしな。
とりあえず【帝都】の【兵舎】に戻り、装備をいつも通りに戻して少しぶらつくことにする。
前回の出陣式の時は緊張していたし、碌に観光も出来なかったからな。
そうは言っても初めての場所であても無くぶらつくのもちょっと勇気がいるものだ。
こういう時は素直に聞くに限る。
「兵長!少し観光でもしようと思うんですけど、お奨めはありますか?」
「俺は兵長じゃないぞ。【古都】の兵長は変わり者だから自分で【兵士】を見てその適正に合わせて仕事を割り振っているらしいがな。うちの兵長は普通に書類仕事をしている。
本来兵長ってのはそれぞれの地域の基地の責任者だし、それこそ大きな案件じゃなきゃなかなか顔も合わせるもんじゃないからな。まあ、うちの兵長も変わり者だがな」
「そうだったんですか【古都】の兵長は変わり者で【帝都】の兵長も変わり者と。ところでどこか観光スポットってありますか?今日はもうこれから任務って感じじゃないので」
「【古都】の【兵士】ってのは大丈夫なのか?まあ、別に勤務時間外に何していようが構わないがな。
南側は大河に沿って様々物資の搬入口になってるからことさら賑やかだな。装備や何か作り物が見たければそっちだな。
逆に北側は先にも言ったが上級区だ。貴族ともめてもつまらないし、あまり近づかない方がいいだろう。まあ、そうそう争いごとになることも無いがな。
貴族でも平気でこっちの一般区に来てることが多いしな。なにせ武官の家の跡継ぎや子女をあえて一般区や地方都市の【兵舎】で経験を積ませる事を教育方針にしてるなんてのが普通だからな」
「なんていうか以前から話を聞いてると随分おおらかと言うか、脳筋と言うか、世界制覇にうってでないのが不思議なほど、軍事寄りの国ですよね」
「まあ、建国の言い伝えからして小国家群を武力でまとめて今があるからな。ただその時の犠牲も大きかったらしく不必要な戦争も行わないけどな。逆に防衛の為の出費も惜しまないってだけだ。
そして建国時の功臣たちも必然的に武官が多くなるが、変に政治に口を出さないって言う暗黙の了解がある。むしろ、俺たちの知らない何かのために日々軍事力の増強や兵器開発を行っているようにも見えるな」
「へ~なんか怖いものですね~。ちなみに東と西には何がありますか?」
「もう、観光のことしか頭に無いんだな。まあ良いがな。
階級章見る限り【士官】の筈なのに、しかも下賜品じゃない勲章二つ片方は『ケントリオの称号』だろ?下手をすれば先にあげた貴族の子女も率いる立場だってのが、分かってないな。
後はそうだな、ポータルを中央として周辺は商店や飲食店が多くて華やかだな。
西側は海から来る物資の搬入口だから他国の物が多いし、珍しいものを扱う商店が多いな。
東は必然的に居住区が多い。まあ、別に他の地域に居住区が無いわけじゃないがやはり静かなところで寝たいだろ?ちょっとした飲み屋だったら東だな。常連が多いが静かに飲む分には十分だ」
「ありがとうございます。ちょっと行ってきます」
色々と見て回りたい気もするが、今日は間違いなく東だな!ゲームの飲み屋を堪能しよう。酒場と表現しないところが良い。
だってRPGと言えば、情報は酒場に集まるもんだぜ?って感じなのに、飲み屋って!ここの運営の趣味がよく分からない。むしろ心弾むわ!
行ってみるとBarって程おしゃれではないが何か洋風なお店だ。パブってやつかね?濃い目のウッド調のお店で入るとカウンターの隅を案内されたので椅子に腰掛ける。
メニューは透明な蒸留酒と芋とウインナーだ!潔い!
食べ物だけなら持込みしても良いみたいだ。
いくらか払えば厨房も借りれるみたいなので、簡単におつまみを作ることにする。
一つ目は厨房を借りるついでに売ってもらった芋をゆでて、潰して、片栗粉と混ぜて塩と混ぜる。
十分に混ざったら少量の刻んだ韮を入れてそれも混ぜる。
後は、揚げるだけ、もう少し調味料があれば良かったんだけど致し方なし。
揚げたついでにもう一品、こっちはもっと簡単、アリェカロチーズを食べやすい大きさに切って、揚げるだけ。
韮の芋もちとチーズ揚げって所か、氷を入れた蒸留酒と一緒にいただくとする。
ゲームの中で晩酌をして、程ほどに【兵舎】に戻りログアウトする。
今度は『イグラント』で、辞令を受けなきゃならないわけだ。なんとも仰々しいとは思うが、式典に参加するよりはよっぽどマシだと思って、行くしか無いか。