78.並び立つものなき
■ 氷水晶 ■
氷宝樹の根、未精製の状態の物を指す。
国家で管理されている非常に貴重な水晶
氷宝樹は樹の為年々根を伸ばしサイズも大きくなっているが、取りすぎれば当然悪影響が出る。そのため氷宝樹と話すことの出来る者がどこからどの程度採取しても良いか聞いたうえで採取が行われる。
氷精が宿る素材としては最高級品。一定のクエストイベントの時にしか手に入らない。
もし無断で取ろうものなら即指名手配される。
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準備はおおよそ目途が立った。
後は【運び屋】ジョブクエストをこなしつつ【帝都】からの連絡を待つばかりだ。
いつも通り受付に行くと
「おう、例の宝石の件手に入れておいたぞ。後アンデルセンから素材も預かってるからとりあえず両方受け取れ」
と言っていきなり兵長から渡されたのが、一つは透明な水晶?の中に雪の六角の結晶が浮いている物。
もう一つは明らかに皮だな。どう見ても蛇皮だ。死と再生の蛇から剥ぎ取った素材の一部だろう。今回は加工して無い状態のものなのか。
「見て分かるとおり、氷水晶と蛇皮だ。皮についてはアンデルセンから『クラーヴンに聞いたぜ』って事だ。特に対価も要求しないらしいから貰っておけ」
「氷水晶ってあの洞窟の名前ですよね。嫌な予感がするんですけど」
「何が嫌なものか罰が当たるぞ。宝剣作製の端材とは言え宝樹の根だ。特に生成はされていないから瘴気生物に対する特効は無いが、原石のまま使用する方が宝石として使う分には勝手が良いだろう。
今回の件で特別に使用許可が下りた。宝剣と違ってお前の物として使用して良いそうだ。氷精の宝石の中では最高級品だぞ。何せ国の戦略物資だからな」
「そんな戦略物資をポンと無償で出されても困るんですけどね」
「まあ、前の大会の時は地位を受け取らない。今回も単独でこそ無いがなんだかんだ武功を上げている。しかも宝樹から直接依頼を受けた者をないがしろに出来まい。
さらにはこれから秘密裏に単独任務だ。他国のことじゃそうそうこちらも口出しできない。そんな不利な状況下で自分の判断で宝樹の様子を確認しろなんていう無理押ししてることを上も気にはしているんだ。
なによりお前は期待されてるってことだな。他の【ニューター】達よりよっぽど信用されている」
「なにやら期待が重過ぎるんですけどね」
「もし、これが何かの陰謀で、宝樹たちが本当に危機に晒されているとしたら、そしてそれをお前が救ったとしたら、もう世界を救った英雄ってことになるな。よっこの英雄候補」
「まじで勘弁してくださいよ。自分の仕事は宝樹の様子を見ること、そしてそこまでの道のりは邪魔しないでくれるって言う宝樹のある国との密約がある。それで十分でしょ。とりあえずこれらはありがたくいただいていきますよ。【帝都】から呼び出しがあるまで【輸送】と【運び屋】の任務をやってますよ」
と言って、さっさと【兵舎】を飛び出す。
途中クラーヴンの所により受け取ったものを渡しておく。
そして【営業所】へ
「こんにちわ、仕事を請けに来たんですけど」
「よう、待ってたぞ。この前言われたとおり【帝国】東部の仕事をまとめておいた。どれくらい受ける?」
と言って荷物の山を見せられる。
「鞄に入る限界まで受けましょうかね?」
「そいつは無理だ【ニューター】の鞄には運びの荷物は入らない。別途普通の鞄に入れるか小脇に抱えるか何かに乗せるかだな。後、運びの任務を受けてる時はポータルは使えないからな?」
「なぜ?全ての意味で何故?効率が悪いじゃない」
「全ての意味で神様の思し召しだ。世界はそうやって出来ている。まあ、おかげで【運び屋】系のジョブだった【ニューター】は軒並みいなくなっちまって、困ってるんだ」
なんか、現実の配送業者の人手不足を思わせるんだけど、
どこも手が足りなくて遅れも仕方が無いって状態なのに、終業時間に間に合わない配送業者を一々罵倒する社長、挙句にあそこだけは行きたくないなんて言われて。おかげで取引先の配車係を困らせて、話をする度謝るこちらの身になってくれ社長。まじで世間の事とか気にしてくれ!日本語読めないのは知ってる新聞を読めとは言わない。テレビでもラジオでもいいから聞いてくれ!
っと、つい現実の嫌な思い出が浮かんできてしまった。
しかし、鞄に入れられないとするとこの量を運ぶにはあれだな。
「じゃあ、ソリ借りてきます。荷物が雪で濡れない様にカバーとか掛けられますか?」
「カバー位は用意してやるぞ。ほんとに手が足りてないんだ。任せる」
と言うわけで、渓谷から避難している街長さんの所に行き、以前借りたソリとアリェカロを借り受ける。瘴気の元を断ってくれたお礼だとか言われたが、普通に任務でやったことなので、多少ながら対価を支払う。
荷物を積載して、北門に向かうと中隊の皆が待っていた。
「皆久しぶり!今日はどうした?」
「どうしたじゃないですよ!もうすぐ他国を回る旅に出るんでしょ?その為に【輸送】と【運び屋】の任務をやるって聞いたから集まってたんじゃないですか!【輸送】の方の物資は準備できてます。そっちの荷物も隊列に入れて運んじゃいましょうよ」
「そっか、ありがとう、助かるよ。
よし!じゃあ、皆やっと自分達の本領を発揮する時が来た!今まで培ってきた土地勘と経験に物を言わせて【帝国】東部の荷物は根こそぎ運んでしまおう!ここいらのシェアは独占させてもらう!ことこの地域において物を運ばせたら自分達の右に出るものはいない!どうやら【運び屋】の【営業所】も人手不足で困っているようだ。この地域で世界最高の物流循環率をたたき出してやろう!『行くぞ!』【帝国】東部輜重隊!出動だ!」
「「「「「うぉぉぉぉぉ!」」」」」
敵がいないので士気こそ変わらないが、全員一丸となって今回の任務に力を貸してくれるようだ。
ぞろぞろと隊列を組んで歩く。久しぶりにこの隊で歩くとたのもしさを感じる。
一糸乱れぬ動き、十全の警戒態勢、それでいながら消耗しすぎるようなことは無い、程よい緊張感とリラックス感。そんな懐かしさや安心感に浸っていると。
「隊長、さっきはなんとなく雰囲気に乗っかっちゃったけど本当にシェア独占とかして大丈夫なんですか?後珍しく檄なんか飛ばして、何か有ったんですか?また責任を感じてるとか」
「ああ、自分も雰囲気で言っちゃったけど多分仕事の割り振りとかは向こうでちゃんと調整してくれるから大丈夫だよ。後、テンション高かったのはあれだ。ここ最近、やれアレと戦えコレと戦えばっかりだったろ?【兵士】だから戦うのは当たり前なんだが、輜重隊としてはなんだかな?やっと本分に帰れたと思うとつい力が入っちゃっただけさ」
「まあ、隊長のことだからそんなもんですよね~」
「ふっつまり遠慮なくやってしまって良いってことだろ?そして、いつもの【輸送】の合間の【管理】任務はなしと。なぜなら運びの任務は【営業所】までのものも有れば、直接渡しに行かねばならないものもある。直接渡しにいく組は【管理】は出来なくても仕方が無いって寸法さ」
「うん、何をかっこつけて言ってるのさルーシー?その通りだけどさ。まあ【管理】が苦手な人はそっちにする気だけど、あまりに希望者が多い場合は何がしかの方法で決めないとな」
「ふっ『かくれんぼ』で」
「何かっこつけて『かくれんぼ』とか言ってるのさ、そりゃあ偵察兵に有利すぎるだろうが!まあ、何か考えておこうか」
そうして、【帝国】東部を回りつくす。未だ瘴気の晴れぬ渓谷こそ無理だが、逆にそこには現状、人がいない。あっという間に貢献度を溜め込む。
多少の日が経ち、新たな武器を手に入れて、【運び屋】のジョブを次の段階へ上げていこうと思っていた時【帝都】大本営から呼び出しが来る。
宝石と言えば、筆者は天然石が好きです。
全く詳しくは無いですが見た目やさわり心地が好きです。
仕事中つけられないのが残念です。
最初に買ったルチルクォーツが紐が切れてから置きっぱなしで気がかりだったのですが、最近紐を直してもらい気持ちがすっきりしてます。
その時に黒っぽいスギライトを購入したのですが、執筆の時につけています。
はい、完全に余談です。